3:魔力量測定
「全ての生徒が終わったため、一時休憩を挟む。二次試験に備えるように。」
監督官の声で受験者たちの緊張が解かれたのを感じた。生徒たちは胸を撫で下ろす。一人、そしてまた一人と周りの受験者が他の受験者たちへ話しかけている。貴族は貴族へと、平民は平民へと話しかけ始める。一般属性の列に並んでいたノアには到底話しかけることのできる相手はいなかった。平民は皆、光属性と闇属性のみに集中しているからだ。ただそんな中、貴族であるにもかかわらず誰とも関わらずに一人立ち尽くす者がいた。その者は何をすることもなく指をこねて下を向いている。肩につくほどの藍色の髪を下ろして。見たところ貴族で間違いないようだが誰一人話しかけはしない。なんなら避けているようにさえ見える。列を見たところすぐ隣だから水属性なのだろう。することもないので学生らしくお友達づくりから始めよう、そう思いノアは近づいた。
「こんにちは。」
「____えっ。」
話しかけると相手は何故か驚いていた。何か失礼でもしただろうか。
「急に話しかけちゃって申し訳ありません。」
謝った時に少し屈み、彼女の顔を覗いた。その時、ノアは瞬時に何故驚かれたのかを理解した。そして左腕に付けているアクセサリーを指さして言う。
「そのブレスレット、とても綺麗で可愛いですね。」
「えっ______」
彼女は顔を上げてしっかりとこちらを見た。
「えっと、、何かお気に触りましたか?」
彼女の瞳には薄い膜が張られていた。口元を震わせて。裾でその涙を拭って彼女は繕った笑顔を見せた。
「いえ、そんなことありません。嬉しいんです。ありがとうございます。」
「それは良かった。私はノア・ヴィーテントと申します。どうぞノアとお呼びください。」
「よろしくお願いします、ノア。私はアレシュ・オルデランと申します。私のことも気軽にアレシュと呼んでください。」
「ええ。よろしくお願いします、アレシュ。」
(勿論ご存知ですよ、アレシュ様。)
学園の潜入が目的だが、そのための試験も当然大事になる。ここでの振る舞いが入学後に影響すると言っても過言ではないからだ。そのためミレナはクローカーに試験に参加する貴族たちの情報を仕込まれていた。
「もしよければ…敬語はなしにしませんか?」
「嬉しいです!けれど良いのですか?私は平民です。」
「そんなこと気にしないわ。」
「ありがとう、アレシュ。」
「よろしく、と言っても試験限りじゃなきゃ良いんだけどね。二次試験もまだあるし…」
アレシュが自分の手の平を見つめる。一度目を強く瞑ってからノアもその手を見つめる。
(………)
ノアの瞳には魔法陣が描かれ、瞳の中で上下左右に動いている。三秒ほど動いてからその魔法陣は消え、ノアが口を開く。
「アレシュなら大丈夫。必ず受かるわ。これでもし合格じゃないなら学校側がおかしいのよ。」
アレシュは急いでノアの口元に人差し指を立てた。そして、
「シーーー!学校のこと悪く言っちゃだめ!どこで聞かれてるかわかったもんじゃないんだから!」
そう小声で言われてみればノアは何も言えない。
「けど信じてくれて嬉しい、ありがと。」
彼女は朗らかな笑みを見せた。すると、スキンヘッドの監督官の声が響き渡る。
「これよりニ次試験の会場へ向かう!皆着いてくるように!」
案外休憩長かったな、と思い列の前にいる人に続こうと並び直そうとした時、
「オルデラン家のやつと平民が……」
「異端者同士…」
「目障り…」
汚れた言葉が行き交う。アレシュも耳にしたのか俯きかけた時、
「アレシュ、何があっても下を見ちゃだめ、堂々としなくっちゃ!」
ははっと笑い、
「……本当に、ありがとう。ノア。」
***
「試験の前に皆にはこの水晶で魔力量測定を行ってもらう。」
女性の監督官が台座の上に置かれた水晶を手で包んだ。そしてゆっくりとその手を撫でるように動かす。
「我が命じる。内なる力を顕わしたまえ。起動。」
水晶が強い光を放ち、すぐに消える。
「どうぞお並びください。」
受験者たちが一列に並ぶ。アレシュの後ろにノアが並んだ。ノアがアレシュの肩を叩き問いかける。
「あの水晶は何?魔道具?」
