1:②僕だけの魔法使い
内容濃くなってきたので一章から読むことをお勧めします
「やっと見つけた、僕だけの魔法使い。」
ミレナは恐る恐る口を開いた。
「…ルージア?」
彼は目を細め、爽やかに微笑む。
「そう、君だけの剣士だ。」
ミレナは立ち上がり、俯きながら彼の元へと足を運んで行く。そんなミレナを見て男は目を瞑って手を広げる。
「会いたかったよ、僕のプリンセ」
ミレナは窓を閉めた。
窓からはノックの音が聞こえ、窓が揺れる。
「ミレナ?」
「______ひっ」
「ひ?」
「ひひひとりごとだしっ!べべつに、本当に思ってるわけじゃっ……ないし…」
ミレナの顔は全面、熟れた林檎の色。
「だっ第一!人の独り言を盗み聞きなんて…人ん家の窓に来ないで!」
「あぁ、それはごめんね?君の気配を感じ取れたから急いで来ちゃった。玄関からお邪魔するよ。」
コンコンコン
「え?」
そして再び、一階からノックの音
コンコンコンコンコンコンコンコンコンコン
「____はやぁ…」
ミレナは一階へ降りて玄関のドアに立つ。目を瞑って指を鳴らした。ミレナを纏う空気が揺れ、頭から己の姿をノアへと変えていく。ノアはどこか嬉しそうに口角を上げて扉を開ける。
「初めまして。僕はルーシャ、ルーシャ・ヴェルンだ。恥ずかしながら、僕は君に一目惚れしてしまったようだ。」
「_____ふはっ!」
膝をついてそう言うルーシャという男にノアは、堪えきれずに笑いを吹き出してしまった。
その男の姿は正直、元のルージアとそっくりであった。ルーシャ・ヴェルンと言う名はルージアの仮初の名前なのだろう。顔も他のメンバーに比べると割れていないため気付かれることもないはず。
「そう。私は興味ないけどね。
___え名前全く変わんないじゃん。」
そう突っ込みドアを開けたままノアは家の内に戻る。何も発せずとも伝わったのか。
「君は変わらないな…お邪魔するよ。」
ルーシャは中に入ってく。
「なに?」
「何でもないよ。そうだ!君も寮に入るんだろ?君を迎えにきたんだ。」
ノアはテーブルに置いていたバッグに触れ、なぞったがその手を止める。
「ルーシャ、貴方も寮生なの?」
「もちろん。その方が調査にも都合がいいしね。」
「あっ、調査!」
ノアは思い出したかのように勢い良くルーシャの目の前に顔を寄せた。ルーシャは変わらず笑顔のまま、
「わぁお。」
「どう?まど…いや、タイトの件。奪われた生命力の行く先。」
(今覚えば三百年前、完全に消せたか確認しとくべきだった、私の責任だ…)
「今のところ成果はなしっ。____ごめんね。」
「別にいいよ。うーーーん…」
ノアは顎に手を置いて考える。そんな彼女の様子をルーシャはじっと見つめる。頭から爪先、顔のパーツまでじっくりと。そんなルーシャからの視線に気付いたのかノアが頬を薄く赤らめて彼を睨んだ。
「なに…?」
「いや?何も。」
「あっ、なら魔道具自体の調べは?」
ノアは変わらず赤みを帯びた顔をして尋ねた。そんな彼女の照れ隠しにルーシャは困ったように眉を下げ、苦笑を軽く漏らした。
「そっちもさっぱり。ただタイトを流す魔道具、ドゥルヴェナ。それを持った生徒がよく見られる。」
「ドゥルヴェナ…_____そう、生徒にもいるのね。」
ノアは俯いて言葉を溢した。
「ああ、騎士学園の方は対処しているけど魔法学園の方は僕じゃできない。」
「わかった、そっちは私がどうにかする。」
ノアはバッグを手に持ち玄関へと歩き始めた。
「もう行くの?当分この家とはお別れだよ。」
「もう十分よ。そのうち帰ってくるわ。それより時間が押してるの。私を迎えに来てくれたんでしょ。」
ドアノブに手を掛けたノアが振り返ってそう言う。
「ああ、行こうか。君の第二の家に。」
二人の英雄がその家から姿を消した。
***
二人は学園内に建てられた寮へと向かい、人々で賑わった市場の通りを歩いて行く。ノアは変わらずローブを被る。このローブは保険のためだった。稀に姿を見ただけで変装魔法だと見抜ける魔術師、魔法使いがいるのだ。
(転生後も姿がミレナじゃなかったら変装魔法なんてしなくてよかったのに、無駄な魔力の消費もしなくて済んだのに…)
ノアは小声で唱えた。
「防音結界」
その瞬間ノアとルーシャの頭上から薄い緑色の半球型の円が生まれ、二人を包んだ。
「ノア、さっき言い忘れていたんだけど、僕は
____ドゥルヴェナがそれほど脅威とは感じないよ。」
ノアが足を止めて訝しげな目を男に向けた。それに気付いた彼も足を止めて振り返る。
町の人々は二人を気にすることなく歩いて行く中、二人には重い沈黙の時間が流れた。
ローブの下から薄く目を光らせて彼を凝視する。顔は見えずとも声の重さで感情が伝わる。
「正気?生命力を奪って毒を注入するのよ?なぜそう思うのか理解できないわ。」
彼は腕を組んで首をひねった。短い唸りが聞こえて、
「勘?」
拍子抜けの答え。ノアがため息を漏らした。
「貴方の勘はやけに当たるから___」
「それはどうも。」
ルーシャはどこか満足げに言う。
「クロから君が手に入れたドゥルヴェナを預かってるけど、調べるなら君に返した方がいいよね?」
「…………いや、あなたが持ってて。」
「そう、わかった。」
「話は変わるんだけど、魔王の核の方は?」
そう、勇者パーティが学園に調査に入る理由の二つ目、魔王復活のための核を手に入れること。
「気配は感じるんだ。ただ、あまりにも薄く、あまりにも広い。」
「どういうこと——」
「そこのローブ被ったお嬢ちゃん。」
ローブを被った年若い娘など一人しかいない。声のする方を向けばそこには老婦人と見慣れたとあるお店。
タグつけるべきか悩んでることあるんですよね。つけなくてもいいのか、でもつけなかったら地雷踏んじゃうかも…っていう。




