レクサ、思い出したよ。
何を優先するか次第。
朋美のその言い方が、何となく僕には気にかかった。とても自信に溢れているかのようだったからだ。
まるで全てを知っていて、その上で僕が何を選ぶのか熟知しているかのように思えた。
僕は一体何を優先するのだろうか。あの長い長い夢の中で、ずっと戻りたかった世界。朋美との時間。それは今ここにある。精神科医としての仕事も、朋美との生活も失われてはいなかった。そして、いかにその日常が大切だったのか、充分わかっている。
だから、今のままで何も問題はない。このまま生活を続けていい。
でも……。
僕には、真実がわかっていた。ただ、それをはっきり認めると辛いだけだ。
彼らは存在した。白醤油の謎は、そうでなければ説明がつかない。
だからといって、僕はどうすればいいのか。
「がんばって」
葛藤している僕の頭に、誰かの声がした。聞いたことのある声だ。朋美ではない。
次にゴトリという音が聞こえた。今度は頭ではなく耳に。
そして気が付いた。目の前のテーブルに、小さな瓶があった。多分さっきまで存在していなかったものだ。ゴトリという音は、おそらくこの瓶が立てたものだろう。
まとめると、こういうことだ。
今の瞬間、この瓶がテーブルの上に突然現れた。
そして、この瓶は僕の良く知っている瓶だ。レクサに調合した、抗不安薬の瓶。
ああ、思い出したよ。レクサ、最後の君の言葉。
「そう、あなたが私のために作ってくれた、薬の瓶。
それを覚えておいて。お願い」
それはコイツのことだね。




