醤油の味
朋美が持ってきた白醤油は、細長くやや角ばった透明の瓶の中に入っていた。醤油というよりはほうじ茶か麦茶のような色合いである。スプーンの上に白醤油を一滴垂らし、僕は口に含んだ。
これは。
先程から感じている胸のざわめきは、正しい警告だったようだ。この味は、レクサが持っていた「ショーユ」と同じ味だ。
「昇、どうかした? 変な味だった?」
「い、いや。そうじゃないよ。とても美味しい」
「そう。もう仕舞っていい?」
僕は頷いた。
これはきっと偶然じゃない。ずっと気になっていたが、以前の世界でレクサがなぜ醤油を持っていたのか。しかも、それがなぜ朋美が持っている白醤油と同じ味なのか。僕は味覚と嗅覚には優れている。似ている味とかではなく、多分同じものだ。そして一般的な醤油ではない。
きっと流して忘れてしまえば、僕は幸せに過ごせるのだろう。あの以前の世界は、たった一日の夢だった。そういうことにしてしまえばいいのだろう。
しかし、そんなはずはないと僕の心は告げている。レクサも、ルーラも、リタも、ゾロも、クロンも、ただの夢の登場人物などではない。以前の世界とこの世界、どちらも存在し、何らかの関係性があるはずだ。
「ねえ、さっきから急に難しい顔しちゃってるけど、肉じゃが本当は美味しくなかった?」
「そんなことないよ。すごく、すごく美味しい。僕がお世辞を言えないのは、良く知っているだろ」
僕の言葉に、朋美の顔がほころんだ。
「そうね。多分味の問題じゃないのは、わかっているわ。でも、何か問題がある顔をしているから。
でも、『今はそれを言えない』って顔もしてるわね」
さすが朋美。
「そうだね。今とても気になっていることがあって、それを気にしなければ特に問題はないんだ。でも、とても気になっているし、すごく悩めば何とかできるかもしれない。
こういうとき、朋美ならどうする?」
「そうね」
朋美は目を閉じて、顎の下に人差し指を添えた。
「自分にとって、何を優先するかで決めるかな」




