1. 狂詩曲
僕の名前は澤村 俊和。現在高校2年生の吹奏楽部に所属している男子高生だ。僕の担当している楽器はサックスという楽器だ。サックスには高音域からソプラノ、アルト、テナー、バリトンとそれぞれ種類がある。その中で僕はテナーサックスを担当している。テナーサックスは中音域の楽器で、曲の中ではメロディを吹いたり、時には伴奏を吹いたりとなかなかオールマイティな楽器だと思う。
だが、周りからは結局どのポジションなのといわれる。こればっかりは定まらない。僕自身はこのオールマイティーなところがテナーサックスの魅力だと思うし、普段からメロディばっかり担当しているクラリネットや伴奏しかしないチューバが体験できない世界があると自負している。それに何より僕の性格に合っているんだ。僕は比較的誰とでも仲良くできる性格で男女関係なく社交的な方だ。この強いはテナーサックスのオールマイティーなところにいい影響を与えている。なぜなら、様々な種類の楽器の人と合わせないといけないからである。テナーサックスは僕のこの性格に合った楽器だなと感じている。
このお話は僕の高校生活に起きたちょっぴり自分が変わるきっかけのお話。
7月下旬、夏休み直前の日曜日。今日は朝からセミの鳴き声が大きく、それが耳に入るたびに暑さを感じる猛暑日だ。僕は朝8:30に音楽室に着き、のんびりスコアを読んでいた。
「今日は日曜日、くそあちぃーのに今日も練習かぁ。熱中症になりそうだわ、トシ。」
と、僕に話しかけてきたのは同じ吹奏楽部のタケだ。タケの本名は青島 武。楽器はトロンボーンをやっていて、音域が同じであることもあり、よく一緒にいる同級生だ。
「日曜練習が一番疲れ溜まってしんどいよね。けどコンクールの練習は楽しいからいいんだけどね。」
「お前、ほんとコンクール好きだよな。ほら俺はさ、クラシックとかお堅い音楽よりもポップスとかジャズが好きな性分だから。コンクール時期は結果よりも自分が悔いのないように吹けたらいいなとか思っちゃうんだよな。」そう言いながらタケは楽譜を整理し始めた。
「コンクールが好きというより、やっぱり一つの曲に数か月向き合うなんてなかなかないことだからさ。とことんできるところまでやりたいんだよね。」
「たしかになー、なんだかんだコンクールでやった曲って時間がたっても体がおぼえてるもんなあ。うお、あと1分で集合だぞ!早く合奏室行くぞ。」とタケは僕を急かした。
幸いにも集合には間に合った。うちの学校の吹部の集合はかなり変わっている。まず、生活長という役職の人がいて、その人が部員全員分の名字を大きな声で叫ぶように出欠を取る。これがいまだに自分の名前がいつ言われたのか分からない時がある。今日は何とか返事できた。そして全員分言い終わると部訓を唱和する。
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いい部活を作りましょう。
いい部活とは
周りの人が笑顔になる部活のこと
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これを唱えた後に全員で「日本一になる」と10回唱える。この伝統が僕はあまり好きじゃない。日本一を目指すことが悪いことではない。しかし、今までの成績を見ると日本一なんて程遠い成績しか出したことがないからだ。吹奏楽コンクールは毎年夏の時期の行われていて、県大会、支部大会、全国大会の順で規模が大きくなっていく。それぞれの大会で金賞を取ると次のステップへ進める。毎年うちの学校は支部大会までは出場しているが全国へは一度も出場したことがない。過去で一番良くても支部大会で銀賞である。のくせに県では一番であるため、みな慢心している。
僕はこの日本一になるといっている癖にそれに向けた練習ができていないと感じている。まず、部の雰囲気だ。とてもコンクールの時期とは思えないくらい緩み切っているし、何よりみんな現状満足していることが気になってしょうがない。例えば僕がこの動きもっと精度上げたいから練習したいですと先輩に言っても先輩はいやこのままでいいと思うと言われる。つまり、頑張っている人ほど変に目立ってしまったり、浮いたりしてしまうほどの環境なのである。僕はこの空気感に堪えられなかった。これが先輩などの部員だけならまだしも先生までもがこれに等しい。妥協した指導、クオリティに憤りを感じることは少なくない。これでは僕の情熱はバカみたいじゃないかと思ってしまう。
そんな何気ない日曜練習の日、事件は起こった。
昼休み、歯磨きをしようと思いトイレに向かっていた道中、トイレ付近の廊下に多くの部員が集まっていた。人ごみを覗き見ると一年生のフルートの女の子が部長に背中をさすられながら過呼吸の発作を起こしてた。林さんと生活長の坂中さんがすぐに保健室へ連れていき、大事にはならなかった。しかし、その原因は僕にとっては衝撃的なものだった。
「びっくりだよな、あの子あの窓から飛び降りようとしていたんだぜ。それを林さんが見つけてすぐに止めれたのはよかったんだけど、あの子すごいパ二ッくになっちゃってさ。それで叫びはじめっちゃってみんな集まっちゃったんだよね。あんな取り乱しているところ大勢の人に見られたら普通に嫌だよな。」と、タケは深刻そうに言った。
「なんで飛び降りようとしたか原因はわかってないの?」と僕はタケに尋ねた。
「俺の予想だけど、パート内でいろいろあったっぽいんだよな。今日あの子パート練でフルートの上級生に厳しいこと言われているところを見かけたんだよ。」と、小声でタケは答えた。
「厳しく教える分には別に問題なくない?」
「いやそれがな、上級生があの子にそんなのも吹けないのとか、練習何もしてないじゃんとか言ってたのが聞こえて。それが原因な気もするんだよね。」 タケは気まずそうな顔で答えた。
「なるほどなー。けど僕が見ている限りあの子そんなさぼっているような子じゃないし、むしろフルートの中でも一番遅くまで残って練習してるじゃん。なんでだろ。」
「トシもそう思うよな。俺はあの同期三人が仕組んでやってるいじめじゃねーかと踏んでるぜ。」とタケはその三人を見ながら僕に言った。
その三人とは僕らの同級生のフルートの三人だ。フルートには現在三年生がいないため必然的に二年生がパートの上級生となる。だが、その三人はなかなかの曲者でみな面には出さないが手を焼いていることで部内で有名な話だ。
一人目の徳山莉乃はフルートパートのパートリーダーで表向きはしっかり者だが裏では自分の思い通りになるように先生に媚を売ってレッスンを増やしてもらうなど明らかに過剰な優遇を受けている。レッスンは多くて月に二回というルールがある中で実際は月に五回も受けているとうわさがある。
二人目の坂田哀は三人の中で一番口が悪く、あたりが強い。思っていることをすぐに言うことが多く、よくいろんな人とぶつかっているイメージがある。
三人目の中谷 由利はこの二人にくっついているだけで特に悪いイメージはない。
僕はこの三人とは比較的仲が良い思っている。会えば話せるし、まだこの部活動の中では積極的に練習しているいい同期だと感じていた。しかし、タケはずっとこの三人を警戒していて、今回はぼろが出たなと確信しているようだった。本人曰く勘はよく当たるらしい。
昼からは合奏の予定だったが個人練習になった。一年生の子の名前は藤野優香という名前でその子がなぜ飛び降り未遂をしたのかの事情聴収が始まった。まず最初にフルート三人組が一人ずつ呼ばれた。僕は不運にもいつも顧問の先生の教官室のそばで練習しているため、出入りがすぐにわかってしまいあまり練習に集中できなかった。優香ちゃんは今までそこまで関わりがなかったが、さすがになぜそんな危険な行動に出てしまったのか気になって仕方がなかった。結局個人練は集中できないまま一時間がたった。
三人の事情聴収を終えると部長の林さんが全員合奏室に集合との号令がかかった。フルートの野郎ども巻き込むなよーという批判的な声も聞こえれば、廃部になっちゃうのかなといった部の存続を危惧する声も聞こえてきた。全員が席に着くと、先生が話し始めた。
「皆さん、なんでこんな状況になっているんですか。今はコンクールに向けて練習するべき時ではないんですか。僕はこの件で何が許せないかって、後輩への指導が十分になってないことだよ!うちのいいところは後輩への指導もよさの一つだったのにいつからこんな風になっちゃったのかね。それに事情聴収した三人と藤野さんの発言が一致しないことにも憤りを感じています。僕にウソをついてるんですか。なめてるんですか。これからどうしていきたいか考えなさいよ!部長、各学年で話し合いしなさい、皆がいい方向を向くまでは練習しません、以上。」と顧問はその場を去っていった。
場の空気は最悪だ。皆がそう思った。しかしそんな中、僕は好奇心にもフルート三人組がどんな顔をしているか気になって顔をうかがうと割とケロっとしておりあたかも自分が悪いですとは思っていないくらい堂々としていた。
そんな詮索をしているうちに部長の指示により各学年で話し合いが始まった。もちろん僕ら二年生には原因の発端になった三人組がいるわけだから気まずい空気が流れた。なので僕はあえてその気まずさをかき消すように尋ねた。
「単刀直入に聞くけど、どこまで厳しくしたの?」
「私たちはそこまで厳しくしてない、これは本当。私たちが思うに多分優香ちゃん盛ってるんだよね。へたくそすぎ、やめたら?とか先輩に言われたって本人は言ってるみたいだけど私たちそんな酷いこと言った覚えまじないんだよね。」と、坂田は自信満々そうに言った。
「けどよ、今日あの子にそんなのも吹けないのとか練習してないとかあたかも決めつけていってたじゃねえか。あの子フルートの一年生の中では一番練習してるじゃんか。それについてはどうなの。」とタケは指摘した。
「私たちフルートはね常に高いクオリティを保つために厳しい目で見てるの。優香ちゃんが一番練習してることだってもちろん知ってるし、それは認めるけどここで褒めちゃっても本人のためにならないの。もっと上を目指してほしいから厳しくしてるの。私たちもそうやって育ってきたからそうするねって入ったときに言ったんだけどね。」 と、徳山は言った。
「まあたしかに、フルートは毎年厳しいイメージだし、それは伝統としてあったんだな。けどよ、今徳山が言ったことちゃんと先生に言えばわかってもらえるんじゃなねーの?俺は割と理にかなってると思ったんだけど。なんで意見が一致しないんだろうな。」とタケは申し訳なさそうに言った。
「先生には伝えたんだけどね。話してるときはうんうん来てたけどみんなの前ではあれだったから完全に優香ちゃんの味方だよね。だから私たちは優香ちゃんが話を盛っていると考えているの。まださ事前に厳しくするって言ってなかったらこうなっても無理ないけどこっちはいじめのつもりじゃないよってちゃんと説明しているし、本人もその時、頑張りたいです!ってすごい前向きだからなんで盛ってるか気になって仕方ないんだよね。」と中谷は不満そうに言った。
「けどさっきの先生の感じだと完全に僕たちを黒だと思ってるよね。どうすればいいんだろうね。」と、僕は思ってることをそのまま言った。
「私たちが厳しくしすぎたのかな。けど今までの先輩が厳しくしてくれたからこそ今上級生になったときにそのありがたみを感じてるし、乗り越えてよかったなって思うんだけど。もう厳しくするのやめた方がいいのかな。」徳山は珍しく自信なさげに答えた。
「俺が思うに、フルートって割と厳しく突き放す指導が多い気がするからもうちょい寄り添って指導してもいいんじゃね?トロンボーンは人数少ないのもあって割とマンツーマンでみっちりずっとやってきたし。その方が効率いいんじゃないかな。」とタケは答えた。
「たしかに、せっかくこっちは三人もいるんだしそっちの方が分散できて負担も減るしね。ありがとう、青島。」と坂田はお礼をした。
「ま、同期だし困ったときはお互いさまよ。みんなで先輩頑張ろうぜ。」
この話し合い最初はタケ Vs 三人組になるかと一瞬ひやひやしたけどイイ感じに終わってよかった。けどなんで優香ちゃんはあんなことまでしたんだろう。それを先生が信じ込むのも納得いかないし。けど自分たちなりに結論を出したから不遇な環境でも環境を変えれなくとも自分たちでできることを最大限やればいいんだな、よし僕も頑張らなくちゃ。どんな環境でも自分を活かせるようにこれから頑張っていこう、とトシは決心した。
処女作’狂詩曲’いかがだったでしょうか。まだまだつたない文章ですがもっと表現の幅を広げられるように頑張っていきます。狂詩曲の由来はどんな環境の中でも狂詩曲のように変幻自在に適応していくという由来です。最後まで読んでいただきありがとうございました。