「そうよ。あの水晶に限界の魔力を注げば自分の魔力量が分かるの。注いだ魔力量も終わればすぐに返ってくるわ。」
「へぇー…ならさ、自分で結果決めれるじゃん。」
「え?」
「だって注いだ魔力量で結果が出るんでしょ?ならわざと結果を低くすることだってできるじゃない。」
アレシュは首を傾ける。
「なぜそんなことをするの?」
「あーー、えっと…試験内容ってさ、その人に合ったレベル…とかになりそうじゃない?だから結果を低くしたら試験も簡単になるかな〜って…」
「____確かに!でもそれって」
「アレシュ・オルデラン。測定を。」
「あっ、はい!」
話していたらいつの間にかもう順が回って来ていた。アレシュが言うようにズルと思えるかもしれない。だが『測定器に“全力で”魔力を注げ』なんてことは一言も言われていない。それにここで測ると言うことは学校側も受験者達の値を知らないと言うことだろう。
「いっ、いきます…!」
一般的に、0〜100が平民。100〜150が大体の貴族。魔力量が多い方と分類されるのが150以上。そして、上級魔法使いが180〜250、特に魔力量に重点を置いた魔術師が250〜280、と言われている。
「わぁぁ!」
水晶は力強く蒼光を放ち始めた。輝く光の色はその人の得意属性によって異なる。そして光の強さはその魔力量に応じる。ここまで光ると言うことは、、、
「なっ、なんと…」
「この数字は…?!」
監督官達が声を上げる。それもそのはず、水晶に映された数字は228。齢15の受験生の魔力量が上級魔法使い並みなのだ。
(上級魔法使いの上でも上位の方だ。なぜこの歳で…?)
ノアはアレシュの様子を背後から伺う。しかしアレシュの表情も周囲と変わらない。
「すごい!アレシュ!」
「や、私もびっくり…」
(やっぱり、初めて測ったのね。)
魔法使いを目指す者はまず魔力量測定を行う。それから目指す値まで努力する。それが一般的な流れだ。
(努力なくして生まれ持った魔力?)
ノアは腕を組み首を傾げ、悩んでいる仕草を見せた。「んーーーー」
「次、ノア・ヴィーテント。」
「はい。」
水晶に右手をかざす。
(才能でここまでの魔力量を持つことはそうそうないはず。ということは…いや、他人のことに踏み込んじゃダメね。)
「_______!」
水晶が点滅し始め、皆が目を隠す。
「なにっ?!」
ノアだけは目を覆い隠すこともなく平然と手をかざし続けていた。一秒程点滅し、すぐにその光は消えた。水晶は先程までの煌光を失い、翠光を放つ。映された数字は、
「120…ですね。」
「では、さっきの光は…?!」
「アレシュの後だからです。急に大きな魔力を注いでしまったのですから、多少異常が生じるはずです。おそらくもうあのように瞬くことはありません。」
監督官達はノアの発言を神妙な顔で聞き終わり、顔を見合わせた。そしてスキンヘッドの監督官が前に出て、水晶に手をかざす。水晶からは紅光のみが放たれる。
「確かに…よし、前に進め。」
「ありがとうございます。」
ノアは監督官を通り過ぎ、アレシュの元へ行く。二人は前に歩く生徒達に続いた。
「急にすっごく光ったからびっくりしちゃった。」
「アレシュの魔力が多いからよ。何で今まで測らなかったの?」
二人は歩き始め、ノアがアレシュの顔を覗き込んで様子を伺う。
「本当は騎士学園に行くはずだったの。だけど親の反対を押し切って、無理矢理こっちに入学しようとして。魔術に関して何も勉強させてくれなかったわ。」
苦笑しながらアレシュは淡々と告げる。
「そうだったんだ…」
(やっぱり。)
先程、ノアがアレシュの手を見つめていたのは鑑定魔法で魔力量を測っていたのもあるが、本当の目的は度々気になっていた手の平の硬い皮膚だった。騎士を目指す者特有の皮膚、さらに…
(いや、そもそもあれは剣士じゃない。騎士の中でも…)
「魔力量測定を終えた方はこちらでお待ちください。」
監督官の声が聞こえた。彼女が言う場所には測定を終えた受験生達と制服を着た生徒達がいる。
「バーノイン学園の…先輩?」
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