暗示
「レクサ、薬は?」
「ここに……あります」
レクサは懐に結わえた袋から、薬の瓶を取り出した。僕はそれを受け取り、規定量レクサに服用させる。
「まず、こうやって、木匙一杯飲み込んでください」
落ち着いて、レクサに手順を示すことが大事だ。レクサは頷いて、ごくりと喉を鳴らした。
「呼吸が早くなっている。はい、息を吸って、吐いて」
二秒すって二秒吐くぐらいのペースで僕は指示を出した。過呼吸になると、手足の痺れなども出てきて、回復も遅くなり不安が強くなりやすい。何度か呼吸を整えているうちに、彼女は落ち着いてきた。ただ、まだ顔色は青白い。どこで休ませようか考えているとき、僕はあるアイデアを思い付いた。
「もうしばらく、休んだほうがいい。あのゾロゾロ号はどう?
落ち着けそうな感じはしますか?」
レクサはしばらく考えると、しっかりと頷いた。その目の色には、遠慮や気遣いはなく、本音のように感じられる。
「じゃあ一緒にゾロゾロ号に乗りましょう」
僕はレクサに付き添いながら、ゾロゾロ号に乗り込んだ。ゾロゾロ号のシートは3列のベンチになっており、ベッドのように身を横たえることができる。窓も大きく、開放的な雰囲気だ。
「レクサ、この乗り物はとても安全で頑丈な乗り物です。まるでゆりかごのような場所。君はこの中なら、落ち着いて安心して過ごすことができます。いいですね?」
幾ばくかレクサの顔色に血色が戻る。よし、いいぞいいぞ。
ルーラの捜索は、ゾロゾロ号を使うことになるだろう。本来、窮屈な乗り物はパニック障害の人にとっては不安になる環境だ。しかし、そんなことを言っていては、彼女は捜索に参加できなくなる。
そこで僕は考えた。
今発作になったことを利用して、ゾロゾロ号を「安全な場所」として暗示をかけてみる。
上手くいけば、ゾロゾロ号を「セーフゾーン」として旅がしやすくなるかもしれない。
本来はこんな治療はしないのだが、抗うつ薬もなく、時間もない状況ではトライしてみるしかない。
「ほお、君は、何か君にしかできないことができるみたいだね」




