狂気
「その前にね、ちょっと実験してみたの」
セナは、まるで昔話をするみたいに言った。
「凄かったわ。
口だけの魔物が出てきてね。
空間ごと、ばくん、って食べていくの」
その言葉で、記憶が一気に引きずり出された。最初にセナと、そしてイートンたちと出会ったあの瞬間。
世界の端が、音もなく削れていった光景。
逃げ場のない圧迫感。
本能が“終わり”を察したあの感覚。
――あれが、実験?
「……実験だって?」
思わず漏れた声に、セナは小さくうなずいた。
「ええ。様子を見るだけのつもりだったの」
様子を見る。世界を、かじらせて。
「それでね、仮説を立てたの」
セナの瞳が、静かに光る。
「リンクは一方通行。
でも、送った先の世界そのものを消したら?向こうに行った人間は、どこに行くのかしらって」
僕は、唾を飲み込んだ。
「まさか……」
「ええ」
セナは、微笑んだ。
「イートンに、あっちの世界を全部食べさせてみた」
頭が、真っ白になる。
「そしてね」
彼女は一歩、僕に近づいた。
「タイミングを見計らって、強く念じたの」
その声は、震えていない。
「アナタが、戻ってこれるようにって。そしたら――」
セナの口角が、徐に盛り上がる。
「こうやって戻ってきたわ、昇が」
「ふふ……ふふふ……」
セナの喉から、小さな笑いが漏れる。
それは次第に大きくなり、
「ははは……!」
高く、澄んだ笑い声へと変わった。




