セナと朋美
セナは、しばらく沈黙を保っていた。僕も言葉を発しなかった。
やがて、この場そのものが、彼女の言葉を待っていた。
「……私ね」
ようやく、声が落ちてくる。
「子供の時、思ってしまったの。――全部、壊してしまえばいい、って。
だから、計画を立てたわ。
両親と私が、魔物にさらわれたことにする事件」
淡々とした口調だった。
けれど、それは“冷静”ではない。
何度も自分に言い聞かせてきた声音だった。
「だから、本当は魔物なんていなかった」
セナは、こちらを見ない。
「私が、リンクを作ったの。
新しい世界へつながる道を」
胸が、ぎゅっと締めつけられる。
「そこを通って、私と両親は――隠れただけ」
「……じゃあ」
言いかけて、言葉を止めた。
セナが、先に続きを告げる。
「死んでないわ。
両親は今も、生きてる」
その言葉に、安堵が混じるより先に、僕は別の感情が湧いた。
「新しい世界でね、両親は“両親”として生きることを選んだの。いや選ぶしかなかったの。
なぜなら、そのときはじめて気がついたから」
セナの声が、少し震えた。
「この道は、一方通行だって」
しばらくの沈黙。
「そして」
声が、ほんの少し柔らぐ。
「新しい世界で、私は医者になった。そこで……昇に会った」
視線が、初めてまっすぐに僕を捉える。
「そして、あなたに恋をした」




