料理の味
「もし、頭痛や動悸など、気分が悪くなったらすぐにストップしてくださいね」
僕はこう付け足した。ルーラの記憶が無くなったということは、大きなトラウマが隠れている可能性がある。料理を作ることでトラウマを呼び起こしそうになれば、「料理を作る」こと自体がトラウマになることすらあるのだ。だから、いつでも中止していいということは保証しておかなければならない。
「はい、わかりました」
「ルーラおばさま、私も多少は料理できるので、何か必要な作業があったら行ってください」
「ありがとうございます、えっと……レクサさん」
僕も手伝いたいのはやまやまだが、今回はルーラの治療のため、観察者に徹することにする。「カルテ」を書くため、僕は酒のラベルを乾かした紙を棚から取り出した。
そして調理が始まった。ルーラとレクサがキッチンで調理するのを、僕が黙々と観察する。よくよく考えれば奇妙な光景だが、なんとなく僕は幸せだった。
ルーラの調理の工程は、実にスムーズだった。調味料や道具の場所も、しっかり把握しているようだ。レシピを考えたりする様子もなく、テキパキと動いている。レクサへの指示も適切で、二人はまるで息の合った親子のようにすら見えた。そして、スムーズに動けるだけでなく、何より楽しそうに見えた。
「ルーラさん、今のところどうですか?」
「ええ、意外とあれこれできるのでびっくりしています。家事や料理が好きなんですね、私。
あとちょっとで肉と芋の煮物、できそうです」
既に厨房にはいい匂いが漂い始めていた。その匂いも、ルーラが消えた朝漂っていたものと似通ったものに感じられた。
それから数分後、目の前に湯気と香りが立ち上った美味しそうな一皿が置かれた。
「上手くできたかわかりませんが、どうぞ召し上がってみてください」
僕はその料理を一匙すくい、息を吹きかけながら徐に口に入れた。
これは。




