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無能な僕はこの世界で、精神科医の夢を見る  作者: 精神科医Tomy
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そして、全てが変わる

 女主人の対応は、僕の全ての想定から外れるものだった。僕は困惑し、混乱した。

 

 こういうときは、何もしない方が良い。

 僕がこの世界に生まれ落ちてから、学んだ大切なことの一つだ。

 

 僕はあの朝、いつものように朋美に見送られてマンションを出た。そして、いつものように駅に向かった。別に何も変わりのない平日の朝だった。ただ、僕の乗る通勤快速が4分遅れていたぐらいだ。電車が到着すると、他人の群れに押し込まれるように、僕は電車の奥まで進んだ。

 なんとか捕まる吊り革を確保できた僕は、立ちながら居眠りをする準備をした。5分ぐらいたった頃だろうか。突然悲鳴のような急ブレーキのような音が聞こえ、僕は目に見えない強い力で吹き飛ばされた。そこから、以前の世界は消えた。


 次に目が覚めたとき、僕は暗闇の中だった。僕は、とりあえず動こうと思った。しかし、何か違和感を感じて、僕はそのまま息を潜めてじっとしていた。暗闇の向こうに何かがいた。明らかに人ではなく、獣のようなものの気配。息を吐く音。風のわずかな揺らぎ。その気配がゆっくり消えていくまで、僕はそのままじっとしていた。


 気配が消えたあと、僕は何かをつぶやこうとした。そのとき異変に気が付いた。声が出ない。いや厳密に言うと、言葉を構成するには僕の喉頭が未熟だっただけだ。代わりに出たのは、赤子の泣き声のような音だった。驚いて自分の手足を見ると、白くて短い、まるで団子のような手足が芋虫のような体についていた。僕は、本当に赤子になっていた。


 もし僕が闇雲に動いていたら、僕はただ魔物に気づかれて食べられていたのかもしれない。

それから、僕はこの世界では、「状況がわかるまでは動かない」というルールを課した。


 さっきの女主人の対応も同様だ。なぜあんな対応をとったのか全くわからない。だから、僕はいつものように過ごした。いつものように家事をこなして、いつものように女主人が寝たあとも働いた。女主人もいつもと何も変わらなかった。あれから、僕のお(いとま)について何か聞いてくることもなかったし、僕からも話すことは無かった。


 その晩は、飲みに来る客はほぼおらず、僕は早めに寝ることができた。しかし、なかなか寝ることができない。何度寝ようと思っても、不穏なざわめきの灯が心の奥に灯るのだ。それに何度水をかけようとも、またぽっぽっぽっぽっと、灯る。その繰り返しだった。


 しかし、それでも時間の力は強力だ。そんなことを繰り返していくうちに、いつしか記憶は薄れ、やっと睡魔に飲み込まれた。


 そして、再び目が覚めたとき、僕は心のざわめきの理由を知ることとなる。

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