ルーラの記憶を取り戻す方法
そのあと、半日ほどかけて僕たちはプラムを隅々まで掃除した。一見ちょっと埃っぽくなっただけなのかなと思ったが、掃除を始めると案外汚れているものだ。涼しい季節であるにも関わらず、掃除が終わる頃には、皆汗まみれになっていた。
その間も、僕はルーラの様子を密かに観察していた。記憶が戻っていないにも関わらず、彼女の動きは手際が良く、スムーズであった。箒の場所どころか、調理用具やトイレの場所も全てわかっているように行動していた。
「不思議なものですね。記憶はないけれど、初めて来た場所には感じません。とても懐かしいという感覚だけがあります」
「まあ、初めてではないですからね」
口にしてから、余計なことを言ってしまったと少し後悔した。
「デュロ、ルーラおばさまの記憶を取り戻す具体的な方法はあるの?」
「実際のところ、決め手となる方法はないんだ」
僕が以前の世界で、若手の精神科医だったときのことを思い出す。解離性障害、特にその中の「解離性同一性障害」はいわゆる「多重人格」として有名なものだった。精神科医になれば、他の人格を消したり、失われた技術を取り戻したりできるではないかと期待したものだ。
しかし、教官の先生の答えは拍子抜けするものだった。
「いや、特にないよ。普通に診察していると、いつの間にか戻ったりするような感じかな」
僕はその答えを聞いて、「なんともならないんですか」とさらに教官に食い下がった。すると次に彼はこういったのだ。
「解離性障害の患者さんというのは現実感が失われている。だから規則正しい生活をすると改善すると僕は考えている。だから、毎週決まった時間、決まった曜日に診察をしているんだ」
決定的な方法ではないし、あくまで教官一個人の考えではあろうが、僕はここに大きなヒントがあると考えている。そして僕はレクサに答えた。
「うん、これをすれば絶対というわけじゃないんだけど、プラムをいつものように営業する。何十年もいたこの場所で、いつものルーティンを行うことで、ルーラの記憶が戻りやすくなるんじゃないかなと思っているよ」
そこまで話したとき、厨房の奥からルーラの声がした。いつの間にか奥に行っていたようだ。
「あの、こんなものを発見したんですけど」




