事故の日の真実
セナは遠くを見るように、かすかに笑った。
「……楽しい、素晴らしい日々だった。でもあの日――」
そこで、言葉が途切れた。
喉の奥に、何かが引っかかったように。
一瞬だけ視線を落とし、そして、確かめるように続ける。
「……僕が、事故にあった日か」
彼女は小さくうなずいた。
「そう」
それは責める響きでも、悲しむ響きでもなかった。ただ、避けて通れない事実を、静かに置くような声だった。
「私は、アナタを見送ったあと……理由もなく、胸騒ぎがしていたの」
覚えがあるような、ないような。
あの日の記憶は、いつも途中から霧がかかったように曖昧だった。
「妙に落ち着かなくてね。
何度も空を見上げたり、時計を見たり……今思えば、あれは予感だったんだと思う」
彼女は一度、言葉を切った。
「そして――事故にあった、その瞬間」
空気が、わずかに張り詰めた。
「私は、自分の力を最大限に使っていた」
セナは思わず息を呑む。
「無意識のうちに、よ。
考えるより先に、身体が動いた」
彼女の視線は、まっすぐ僕を捉えている。
「その結果……アナタは、死なずに済んだ。
……でも」
静かな声が、決定的な一文を運んでくる。
「私は、アナタを“あっちの世界”にリンクさせて、送り込んでいたの。つまり、私はアナタに会えなくなった」
一方通行。
その言葉が、僕の脳裏に浮かび上がった。




