レクサとの再会
レクサは、前回会ったときからピッタリ一週間後の、閉店間際に来た。約束通りだ。実はその日に限って、なかなか帰らないクロン爺が来て困っていたのだが、ゾロのおやじが上手に連れ出してくれた。クロン爺は女主人が若いときからの常連で、ピーク時はほぼ毎日通っていたらしい。女主人に気があったのではないかと専らの噂だった。ただ、最近はさすがに衰えて、たまに来るぐらいになっていた。
というわけで、レクサがやってきたときには、他の客が誰もいない状態になっていた。
「お久しぶりです。あれからどうですか?」
「こちらこそ、先日は沢山お話しを聞いていただいて、本当にありがとうございました。
この村にいる限りは、いつもとても元気です」
そう言ってレクサは軽く笑顔を見せた。この笑顔は、朋美に似ていて、少し切ない気分になる。
「それは何よりです。では、これから、アナタの『呪い』の治療についてお話しさせていただきますね」
「はい」
僕は、カウンターの下から、レクサ専用の「抗不安薬」の瓶を取り出した。
「まず、これをお渡しします」
「これを………?」
レクサは琥珀色に輝く液体の入った瓶を、訝し気に眺めている。
「あなたに呪いの発作が出てしまったとき、あるいは出そうなときに、これを木匙で一杯飲んでください。一日三回までにしてください」
「薬に頼るということでしょうか、いや、あの………すいません。変なこと言って」
「いえ、大丈夫ですよ」
正直、レクサがこういう反応をするだろうことはわかっていた。パニック障害になりやすい人は、何かに頼ることが苦手なことが多い。だからこそ、自分の把握できない事態に陥るとパニックになるのだ。
「抗不安薬」も、彼女にとっては「よくわからない不安なもの」なのである。ここからが、精神科医としての腕の見せ所だ。
「この薬は特に怖いものではありません。この店の『野イチゴのワイン』と、どくけし草を煎じたものから調合しています。お酒を口にしたときにふわっとリラックスする、あの感覚を利用しています」
「お酒ですか………依存したりはしませんか?」
「もちろんお酒なので闇雲に飲めば依存するリスクはあります。でもそれは『この薬、効かないからもっと強くしてくれ』『もっと量を増やしてくれ』と言いそうな方の場合です。
依存するのが怖いと思って慎重になるレクサさんのような人が、依存することはありません」
レクサの表情がふっと変わった。怪訝な色合いを帯びた顔から、安堵の顔へ。「精神に効く」という薬は、不安が強い人にとって恐怖の対象ですらある。
中身は何なのか、なぜ効くのか、どう効くのか。安全なのか。そして、なぜ安全なのか。
嘘偽りなく、誠実に情報を提供し、患者本人の「納得」が得られてこそ、薬は効果を発揮できる。これができるかどうかが、精神科医にとって大切な能力だと思っている。
さらに僕は言葉を続けた。
「それに、この薬の最大の効果は、飲むことによって得られるわけじゃないんです」
「え、どういうこと?」




