歯の主
歯、歯、歯。
無数の歯。
数m、いや10m以上はありそうな黒い球体に人の歯がついたものが、おびただしい数宙に浮かび上がっていた。その「歯」は咀嚼運動を繰り返しながら、周りの木々、道、地面、何もない空間にまで、ありとあらゆるものに食らいついている。
そうか。
僕は理解した。
巨大な穴はこいつらが食べつくした後なのだ。
「あぶない、こっちへ来い」
急に僕は、誰かの手によって、ゾロゾロ号の中に引きこまれた。
「ゾロさん……」
「いやあ、デュロ、無事でよかった」
「一体何があったんです?」
「そりゃあ、あの気味の悪い化け物よ。あいつらが急に出てきて、お前さんは一口で吞まれたんだ」
「それでレクサが助けてくれ……」
ゾロはかぶりを振った。
「レクサ? 違う違う。デュロを助けてくれたのは、クロンさんだ。
あれを見ろ」
ゾロゾロ号の窓から外を見ると、皆が「歯」と戦っているのが見えた。
レクサは剣で、リタはおそらく魔法で。
そしてクロン爺は拳で。
普段のクロン爺からは想像もできないスピードで、拳のみで戦っている。
あの化け物と互角に。
「お前さんが呑み込まれた瞬間、クロン爺が鉄拳であの化け物を引き裂いたんだよ。
あの爺さん、何者なんだ」
クロン爺がずっと何かを隠しているとは思ったが、おそらくこのことに関連しているのだろう。この強さは尋常じゃない。
「ところで、このゾロゾロ号って、あの『歯』にも耐えられるんですか?」
僕はふと気になって、ゾロに尋ねた。
しばしの沈黙のあと、ゾロは眉間にしわを寄せ答える。
「ねえ、逆に聞きたいんだけど、耐えられると思う?」
「思いませんね」
僕は即答した。
そして、ゾロの後ろの窓から、化け物の一匹がこちらに向かってくるのが見えた。




