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転生後、任務先は魔法学園でした  作者: づず
第ニ章 巣から旅立つ子
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6:正体を隠す虚言

「ノアー!ルーシャ!」

階段の下からザインの声が聞こえ、二階に響き渡る。

「今行くよー。行こっか、ノア。」

そう言いルーシャは部屋から出る。それに気付き、新たな自分の部屋に見惚れていたノアが彼を追う。


階段を降りた踊り場に着いた時、ある人が壁に体を預け二人を待っていた。寮に入ってから揃って一緒にいる姿ばかり見ていたからか、一人でいることに違和感を抱く。

「夕食の準備ができました。それと、ノア。少しお話が。」

何の話か、それは分かりきっていたことだった。

「なら僕は先に降りとくよ。」

ルーシャは階段を降りながら軽く手を振った。それを二人は何も言わずに見送る。彼の姿が消えてもなお。重い空気を感じたノアは視線をゆっくと彼とは反対の方に動かしていた。彼は空気を切り替えるように、すっと眼鏡のブリッジを軽く押し上げ、ノアと向き合う。その動きを感じ取り、ノアも同じく正面を向く。

「先程の試合、素晴らしかったです。ただ、ひとつ質問が。」

「ザイン先輩を転倒させた魔法、ですよね。レイン先輩。」

レインは軽く頷いた。

「あれは七属性に縛られない、古来魔法。しかしその魔法は複雑で、誰も受け継ぐことができなかったため三百年前に滅んだ、と学んだことがあります。


_____なぜ、あなたが古来魔法を使えるのですか。」

彼の瞳が眼鏡の隙間から窺える。彼の顔は下方向に向けていたが、視線はノアを真っ直ぐに見据えていた。いや、ノアと言うよりは寧ろ、ノアの内側に隠れているミレナを見透かそうとしているようだった。その瞳に見つめられ、ミレナは背筋が冷えたのを感じた。

それでも正体を勘付かれてはいけない。必ずや騒ぎになるからだ。ノアは声色を明るくして話し始めた。


「流石です。よくぞお気付きで。そう、私は古来魔法を使えます。何故なら______」

ノアは神妙な面持ちをする。レインは軽く唾を飲み込んで続きの言葉を待つ。

「実は____」


「私!幼い頃教会に勤めていたことがあるんです!」

「______は?」

レインは組んでいた腕をぶらりと下に落とす。目を見開き、顔には困惑が浮かんでいる。だがノアは止まることなく進めていく。

「聖女の像を拭いていたある日、急に魔術式が浮かんできて!それが!古来魔法だったんです!」

「____いやっ、ちょっとまっ____」

「それ以降、何故か古来魔法が使えるように…私の使える魔法は風属性ぐらいなのにっ…。」

「はあ??」

「おそらく私は前世聖職者だったのでしょう…だからか神聖魔法も扱えるのです。なんだか手を合わせていた記憶もあるし…。」

ノアは右手を頭の後ろに置いて柔らかい笑みをみせる。目の前のレインは普段からは考えられないように崩れた表情。

「いやぁ〜前世徳積んどいてよかったです!あっ、みんなには内緒ですよ?」

ノアがレインの顔に一気に近づく。驚いたレインは体を後ろに動かすが壁に当たる。ノアは口元に手を当てて、口の動きをレインにだけ見せるようにして小声で話し出した。側から見れば恋人達の戯れのようにさえ見える。

「バレて教会に戻されるとか王室に連れてかれるとか嫌ですから。」

ノアは体を元に戻して満面の笑みで、

「と言うことで。夕食いただきましょ!」

ノアは元気よくそう言い残してその場を去る。彼女の勢いと驚きで髪や服を崩し、動かないレインを置いて。




(誰かに、見られてたような…。)



***


ノアは階段を降りてリビングに着く。既に皆、愉快に話しながら食事を始めていた。

アレシュ、ティア先輩、ザイン先輩、ルーシャ、ベルゴ…

(__ん?あと二人…レイン先輩はいたけど、ハイヤ先輩がいない。)

テーブルを前に立ち止まっていたノアに気付いた彼が振り返って声を掛けた。

「ノア、話終わった?」

ルーシャが彼の隣の空いている席をぽんぽんと叩く。ノアがそこに腰を下ろした。

「うん。わぁ、美味しそう…。」

ノアは目の前に置かれた食事を前にし、目を輝かせた。そこには絶妙な焦げ目のついた肉料理と鮮やかな野菜、さらに今の時期には有り難いスープもあった。

ノアのまた、隣に座っていたアレシュが口を開く。

「スープ冷めちゃった…。」

アレシュがそう、落ち込んだように話し、ノアが手を振って慌てて言う。

「私が遅かったからよ。それに、まだ少し温かいわ。」

スープの皿部分を両手で包み朗らかな笑みで伝えた。その隣で、彼はまた、少しばかり口角が上げられていた。

「ねぇ、ハイヤ先輩は___」

「悪い悪い、遅れたね。」

言葉にした時丁度、本人が背後から現れた。そしてその後ろからはレイン先輩が。

二人はそのまま空いていた席に座る。

そして自然と食事を始めた。何故遅れたのか、気になるところではあるが。ノアも同じく食事を始めた。ナイフで切った肉を口に入れた時、

「____美味しい。」

誰にも聞こえない、微かな声でそう呟いた。

そんな彼女を、一人の、いや、二人の男が見ていたのだ。

それは隣に座るルーシャと___


(_______瞳孔の拡大、呼吸数減少、声に揺らぎ。

フェイク、でしょうね。)


その男は美味しさを噛み締めている少女を見つめて、いや、観察していた。

その観察者の瞳には全てが疑いに映っていた。

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