バルコニーの二人
レクサの手にぐいぐいと引かれ、気が付けば僕はバルコニーの外にいた。バルコニーの扉が閉まると、大広間の喧騒が遮断され、本来のトレドの城の静けさが広がっていた。意外なことに、バルコニーに出て休んでいる者は他にいなかった。秋口とはいえ、もう既に寒いせいだろうか。バルコニーの外に広がる森からは、謎の鳥や虫、魔物と思われるものの声が時々聞こえてくる。不気味というよりは、穏やかな生命が繰り出す音だ。
「何だい、話って」
レクサは、大きなブルーの瞳をさらに大きくして、僕の顔を見つめた。何度か瞬きをしたあと、彼女は小さくため息をついた。
「デュロは鋭いのか、鈍いのか、よくわからないよね」
「そう?」
レクサはにんまりと笑った。やはり朋美の表情だなと改めて思った。
「あのさ、デュロ。好きな人っている?」
「好きな人?」
僕はそう言われて、朋美の顔が真っ先に思い浮かんだ。僕は前の世界で死んで、いわゆるこの世界に転生したとすると、以前の世界はどうなっているのだろうか。はるか昔に存在した世界なのか。だとしたら、朋美は「いない」ことになる。でも、僕達の方がはるか昔に存在した世界だったら、朋美は「これから存在する」のかもしれない。あるいは、一番可能性のある「パラレルワールド」のような世界に僕が飛ばされたのだとしたら……。
朋美は今存在するのかもしれない。
「聞くまでもないか。私バカだったかも」
「バカ?」
「ううん、いい。私先に戻るね」
そして、レクサはそのまま後ろを振り返らずに広間の中に戻った。僕は追いかけようかと思ったが、考え直して少し待ってから大広間に戻った。
ごめん、レクサ。まだはっきりしないんだ。僕の気持ち。




