液体の正体
以前の世界では欠かせなかった、あの調味料。
今はただのノスタルジイとなり、もはや記憶の中でしか再現できないと思いこんでいた味。
そう、これは間違いなく
醤油だ。
「こ、これはどこで」
気が付けば、僕はレクサを揺さぶっていた。僕の反応に驚いたのか、レクサは目を丸くしている。
「こ、これ、うちに昔からある調味料なのよ。これがあるだけでいろんなものが美味しくなるから、旅に出る前に持ってきたの。
いつでも使えるよう小分けにして持ち歩いているのよ」
表情を見る限り、レクサの言葉に嘘は無さそうだった。
「実は、ルーラさんが失踪する前、街で偶然会ったの。何か考え事しているようだったから、聞いたのよ。
そうしたら『ちょっと新しい料理を考えている』っていうから、私の手持ちのショーユを渡したの」
そして、さらにレクサは驚くべき発言を重ねたのだった。
「今なんて言った?」
僕の剣幕にさらにレクサが驚いている。
「え、何って」
「ほら、コレの名前だよ」
僕はレクサから渡された小瓶をもう片方の手で指差した。
「あ、ショ、ショーユのこと? この調味料、我が家ではずっと『ショーユ』って呼ばれていたの」
また謎が増えた。僕の知る限り、醬油に似た調味料はこの世界には存在していないはずだ。醤油どころか、そもそも大豆に該当するものがないのだ。豆の類はあるが、ただ茹でて食べるだけである。
わずかな可能性として、レクサの家庭に伝わる独自の文化に、豆を発酵させる調味料があったのかもしれない。それが偶然醤油の味に似ていたのかもしれない。
ただ、それが「ショーユ」と呼ばれているのなら話は全く違う。そんなことまで偶然一致はしない。
つまり、こいつは本物の醤油なのだ。
なぜ、この世の中に、以前の世界の醤油があるのか。そしてなぜ醤油がレクサの家にあったのか。
この謎はとても重要なものだ。もしかすると、以前の世界と、この世界を繋ぐ大きなヒントになるのかもしれない。
「ねえ、さっきから考え込んでるけど大丈夫? 私何か悪いことした?」
レクサが心配そうに僕の顔を見つめる。
「いいや、大丈夫。ごめんね」
そのとき階下から、ルーラの声が響いた。
「レクサさん、キッチン綺麗になりましたけど」




