真の効果
「薬の効果は、『常に持ち歩くこと』にあるんです」
僕はレクサの目をしっかり見据えていった。
「持ち歩くこと?」
「飲みたくなかったら飲まなくてもいい。でもさっき言ったように、安全なので、安心して飲んでもいい。
大切なことは常に持ち歩き、『これがあるから、大丈夫』と思ってもらうことです。
つまり、最大の効果はお守りなんです」
パニック障害の人にとって、最も大切なことは、頼ること。頼ることができないから、不安や恐怖に囚われる。だから、常にこの薬を持ち歩いてもらうことで、「何か起きても大丈夫」と思えることが最大の効果なのだ。
僕の「お守り」というキーワードはレクサの心に響いたようだ。それは表情を見ればわかった。
「なるほど、お守りなんですね。それがあれば、きっと何とかなるような気がします」
「そう思ってもらえたのなら良かったです。ただ、あなたが勇者としてやっていくには、多分これだけだと不充分です」
一瞬明るくなったレクサの表情が再び曇る。
「そうですか。でもこれがあるだけで何とかなりそうな気がします。いや、なんとかするしかないですよね」
「違います。あなたのそれがいけないんだ」
思わず声を荒げてしまった。レクサは驚いて僕の顔を見つめている。しかし、おそらく彼女以上に僕が驚いていた。
「あ、すいません。大声を出してしまって」
「いえ、いいんです。私が悪いんです」
「いえ、悪くないです。ただ、あなたは身寄りもなく、ずっと独りで戦ってきた。
だから常に誰にも頼らず、自分で何とかしようとしてきた。
おそらく、あなたの呪いには、それが関係しているのです」
「私の呪いは、自分でかけているんですね………。治るのかな」
「治ります。私が治します。
ただそれには時間が必要なんです」
「時間!?」
「そう、時間です。私にもあなたも時間をかける必要がある。
残念ながら今すぐは、その時間を作る体制が作れていない。
だから今日お渡しできるのは、その薬だけです。
でも、あなたが一緒に治療に向き合ってくださるのなら、私は自分の環境を変えたいと思います。
しっかり、やりますか?」
「はい。もちろんです」
レクサのサファイアのような眼に、うっすらと涙が滲んでいた。人が覚悟を決めたときに出る、力強い涙だった。
「わかりました、少しだけお時間ください。準備ができたら、またゾロさんから連絡していただくようにします」
「本当にありがとうございます」
よし、これで決まった。あとは女主人にお暇を願い出るだけだ。一体女主人がどう出るかはわからないが、勝算はきっとある。
このときの僕には、それが想定以上のことになるとは、露程も思っていなかった。




