3:剣vs魔法?
「ようこそ、オーブ寮へ。」
ノアとアレシュは目を開く、眩い光の正体は上に吊るされた古いシャンデリアだった。
「オーブって確か、再生…」
そう呟きながらシャンデリアに目を向けた。付けられた火は小さいが数が多かった。それも全て光が強い。
(鑑定)
ノアの目に魔法陣が描かれ、火を見つめる。
「魔法でつけた火ね。少しだけ、強化されてるわ。」
「へぇ、ノアそんなことも分かるのね。」
「えへへ。」
目の前には広い階段。ふと視線を向けた時、上から音が聞こえてくる。
ドタドタドタドタドタ
明らかにこちらへ降りて来ていた。全員がそちらを向いてると、左側の踊り場から茶色の跳ねた髪が現れた。
「ただいま、ザイン。」
ルーシャのその言葉で満面の笑みを浮かばせた顔が現れた。
「お帰りなさい!ルーシャ!」
階段から降りて来た背の低い少年は勢いよくルーシャに抱きついた。その勢いをルーシャは少し揺れながらも受け止めた。ノアがチラリと少年を見た時、少年と目が合った。
「新寮生の子?」
つぶらな瞳で見つめられ、少しだけ母性がくすぐられた気がした。
「はい、ノアと申します。」
「アレシュと申します。」
二人は笑顔で応える。
「ふーん。どっち?」
「「え?」」
少年はルーシャから離れ、二人の目の前に立つ。背が低いため必然的に見下ろす形になってしまう。
「騎士か魔法か。」
少年の表情は先程と打って変わって険しくなっていた。
「私もアレシュも魔法学園の生徒です。」
「…………。はぁぁぁぁ。」
眉を下げ、長い溜息を吐かれた。こうも失礼な態度も取られれば感じた母性もさっぱりと消え失せた。
「なんだ、魔法か。雑魚じゃん。」
(んだとこらこのクソガキ。)
そんな小言をなんとか心だけに留め、眉をピクつかせながらノアが口を開いた。
「失礼ですが、魔法使いが必ずしも弱いとは限らないかと。」
「魔法使い目指す時点で雑魚ってこと。なに?頭もわるっ」
ルーシャが少年の頭にチョップをかまし、言葉を遮った。ルーシャは片頬に空気を含ませて言う。
「こらザイン。そんなこと言っちゃダメでしょ。」
「だっ、だってぇ。寮のイメージダウンもあるし、、弱い奴が寮に入って欲しいくないっ」
もう一度頭に衝撃を与えた。少年が痛がり、頭を触った時、
「あっ。ならさ、そんなに言うんだったらあんた、僕と戦ってよ。」
そう言いノアを指差した。
「「「………」」」
「ちょっと待ってください!ノアはまだ一年生で魔法の勉強だってこれからで!」
ノアはアレシュの口元にゆっくりと人差し指を置いた。アレシュの口が止まったのを確認してから、ノアは笑顔で指だけを向け、上を指差す。円を描くように蝋燭が置かれたシャンデリア。その蝋燭に灯る火を風魔法で操り、火円を描いた。それを三人が見つめる。見たこともない魔法に少年は戸惑った。詠唱なしに魔法を発動するだけでも驚きだが、魔法使いとして学んではいない少年は事の重大さに気付かなかった。それでもノアへの印象は少しだけ変化したが。
「構いませんよ。もし私が勝てば魔法使いへのそんな偏見は捨ててください。」
「……ああ、いいよ。僕が勝てば寮生とは認めない。野宿でもしてもらうからね。」
腕を組み自信満々な少年。彼の様子に諦めたようにルーシャも溜息を漏らした。
「先外出といて、みんな呼んでくるから。」
そう言い残し、来た階段を登って行った。
***
木の枝にいた小鳥達が空へ飛んでいく。太陽はもう四五度程には傾いていた。
