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カルテ1 :ゾロのおやじ

 こうして僕は、この世界での精神科医としての第一歩を進めた。女主人が寝付いたあとの時間を使って、少しずつゾロのおやじの話を聞いていく。そして、僕は酒や料理を振る舞いながら、彼の「カルテ」を作りあげた。

 

 ゾロのおやじの一番困っていること、家族構成、身体の病気、血のつながった人に同じ「不眠」の人はいないかどうか、アルコールやタバコなど嗜好品は(たしな)んでいないか、あるとしたらどれぐらいの量を摂取しているのか、彼の生い立ちや生活環境などなど。

 

 雑談のフリをしてさりげなく情報を集めながら、手元の紙に書いていく。紙はこの世界では貴重品で、小遣いなど全く持たせてもらっていない僕には手に入らない。だから僕は空になった酒瓶のラベルを水につけて丁寧にはがし、乾燥させてカルテ用紙を作った。


 そしてカルテを参考にしながら、彼の不眠のパターンにあった「睡眠薬」を作りあげた。ただ、ゾロのおやじは不摂生が過ぎてそれが不眠の原因にもなっている。眠れないからとこの店でギリギリまで飲んで、その酒によって逆に不眠が起きている。少量の酒なら眠りに(いざなわ)われるが、大量に飲めば睡眠の質は悪くなり、逆に不眠の元になる。それに僕の作る「睡眠薬」は酒が材料だ。大酒飲みに酒を足したところで、効果なんて出るはずがない。

 

 そこで、僕はゾロのおやじに出す酒を少しずつ薄くしていった。幸い彼の好む酒は、僕特製のカクテルだ。この世界で目覚めた僕のわずかな才能は、カクテル作りだった。ゾロのおやじは特に僕のカクテルが好きで、それしか飲まない。酒の代わりに、キノコや、知恵の実、力の実、薬草のエキスなどを増やしてコクを出すようにした。

 

 こうして、彼の慢性的な飲酒の習慣がほぼ抜けたところで、僕は「睡眠薬」として調合した酒を彼に手渡したのである。酒は古い空き瓶を綺麗に洗って再利用し、ラベルにはしっかり「用法・用量」を書いておいた。


 結果は大成功。ゾロのおやじの不眠症はピタリと改善した。こうして彼は僕の最初の患者になったのである。

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