イートンの正体
「禁断の術!?」
思わず声が大きくなる。
セナは、まるで天気の話でもするように、あっさりとうなずいた。
「そう。禁断の術」
懐かしいものを思い出すように、彼女は少しだけ視線を上に向けた。
「昔から伝わっている魔導書があってね。
うちは魔法使いの家系だから、家宝の中にあったの。
誰も使えないから、ずっと埃をかぶってたみたいね」
セナは小さく笑った。
「私が子供のころ、かくれんぼをしていて偶然見つけたのよ」
嫌な予感が、じわじわと広がる。
「黒い表紙で、装飾が少なくて……でも、とても綺麗だった」
その声は、あまりにも無邪気だった。
「気に入って、しばらくはいつも持ち歩いていたわ」
「……どんな内容なんだ」
喉が、ひどく乾いていた。セナは、ほんの一瞬だけためらってから、答える。
「簡単に言うと――世界を消す術」
「世界を?」
思わず聞き返す。
「世界を食らいつくす禁断の魔物を呼び出すの」
その言葉が、空気を凍らせた。
「彼らはね、世界そのものを“餌”として食べてしまう」
胸の奥で、何かが強く引っかかる。
僕は、かつて耳にした名を思い出していた。
――イートンのことか。
あの世界喰らいの化け物。世界を、みんなを、食らいつくした、あいつら。
「子供のころ、一度だけ……実験で唱えてみたことがあるんだけどね」
背筋が、凍りついた。
「凄かった。ものすごい勢いで、空間ごと食らいつくしていった。だからすぐ実験やめたけど」
安堵しかけた、その直後。
「……でもね」
セナの声が、低くなる。
「アナタと離れ離れになったとき、ふと思い出したの。その魔導書のことを」
視線が、僕に向く。
「リンクは一方通行。
戻れない」
静かな声。
「だったら、って思ったの」
嫌な予感が、確信に変わる。
「その世界を――消してしまったら、どうなるんだろうって」




