セナ覚醒。
「まあ、いいよ」
できるだけ平静を装って言う。
「僕は、しばらく一人になって考えようと思う」
セナの瞳が揺れた。
「……私と別れるの?」
その声は、さっきまで世界を消したと語っていた人物のものとは思えないほど、弱かった。
僕は――嘘をついた。
「いや、ちょっと考えを整理したいだけだ。わかるだろう? 色々ありすぎた」
間を置く。
「退院したら、ホテルかどこかで過ごすよ」
一瞬の沈黙。
次の瞬間、セナの表情が崩れた。
「嘘でしょう?」
肩が震えている。
「姉さんのことが好きになったんじゃないの?」もうどこにもいないのに」
僕はふとレクサの瞳を思い出した。
あの強くて、どこか寂しげな光。
最後に振り向いたときの、あの表情。
「いや……」
言葉が続かない。
「そんなのダメダメダメ、絶対ゆるさない!」
空気が震えた。
「私がどれだけ苦労して、アナタを取り戻したかったか、わかったでしょう?」
次の瞬間。
病室の棚が、軋みながら浮き上がった。
点滴スタンドが宙を滑る。
椅子が、机が、花瓶が、重力を失う。
「セナ、落ち着け――」
言い終える前に、ベッドが持ち上がった。
僕の身体ごと、ゆっくりと浮かび上がる。
床が遠ざかる。
セナの足も、宙に浮いていた。
全身がエメラルド色に輝き始める。
髪が、風もないのに揺れている。
瞳の奥に、理性の光が薄れていく。
「アナタは私のものよ」
壁に亀裂が走る。
窓ガラスが震える。
空間そのものが歪み始めた。
まずい。
まずいぞ。




