6:何で私が魔法研究部に…
「この試験で戻ってこれた生徒は合格って監督官が言ってたわ。」
「ほんと?やっと終わった〜。」
「書類とかは家に送付するって。」
「ならもう帰れるじゃん!」
ベンチに座り、二人は談笑していた。そんな中、庭園へとバーノイン学園の生徒達がやってくる。彼らは先程と同様に部活の勧誘をしているが、声をかけられるのは貴族ばかりである。そんな中、4名の男子生徒がやって来て、レッドベージュの髪色を持った背の低い生徒が声をかける。
「よっ!合格おめでと!オルデラン家の…アラシュ?」
「アレシュです。」
「やべっ。」
アレシュが笑顔で返答し、その生徒が軽く頭を叩いた。
「馬鹿。ごめんね?こいつ頭悪くって。この馬鹿はシャマル。俺はワルトス。よろしく。」
「よろしくな!」
アイボリー色の髪色を持つ生徒が割って入った。そしてワルトスという生徒の背からもう一人、ミントグリーンの髪色の生徒が顔を出した。
「僕はデリア。急にごめんね?あと合格おめでとう。察してると思うけど部活勧誘をしに…あっ、こっちはガルス。」
気づいていたが気づかないふりをしていた男がデリアに紹介される。ノアも覚えている。転送直前のことを。こちらに手を伸ばして走っていた長身の男。
「ああ。ガルス・アリストロキアだ。」
「アリストロキア…」
「公爵家よ。」
ノアの呟きを聞いてアレシュが耳打ちした。だが、ノアは下を向き、顎に手を当てて考える様子を見せた。
(聞き覚えがある家名ね…
公爵ってことは高位の貴族でしょ。そんなのと関わることなんて平民に転生してからはなかっ…)
ノアの目がゆっくりと開かれ、思わず彼の顔を見上げた。
(そうだ、三百年前、私に求婚して来たやつの家名だ…!それにこの血族は)
「その反応。やっぱりな。」
ノアの肩が妙に跳ねた。それはつまり、肯定である。ノアはベンチから立ち上がり、ガルスの手を引き庭園から出て行く。
「え…?ノア?」
「がっ、ガルスー!」
その他四名は何事かもわからず目を丸くしているというのに。
***
二人は庭園を囲む廊下にいた。ガルスは支柱に背を預け、手を組んでいる。こうなる事が分かっていたように。
「私の正体、気付いてるんですか。」
「ああ。上手いこと変装魔法で隠してるみたいだがな。」
「記憶があるってことですよね。アリストロキア家は
______代々先祖達の一部の記憶が受け継がれる家系ですから。」
「ああ。それはこの時代じゃ王家と一部の人間しか知らねぇ情報になってる。これで確信したぜ。魔女、ミレナ・クヴォーガー。」
そう言うと諦めたようにノアが指を鳴らし、変装魔法を解除する。急な事にガルスもぎょっとしてしまった。ノアの体はゆっくりとミレナの姿を取り戻す。
「あの人は私の魔力に惹かれてたらしいから、どーせそれで分かったんでしょうね。」
ガルスはミレナの姿を見つめる。その目は一気に輝いていた。
「転生しても、変わらないんだな。」
ミレナ本来の姿を記憶で知るガルスだからこそ、その言葉が出てくるのだろう。
「だが何故今更転生したんだ?予言では二百年後と言われていたはずだろ。」
ミレナが頭を抱えて溜息を吐いた。
「あんなの嘘ですよ。その時代で占術魔法を使えたのは私だけです。誰かがホラ吹いたんでしょ。いつ転生するのか、私も転生するまで知りませんでした。」
ガルスは指で唇を触る。
「なら何故この学園に?転生の理」
「あーもー尋問でもないんですからやめてくださいよ。私だって転生してから平穏に過ごしたかったんですから。」
ミレナが右頬を膨らませる。
「簡単に言えば潜入調査、任務ですよ、任務。」
「ふっ、まぁ詳しくは聞かないでおく。お前の正体も言わねぇ。からよ、一つ要求すんぜ。」
ガルスが支柱から離れ、ミレナへとゆっくりと歩を進めて行く。顔も近づけていくと、ミレナは益々狼狽えた様子を見せていく。
「なっ、何ですか。お金なんて持ってませんよ、平民ですから…そのーえっと、、あのー」
***
「それで…あっ、ノア!」
残った四人が語らっているとノアが帰って来たのが見え、
「おかえ……り?」
帰って来たノアは背を丸めて肩を落としていた。さらに溜息を吐いている。
「のっ、ノア?どうしたの?大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫…」
ノアの後ろにはガルスがいた。何処か満足感が漂う様子で。
「何でそんなニヤついてんだよ。」
「どうしたの?」
「や、ちゃんと働いたぜ。取り敢えず一人ゲットな。」
「……あ〜。ナイスだね!ガルス。というかガルスのお目当ての子ってこの子だったんだ…」
ガルスの意図を理解したデリアは親指を立ててみせる。その様子を見たワルトスも同様に納得する。
「ならこっちもだよ。」
ワルトスはアレシュを見た。そこから察したノアはアレシュに尋ねる。
「アレシュも?」
「ええ。入学してからもよろしくね!」
「うん、よろしく。アレシュ。」
(といってもこんな友達ごっこもすぐ終わる。タイトを突き止めて、"アレ"も探し出せばここにいる理由はもうない。)
(けど
______私がいなきゃ、
この子はどうなるんだろう。メイの二の舞に…)
「でもノアは何で魔法研究部に?」
「えっ…?!あー……」
それは数分前に遡る。廊下での出来事。
「一つ要求すんぜ。」
「なっ、何ですか。お金なんて持ってませんよ、平民ですから…そのーえっと、、あのー」
「俺の部に入れ。」
「__________え?」
予想外の言葉にミレナは硬直した。
「部って…?」
「魔法研究部。そのまんまだ。だが魔法に秀でたやつした入れねぇ。」
「その、私にはメリット無さそうだし、目立ちたくはないので…」
「ならお前の正体を」
「あー!待って待って!
_______分かりましたよ。」
ミレナは少しばかり考えたが諦めて手を上げる。
「お前にとっても損って事はないはずだぜ。潜入調査つっただろ。」
「ええ、何か関係が?」
「魔法研究部は騎士学園の方とも関わる機会が多い。合同練習もあるしな。それもあって自由に学園を回れる。情報収集もしやすい。どうだ?」
決まった、と得意げな顔をしてガルスは含み笑いを漏らす。白い肌と白髪、そして整った顔でそう魅了する。だがミレナには効かない。パーティーメンバーのある人のせいでそれには耐性がついている。
「不服ですが潜入調査が楽になるなら仕方ないですね。
___________はぁ。」
(なんて事言えるわけないもんなぁ…)
ノアは唸る。そして少し心配そうな顔をしたアレシュがノアの顔を覗こうとした時、
「あっ!えっと、ほら、魔法学園に来たのに魔法極めなきゃ意味ないじゃん!」
「確かに!そうね。」
ノアは誇らしげに答えた。ただ一人、内心笑っている者がいたが。
(もう極めてんだろ、魔女様?)




