ルーラの秘密
「まず、我々はこのゾロゾロ号に乗って、南に向かう。
ゾロゾロ号のスピードは馬ぐらいだというから、おそらく一週間もすれば、レスリンの泉につくだろう。
場所は、レクサが知っているし、地図やコンパスなどの道具はゾロが揃えてくれている。
魔物に遭遇しても、この中にいれば安全だろう。まあ、特に何事もなければ、レスリンの泉までは心配のない道中だ」
僕は、クロン爺の話を聞きながら、レクサの顔色を窺った。今のところ、特に不安そうな表情はしていない。防具屋前で発作をかけたときに暗示をかけたから、上手くいけばレクサはこの乗り物を「家」のようなものだと認識してくれているだろう。
パニック障害の患者さんは、乗り物や高速道路、映画館など急に出られない場所は苦手なことが多い。しかし、家の中で発作を起こすことは少ない。なぜなら家はセーフゾーン、帰る場所だと認識しているからだ。
ゾロゾロ号を乗り物だと考えると、レクサにとっては辛くなるが、「家」だと認識すればむしろこの中にいるほうが安心するはずだ。本来は抗うつ薬や認知行動療法、少しずつ外に慣らしていく暴露療法などを組み合わせるのが良いが、今の状況ではこの方法がベストだ。
それに不安のときのお守りの「薬」も用意してあるし、僕がいる限り主治医が同行しているようなものである。よっぽどのことでなければ大丈夫だ。
ただ不安なことがあるとすれば、このゾロゾロ号の耐久性である。何せゾロのおやじの手作りだ。僕は小さく手を挙げた。
「はい、何かな。デュロくん」
「このゾロゾロ号は、ドラゴン以外の魔物なら壊せないぐらい頑丈ですよね」
「何いってんだ、俺が作ったんだ。めっちゃ頑丈さ」
クロン爺に聞いたつもりだが、ゾロのおやじが口を挟む。「この乗り物大丈夫ですよね」と聞かなかったのは、レクサを不安にさせたくないからだ。
「ゾロさんがこんなにしっかり作ってくれたのだから、安心です。それに、ここからキシル山脈までは、ドラゴンは出ませんから」
レクサはあれだけ苦労をしていながら、元々素直な性格なのか機械音痴なのか、幸いにもゾロのおやじを信じ切っているようだ。
「さすがレクサちゃん、よくわかっているねえ。ところで、夜はどうすんだ?クロン爺」
「夜は魔物が動き回るし、目立たないほうが良いだろう。日が暮れる前に車は停めて、野営をする。
焚火があれば魔物は基本寄ってこない」
なぜ、村をシャドウが襲ったのかは不明だが、この世界の魔物は普通の野生生物とあまり変わらない。
魔王がいるという噂があるが、別に組織化もしていないし、人間を滅ぼそうとも思っていない。
外で様々な魔物が各々の生態系を維持しているだけだ。しかし、それでも偶然出くわせば襲われる可能性はある。それは熊や狼に遭遇するのと同じことだ。
「そうかい、ルーラのことも心配だし、夜通し移動しなくていいかい?」
ゾロの質問に、少し間をおいてクロン爺が口を開いた。
「いや、多分ルーラは大丈夫だ。なぜなら、彼女はかつて勇者だったからだ」
え、なんだって。




