2:一次試験
誤字ありましたら申し訳ないです。
レイ・バーノイン学園
そこは騎士学園と魔法学園が併立された学園。敷地の広さは国内の学園の中でも最も広く、設備も完全に整っている。才能を兼ね備えた者しか入学、編入は受け付けない。それは貴族も平民も平等である。この学園の卒業生と言うことだけで輝ける将来は約束されるも同然。しかし留年することもなく卒業できるのはごく僅か。それでもハイレベルな能力を身につけることができ、誰もが憧れる学園生活ができる。
***
今日は魔法実技試験当日。大勢の受験生がバーノイン学園の門を通って行く。大体の生徒は誰かと共にいて、一人だけで門を潜ろうとする人は少なかった。貴族が多いのは貴族は平民よりも魔力量が多く、技能も優れて生まれる傾向があるのと財力だろう。貴族かどうかは言わずともがな見て分かる。平民は貴族とは違い、使い古された服装、対して貴族はこの日のために用意したのかと思われるような新品の服装だ。騎士学園の試験日も同日だから特に男性が多い。騎士学園では女性の数が圧倒的に少ない反面、男性の割合は魔法学園にも勝る。
そんな様子の門へと黒髪の少女が歩いて行く。長い黒髪を低く括り、縁の大きい眼鏡をかけた、いかにもどこにでもいるような平民が。門を通ってから右手に方向転換する。一気に男性の割合が減って男女共に見られる。後ろを軽く見てみれば騎士学園に続く、先程分かれた道の左手の道には男性ばかりが歩いていた。人に流されつつ、少女は試験会場へと向かって行く。
人々が行き着いた先には七つの列が並んでいる。その先にはそれぞれの列に配置された監督官。さらに円の形の的が壁に掛けられていた。
「得意属性の列に並んでくださーい。」
教師らしき人が受験生たちに呼びかける。左から、炎、水、風、土、雷、光、闇。黒髪の少女は風属性の列に並ぶ。大体の受験生が左からの五つに並んでいるが稀に見る平民は光、闇に並んでいる。光属性と闇属性は少ない、そのため平民が選ばれるとしたらこの二つの属性の生徒しかいないのだ。そんな中、黒髪の平民が風属性に並んでいることを不思議に、もしくは興味を持ち、チラチラと見る生徒が多数いる。少女はその視線を煩わしく感じつつも無言で目を瞑る。時間になって、スキンヘッドの筋肉質な監督官が拡音魔法で話し始める。
「これ以降、遅れた生徒は即刻失格とする。」
(あんな体で騎士じゃなくて魔法学園の教師なんだ…)
少女がその監督官を見つめていると、
「なぁ、あれ、、」
「うわっ、平民だ…」
「なぜ一般魔法の列に。」
「恥をかくのは自分だというのにね。」
(____聞こえてるわよ)
先程までの視線が一人の生徒の声で一気に悪化した。
受験生たちの自分に向ける言葉を流しながら監督官を見る。
「これより君たちにはそれぞれの得意属性魔法で前の的を狙ってもらう。」
そう言いその的を指差す。
「チャンスは五回。そのうち最低でも三回、的を当てなければ失格とする。
____これより魔法実技、第一次試験を始める!」
風属性の列に立つ女性の監督官が言う。
「風属性では前の的を風魔法で落としてください。」
風属性の列にある的は支柱に打たれてる釘に紐で吊るされている。落とすだけとなれば簡単にも思えるが、正面からの力任せの風魔法だと奥へ進めさせてしまうだけだ。工夫して落とさなければならない。それぞれの最前列の生徒達が詠唱を始めた。
(魔法学園の試験にしてはレベルが低いような…
そう言えばこの時代の魔法、ちゃんと見たことなかったな。)
少女は自分の列の生徒を覗いた。その男子生徒は訳も分からないポーズをとり始める。左手を顔の左側に置き、指の隙間から目を覗かせる。右の指でクルクルと宙を描く。
「我が命に従え、大いなる疾風よ、巻き起これ!」
(何あれ…)
その指先から疾風とまではいかない風を吹かせる。その風は的の左下を押して的が落ちた。
「すごい!」
「見事だ…」
何故か感嘆の声を上げる。
「え、、えぇ……」
(魔法のレベルってこんなに落ちちゃったの?!)
この場で眉を下げるのは少女だけだろう。的もおそらく落ちやすく設計されている。他の生徒も似たような魔法で、あまり楽しめない時間が流れていく。失格となった生徒は来た道を帰らされている。彼らの表情は悲しみや悔しさが浮かんでいた。
(そんなに学園に通いかったのかな。)
彼らの表情を見ていれば少女の順が来た。監督官の女性が言う。
「名前を。」
「____ノア・ヴィーテントです。」
ノア・ヴィーテント、それは学園内での仮の名前。本名はミレナ・クヴォーガー。任務により学園に来た、遥か昔、魔王を打ち倒したパーティーメンバーの一人。学園内で自分が魔女とバレないよう隠すため、変装魔法を使い銀髪を黒髪にしている。だが、変装魔法を施したこのノアとしての姿は転生して、ある程度成長してからは大体はこのままだった。
「はい、では始めてください。」
ミレナの魔力量は今はこの体に収まる程しか持ち合わせていない。それでも他の受験者達よりも圧倒的に勝る。それは魔法の技術においてもだ。だからこそ難しいのが
(平均を取ること。目立っちゃダメよ。)
指先を的に向ける。
「風ぇぇぇ」
「え?」
「ん?」
「は?」
「ぁえっと…風、よ?あーえっと、吹け!」
いつものように一言で終わる『風』の言葉だけでは足らぬことに気づいて急いで付け足した。なんとも見窄らしい詠唱か。慌ててしまったからか、かなり弱めたが烈風が起き、的を空高く宙に飛ばし落とした。この時代の魔法では風魔法が最も扱いが難しいとされている。その中でもコントロールに繊細な技術が必要なのが下から上への風魔法。ミレナにとっては朝飯前のこと。そのため深く考えずに兎に角軽く落とすことに目を向けてしまっていた。
「風が、強い…?」
「すごい…!」
「平民が上向風魔法を…?!」
「あれって上級魔法使いでも難しいんじゃ…」
観衆の生徒達の声が聞こえる。彼らの様子も見たくなくて落ちた的を見つめ続ける。
(______シクジッタ
もう何の詠唱言ってたか覚えてないだよなぁ…)
魔法はイメージの世界だ。だから詠唱はその人に合ったものを使う。だがごく僅かの極めた者達はその詠唱を短縮できる。ミレナはそのまた例外だ。イメージを言葉にして現実に現す、といったことまで考えずとも前置きの言葉さえ言えば思った魔法を実現できる。なんなら無詠唱でも一応可能な程、ミレナの魔法は完璧に磨き上げられている。それは才能と努力の結晶に他ならない。
「えっと、、二回目、お願いします。」
「ハイ…」
次は両腕を的に向けて顔に汗を浮かべつつ目を瞑って形だけの詠唱をする。
「ぇーーーっと、、疾風よ、顕れよ。」
いい感じに的に風が掠れて軽く的を揺らす。
「まぐれじゃねぇか。」
「やっぱ平民風情が貴族より勝るわけがないな。」
後ろをにチラリと視線を移した。彼らに燻んだ瞳を向けつつ、
(____呆れた。)
その後も一回ミス、そして二回成功させた。
「合格です、列に戻ってください。」
そう言われて列の最後尾へと歩き出す。戻っているとノアが歩く道の先にある校舎と校舎を繋ぐ渡り廊下に生徒が集まっていた。
(在校生かな。)
その生徒達の顔を見渡すと一人、その場の中で最も輝いて見える男子生徒がいた。さらりとした金髪に宝石のように澄んだ青い瞳、そして美しく整った顔。周囲には女生徒が集っている。ノアがその生徒を見た時、金髪の彼もこちらを見た。
_______否、見ていた。
ノアと目が合った時彼の瞳は大きく開かれ、驚いた表情を見せる。しかしすぐにその顔は爽やかな笑みへと変わった。
(誰?
けど、
______似てるな…)
ノアの脳内でとある人物が思い浮かんだ。そしてその人物と顔を比較する。
(そっくりだ。けど、、、まぁーいるわけないか。)
ノアは彼から視線を外し、そのまま最後尾に並んだ。
今まで創作でやって来たので初めての壁にぶち当たりました。名付けという壁に…




