表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

もう一人の「エツミ」

〈春終はる日にみどりとは皮肉かな 涙次〉



【ⅰ】


 杵塚は、新車・ホンダ LY125fiの慣らし運轉をしやうと、彼の大切なタンデムメイト・由香梨に聲を掛けたが、「光流くんと約束があるの」とつれない返事。仕方なく、結城家まで行つて、スマホで輪を呼び出した。「嬉しいな、春兄さんから聲掛けてくれるなんて」-「この機種、タンデムしないと眞価が分からないと思つてね」


 それを向かひのマンションの一室から眺めてゐた、のは、誰あらう、怪盗もぐら國王の助手、枝垂哲平であつた。「あれ、杵さんまたバイク、新しいの買つたのか」

 元々、枝垂が我々の前に姿を現はしたその初めは、杵塚のバイクコレクション、ピッキングの件であつたのをご記憶か? *


 だが、彼は最早仲間とも云へる杵塚から、もう金輪際盗まぬだらう。彼には、哲學がある。「泥棒道」とも云へる嚴しい倫理を、身に着けてゐて、そこが國王に愛され、更にテオ=谷澤景六の「泥棒と實存」の主人公に撰ばれた處以(ゆゑん)であらう。因みに、テオ=谷澤の作は「アルマジロの如く」と一卷に纏められ、『地獄變』と云ふタイトルで、K談社より發売の見込みである。



* 当該シリーズ第68話參照。



【ⅱ】


 枝垂は、女など、自身の「泥棒道」には無縁であると、決めてゐた。達人・國王には、朱那と云ふ情婦がゐるが、自分はまだまだ。さう思つてゐた。


 さて、「そろそろ、自分の仕事、見付けて來な」と、國王に云はれた枝垂、久し振りに、「ソロ」のワークをしてみやうと、世間に向かふ。「こゝはクルマ、かな?」クルマの件、故買屋Xに、「髙く買ふよ」と云ひ含められてゐたのだ。



【ⅲ】


 國王譲りの荒業、バールでクルマのサイドガラスを割り、そこから腕を突つ込んで...

 余り詳しく書くと、眞似する人がゐる・笑、ので、描冩はこゝ迄。と、

「誰だ?」問ふたのは枝垂である。「それつてホールド・アップつて事~? 泥棒さん」女だ。然も若い。見ると、身嗜みなどには構ひつけず、それでゐて美しい女‐「あんた、何者だ?」‐「たゞの通りすがりよ~」どうも、オツムが緩さうな、聲ではある...



⁂  ⁂  ⁂  ⁂


〈泥棒が泥棒中に出逢ふのは危険な女と云へる相場だ 平手みき〉



【ⅳ】


 だうやら「段ボールハウス・ガアル」らしいのである。「飛んだ拾ひ物だな」頭を掻く、枝垂。「あんた名前、何てえの?」「エツミ、よお」枝垂はどきつとした。あの悦美さんと同名とは... 何かの縁は、感ぜざるを得ぬ。取り敢へず、カンテラの許に連れて行くのが、上策だらう...


 カンテラ、外殻の中にゐた。「その女人(によにん)の髪の毛をくれ」枝垂、云ふ通りに、エツミと云ふ女の髪を一本取り-「ちよつと何すんのよお」とは云はれたが- 、カンテラの中に、入れた。


 すると、直ぐに、「南無Flame out!!」の聲。カンテラ、實體化したが、「ぐわ、正視に堪へん」と息も絶えだえである。「どうしたんスか、カンさん」-「いやその女子(をなご)、大變な體驗をしてゐる。こゝで語るのも憚られるやうな凄慘な...」これも、詳述は避けなければなるまい。【魔】、レイプ、輪姦、とだけ作者、書いて置く。



【ⅴ】


「そ、それは-」-「段ボールハウスに棲むやうになつた、きつかけがそれ、であるらしい」-「...」-「枝垂くん、だうするんだ?」

 と問はれ、枝垂、熟考。「何かの縁、と云ふには、余りに重過ぎるなあ」だが、彼女は、「あんたに着いてく」とか、へらへらと笑つて云ふのだ...


「まあ、仕方ないさ。本当に『縁』なのかも知れないぜ」-「俺が考へ込んでるのは、魔界への意趣返し、の件なんです」-「まだ早い。誰が主犯、誰が共犯、なのか、調べ上げなくちやな」

 枝垂、「カネなら俺が持ちます。何卒-」カン「初對面で、そこ迄するか?」枝「自分に課せられた義務、のやうな氣がします」飽くまで、生眞面目な枝垂。カン「國王に相談の上、だな。(やつこ)さんなら、あんたの云ふ『義務』の意味、分かつてくれると思ふよ」



【ⅵ】


 この時點で、枝垂のジャッジが正しかつたかだうかは、誰にも分からない。だが彼は「カネの使ひ道が出來た。この女、俺の情婦にしやう」-もう一人のエツミ、「セックス、しやうよお」と、彼にしな垂れ掛かつた......



 ⁂  ⁂  ⁂  ⁂


〈氾濫するみどり放つて置けるかと男と女みどりの渦中 平手みき〉



 お仕舞ひ。つか、續く。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