だが幸いにも辺りはまだまだ明るい。場所は玄関から少し遠かった寮の前。ノアと少年が対するように立つ。それを見守るようにルーシャとノアが、そして三人の寮生が見守っていた。
「ルーシャ、あの子大丈夫かい?」
「ん?あぁ、ハイヤ。」
ルーシャの隣にハイヤと呼ばれた長身の男が立つ。彼は腕を組みながら心配そうな表情だったが、ルーシャは笑顔で満足気に答えた。
「大丈夫さ、僕が知る魔法使いの中で一番優秀だ。」
「はは。まだ魔法使いにはなっていないだろう?」
「……そうだね。」
そう言われることを承知していた。それでも彼女を、ルーシャは魔法使いと呼びたかったのだ。そんな中一際大きな声で少年が声を出した。
「始まりの合図は先輩がお願いします。」
ルーシャが足を一歩踏み出そうとした瞬間、隣から違う者が声を上げた。
「あぁ、なら僕がするよ。」
そう乗り出したのが眼鏡を掛けた長髪で長身の男性。
「珍しいじゃないか、君がこうも乗り気とは。」
ハイヤと呼ばれた男がそう言う。
「少し……気になりまして。」
男がノアに視線を移す。同じくして視線を感じ取ったノアが少年から彼へと視線を移した。数秒見つめ合った沈黙の後、男が腕を上げた。
「戦闘不能な状態になれば、即刻勝敗を決める。
棄権を認めるものとする。
以上。公平な試合を願っている。
試合開始。」
そう言い、腕を振り下ろした。
その瞬間、少年は抜いた剣を持ち、ノアへと向かって行く。ノアはゆっくりと手の平を下に向け、
「風、剣」
そう唱えると、ノアの手の平から風のように渦を巻いた剣が生まれた。
少年を含む全員がそれを見て目を見開く。
「短縮詠唱、と言うよりは無詠唱に近い。さらに…剣?」
試合開始の合図をした男は小さく呟いた。
ノアはその剣を掴み、両手で構えた。速度を加速してこちらへ向かってくる少年が横に剣を振る。ノアが剣を縦に持ち、その攻撃を何ともないかのように無表情で軽々と止める。その動きだけで少年はノアの剣の技能に気付く。
「あんた、、、剣使えんのか。」
少年は苦し気な表情で話し掛けた。
「……この程度、造作もないですよ。」
「風」
剣を形作る渦が広がり、足を浮かせた少年を後ろへと離した。
(こっちだって多少は魔法使えるしっ…!)
少年は剣を縦に持ち直し、唱えた。
「自然の力よ。我が剣、我が身に力を与えたまえ。」
剣と身体が一瞬光を放った。
(武器と身体の強化魔法ね。剣士ならみんな使えるでしょうけど。)
少年が再びノアへ走り、攻撃を仕掛ける。先程よりも明らかに速度を早く、攻撃を重くして。だが少年の攻撃をノアは変わらず流していく。
「防いでばっかじゃん。攻撃しなきゃ勝てないよー?」
「そうですね。」
ノアは笑顔で答えた。その笑顔を見た少年は顔を歪め、攻撃をより早く切り出した。二人は勝敗の見えない戦いを続ける。
「あの子、剣も使えるじゃないか。それも相当上手い。味が出てる。ルーシャ、君ともいい試合ができるんじゃないかい?」
目を輝かせてハイヤはルーシャに話し掛けた。
「それはお断りしたいな。」
対するルーシャは驚きも何もない。ただ、苦笑を漏らしなが答えた。
「魔法の才能もありますね。いや…才能というよりはむしろ本物としか思えません。」
「ははは…」
「どう?君より強そうかい?レイン。」
「____さぁ、どうでしょう。」
レインと呼ばれた男性は重い口を開けた。
その後、ノアが後ろへと下がり、少年が追いかけてくるように走ってきた。再び横からの攻撃を繰り出そうとした瞬間、
「解除」
ノアが指を鳴らした。




