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無能な僕はこの世界で、精神科医の夢を見る  作者: 精神科医Tomy
New World

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希望なのか?

「リンク……じゃあ、この先に進めば戻れるのかっ」


 自分の声が、思ったよりも軽く響いた気がした。

 期待を隠しきれない声だったのだろう。


 セナは小さく息を吸い、首を横に振った。

 その動きは静かで、ためらいを含んでいるようにも見えた。


「残念ながら、それはできないの。

 ……いえ、進むことはできるけれど、戻れないわ」


「戻れない?」


 言葉を反芻(はんすう)するように、もう一度口にする。

 光の道を見つめると、確かに――戻る、という概念そのものが存在しないようにも思えた。


「そう、戻れない。一方通行なだけよ」


 一方通行。

 その言葉が、空間に落ちて、ゆっくりと沈んでいく。


 僕は少し考えたあと、肩の力を抜いた。

 一方通行でもいいじゃないか。そう思った。

 この先に行けば、レクサに会えるのだろう。それだけで十分だ。迷う理由なんて、どこにもない。


 ――そのはずだった。


 僕の内心を読み取ったかのように、セナが顔を上げた。

 それまで抑えられていた声が、場違いなほどはっきりと響く。


「アナタの考えていることぐらい、わかるわ」


 強い調子だったが、怒りではない。

 むしろ、必死さに近い。


「でも、これから何かを決断するつもりなら、私の話をよく聞いてからでもいいと思う」


 その瞳は、光の道ではなく、まっすぐに僕を捉えていた。

 引き止めるというより、確かめているような視線。


 僕は一度、足元の紋様に視線を落とした。

 気づかないうちに、拳を握っていた。

 進めば戻れない――その事実が、今になってゆっくりと胸に広がってくる。


「……わかったよ」


 顔を上げて、セナを見る。


「セナ。君の話を、もっと聞かせてくれ」


 一瞬だけ、彼女の目が揺れた。

 それは安堵なのか、それとも別の感情なのか、僕にはわからない。


 セナは小さく微笑もうとして、結局それをやめた。

 代わりに浮かんだのは、どこか置き去りにされることを予感しているような――

 ほんの少し、寂しそうな顔だった。

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