涙
「あ、今いきます」
返事が思わずレクサとハモってしまい、二人で顔を見合わす。レクサは小さな声を出して笑っていた。おそらく僕もはにかんだような顔になっていただろう。
階下に降りるとキッチンはすっかり綺麗になっていた。ルーラの家事能力は、記憶が無くなる前から全く劣っていないようだ。キッチンの片隅には、先程ルーラが作った煮込みの皿が置かれている。
「あのう、これ召し上がりますか?」
ルーラの返事を聞いて、僕はまたレクサの顔を見る。レクサは、いたずらな目をした。
「お、ショーユ使ってみますか?」
「そうだね」
「はい、まだ食べますよ」
こうして、僕達三人は再びキッチンに集まった。目の前にはルーラの作った煮物が置かれている。僕はショーユの瓶から一匙すくい、煮物に加えた。そして、木のヘラでゆっくりとかき混ぜた。ルーラはその様子を不思議そうに見つめている。
混ぜ終わったあと、僕は小さく深呼吸して、一口放り込んだ。期待を胸に、ゆっくりと咀嚼する。
「……」
「どう?」
今度ハモったのはルーラとレクサの方だった。僕はゆっくり味わったあとにごくんと飲み込んだ。
「間違いない」
肉じゃがだ。肉じゃがの味だ。朋美の味でもあり、ルーラが消えたときの味でもある。僕の大好きな味。
「デュロ、私も食べてみていい?」
「もちろん」
さっきから興味津々だったレクサは、嬉しそうに一口頬張る。頬張った瞬間、彼女は叫んだ。
「美味しいっ、何これ!?」
そして、最後にルーラも言った。
「私も食べていいですか?」
「はい、ぜひ」
僕は自ら一口分料理をすくい、ルーラに渡した。この料理を作ったのはルーラだ。ルーラは小さく頭を下げて匙を受け取り、自分の口に料理を放り込んだ。彼女は僕より、さらにゆっくりと咀嚼し、愛おしいかのように丁寧に飲み込んだ。そしてその後、彼女は沈黙した。
あまりに黙っているので、僕は待ちきれず「美味しいですか?」と声をかけようと思った。その時に気が付いた。
ルーラは表情一つ変えず、涙を流していた。涙はただ頬を流れる小川のようだった。




