禁断の術
「待ってくれ。
僕は確か、あの世界に『転生』したはずだ。赤ちゃんから始めて、時間をかけて大人になった」
頭の中で、これまでの記憶をなぞる。
「そして大人になってから、レクサ――つまり君の姉さんに会っている。
それって、辻褄が合わないんじゃないか」
セナは、困ったように視線を泳がせ、やがて静かに言う。
「……そのあたりは、私にもよくわからないの」
意外なほど正直な声音だった。
「ただね、わかっていることはある」
セナは、胸の前で手を組む。
「誰かを新しい世界に送り込むと、その人自身の記憶だけじゃなくて……周りの人たちの記憶も書き換わるみたい」
「書き換わる?」
「ええ。
まるで“最初からそこに存在していた”かのように」
背筋に、ひやりとしたものが走る。
「一緒にこっちに来た両親もそうなったの」
セナは淡々と続ける。
「こっちに来た瞬間に、私たちは離ればなれになった。
でもそれは、親子として別れた、という形じゃない」
彼女は、ほんの一瞬だけ目を伏せた。
「それぞれ、まったくの別人として、それぞれの人生を生きている」
「……じゃあ」
「ええ。両親は、自分たちがこちらの世界に“転生した”と思っているはずよ」
「なるほど……」
僕は、ゆっくりとうなずいた。
説明としては、理解できる。
けれど、感情は追いつかない。
「でもさ」
ふと、気づく。
「僕は、こうしてこの世界に戻ってきているよね」
セナを見る。
「一方通行じゃなかったのかい」
その瞬間、セナの表情が歪んだ。
「……それは。
私が、アナタに会えないと知って、いろんな方法を試したからよ。
リンクを調べて、歪みを探して、様々な方法でなんとか会えないか考えた」
その瞳は、どこか必死だった。
「わかる?」
セナは、まっすぐ僕を見た。
「私は、アナタを救ったはずなの。
それなのに、そのせいで……二度と会えなくなってしまった」
声が、かすれる。
「その気持ちが、わかる?」
「そんなの、わかるに決まっているじゃないか!」
僕は思わず、びっくりするほど大きな声になっていた。
セナの目が、わずかに揺れる。
僕は、“あっちの世界”にいたとき。
どれだけ、朋美に会いたかったか。
もう会えないと知りながら、それでも毎日のように思い出していたこと。
それなのに――。
今、こうしてやっと会えているはずなのに。
長い時間と、2つの世界に跨って。
ちっとも、嬉しくない。
そう、気が付いてしまった。
朋美に、セナに会えているのに、ちっとも嬉しくない。
そして、セナは気になる言葉を吐き出した。
「そう、わかるわよね。
だから私。禁断の術に手を出したの」




