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無能な僕はこの世界で、精神科医の夢を見る  作者: 精神科医Tomy
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「抗不安薬」を調合する

 今後の方針が決まった僕は、急いでレクサに渡す「抗不安薬」の調合に取り掛かった。僕の一日の中で、調合を進められるのは、やはり女主人が寝静まったあと、僕が「真夜中の主人」になる時間だ。夜お客さんの相手をしながら、さりげなく手元で調合を進めていく。

 材料はゾロのおやじの睡眠薬と同じく、「酒」。基本的に不安のときに使う「抗不安薬」も「睡眠薬」もベンゾジアぺピン系なら大きく変わらない。どちらも不安を一時的に鎮める作用、催眠作用は持っている。どちらの働きが強いかによって名前が変わるだけだ。

 今回レクサに調合する薬の材料は、なるべく吸収が早く、身体から抜けるのも早いタイプが良いだろう。発作が出そうなとき、あるいは出てしまったときにだけ使うので、飲んでから効果発現が早い方が良い。店で手に入る酒の中では、「野イチゴのワイン」が一番その性質(プロファイル)を持っていそうだ。ただこのワイン、フルーティーで非常に美味しいのだが、薬としては美味し過ぎる。「ちゃんと効くのか不安」に思われてしまうかもしれない。

 パニック障害に使う「抗不安薬」は、実際の効能も大事だが「これさえあえれば大丈夫」と思ってもらうお守りとしての効能も大事だ。そこで、あえて薬っぽい風味をつけることにした。

 使えそうなものを片っ端から試し、最終的に僕は「どくけし草」を使うことにした。魔物やトラップから毒をくらったときに使う、あの草だ。匂いと味には、以前の僕の世界で使っていた「漢方薬」のような風味があり、いかにも効きそうだ。それに「どくけし草」の味は、この世界では良く知られている。だから、レクサにも「よく効きそうな薬」として認識してもらえるのではないか。

 どくけし草を少し煎じ、色合いと香りを強めて、野イチゴのワインと混ぜる。出来上がった液体は、茶褐色に輝き、薬臭い香りを放つ。少し服用してみたが、数分程度で気持ちが少し落ち着くのを感じられた。どくけし草の成分で、薬の効果までうち消してしまわないか心配したが、大丈夫そうだ。

 一回木匙で一杯。一日3回まで。用法容量はこれぐらいで良いだろう。こうして、レクサに渡すための「抗不安薬」は完成した。あとは、彼女に渡すだけだ。

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