女主人との対決
その朝、何がしかの怖い夢を見て突然目が覚めた。相変わらずの埃っぽい屋根裏部屋の中に、僕はいた。昨日は珍しく寝つきが悪かった。今日はどうやって女主人にお暇を申し出るか、ずっと考えていたからだ。
睡眠中に計画を立てていたのか、寝る前は方向性が決まっていなかったが、今はもう決まっている。
以前の世界で、寝る前に解けなかった数学の問題が、朝になったら解けていることが時々あった。あのときの感覚と似ている。寝不足のはずだが、アドレナリンが出ているのか不思議と疲れは感じない。むしろ、元気なぐらいだった。
しばらくして、ぶっきらぼうで無配慮な足音が聞こえてきた。
「おい起きろ、無能」
大きな銅鑼声と共に、扉が勢いよく開く。
今だ。
「おはようございます。あの、後で大切な話があるので、お時間いただけませんか」
僕の声に、一瞬全てのエネルギーが吸い取られたかのように、女主人が静かになった。
ほんの数秒だが、まるで時が止まったように感じる。
「ふうん。そうか」
一言発したあと、女主人はこう続けた。
「『後で』などとちんたら言わずに、今言いな」
僕は後でタイミングを、見計らって言うつもりだった。焦りの汗が額ににじむのを感じた。
僕は板張りのベッドから飛び降り、土下座した。
「あの、お暇をいただきたいと思います」
何か大声が飛んでくるはずだと思っていたが、何も飛んでこなかった。むしろ女主人は、無表情で、驚くぐらい静かだった。それが逆に恐ろしく感じた。
「いいよ」
拍子抜けするほど、あっさりと女主人は答えた。そこに何にも感情は感じられなかった。




