違和感
それから一か月。
以前の世界であれほど戻りたかった世界。あのときは、強く意識しないと忘れてしまうんじゃないかと思う程、はるか昔のことのように感じていた。
しかし実際に戻ると、一瞬で感覚は戻ってきた。全くブランクは無かったかのように、違和感なく。いや実際に、ブランクは無かったようだ。僕が列車事故に巻き込まれて、意識を失っていたのは、ほんの1日ほどだったらしい。幸い、後遺症が残るような怪我は一つもなかった。ただ頭を打ったようで、丸一日僕は寝ていたようだ。
つまり、レクサやルーラ、ゾロ、リタ、クロン爺、その他の仲間たち。彼らとの日々は、ほんの一日の間に見た夢だということになる。
「ハハハハハ」
「なあに、気持ちの悪い。『ハハハハハ』と笑う人、本当に要るのね」
いつの間にやら、僕は乾いた笑いを声に出していたようだ。
「ごめん、朋美。ちょっと思い出し笑い」
「さあ、ぼうっとしてないで、ちゃんと夕食食べてよ。今日は、昇の好きな肉じゃがでーす」
そう、今僕の目の前には、想像上でもなく、彷彿とさせる他の料理でもない、本物の肉じゃががあった。退院してから、初めて作ってもらった肉じゃがだ。
「おおう」
僕はたどたどしく箸で中ぐらいの芋をつかみ、口の中に放り込む。うまい。少し甘めで、出汁の効いた朋美の肉じゃが。もう二度と食べられないと思っていた肉じゃが。
「どう?おいし……」
「美味しいよ!」
朋美の言葉を遮る勢いで、僕は言った。
「良かった。これね、私の地元で作っている白醤油っていうのがあってね、それ使っているの」
「そっか、……ん?」
何か胸にざわざわっと波が来る。これは、「警戒しろ」と僕の心が叫んでいるときの兆候だ。
「ねえ、その白醤油味見できる?」
「もちろん」
朋美はテーブルから立ち上がると、キッチンに向かった。




