表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
二度目の貴族令嬢~エレノアは産業革命に抗わない~  作者: 坂道光
Movement1:二度目の貴族令嬢生活
2/5

scene2:家族への廊下 ~エレノア@貴族の邸宅には、家族の肖像画が飾られています。

今回は、状況整理の回で短めの約1400字程度となっています。

# scene2:家族への廊下


ルーシーに導かれて廊下に出ると、懐かしさが私を包み込んだ。


「お嬢様、大丈夫ですか?まだ少しお顔色が優れないようですが」


ルーシーが心配そうに私を見つめている。


「大丈夫よ、ありがとう」


言葉とは裏腹に、心臓は高鳴っていた。


この廊下を歩くのは何年ぶりだろう。


クレイトン家の邸宅は、祖父の代から続く伝統的な造りで、廊下には何世代にもわたる家族の肖像画が並んでいる。


階段を下りながら、私は壁に飾られた肖像画に目を留めた。


「お父様、お母様、そして祖父...」


心の中で彼らの名前を呼ぶ。


お父様、ウィリアム・クレイトン卿。クレイシャー領主であり、クレイトン家の伝統工芸を守る現当主。


お母様、エリザベス・クレイトン夫人。エレガントで聡明な女性で、社交界でも一目置かれる存在。


そして今は亡き祖父、フレデリック・クレイトン男爵。かつてクレイトン家を最も栄えさせた人物。祖父は私のものづくりへの興味を最も理解し、応援してくれた人だった。


「お母様はすでに食堂でお食事中です」


ルーシーの声に我に返る。


「それから、ソフィア様とマーガレット様も。トーマス様は朝の読書タイムです」


そうか、姉たちと弟も。


1回目の人生の記憶では、長姉ソフィアお姉様は結婚して遠方に住んでいた。弟のトーマスは本来の跡取りとして期待されながらも、私の没落した家を受け継ぐことさえできなかった。


ルーシーが何か言おうとして言葉を選んでいる様子。私の様子が彼女を不安にさせているのだろう。


「ルーシー、お母様は私の夢のこと、聞いてる?」


急に思いついて尋ねてみた。話題を変えるための自然な質問のつもりだ。


「いいえ、まだ何も。ご心配でしたら、私からは何も申し上げませんので」


ルーシーは優しく微笑んだ。


「でも、お嬢様、今日はお母様との刺繍のレッスンがありますね。集中できそうですか?」


刺繍のレッスン——その言葉が私の記憶を呼び起こした。


1回目の人生では、お母様の手ほどきによる刺繍の技術が、没落後の私の数少ない糧となった。厳しい時代を生き抜くための、お母様からの最後の贈り物だったのだ。


今度は違う。


今度は、私が技術を活かして、みんなを守ってみせる。


「えぇ。大丈夫よ」


家族の声が聞こえてくる方向へ、期待と緊張が入り混じった気持ちで進む。


長い回廊を抜け、ついに食堂のドアの前まで来た。


木製のドアの向こうから、銀器の触れ合う音や穏やかな会話が漏れ聞こえてくる。


懐かしい音。失われていた日常の音。


私は深呼吸した。


感情的になりすぎず、不自然に見えないよう振る舞わなければ。


8歳の貴族令嬢として、淑やかに。


けれど20歳の記憶を持つ私の心は激しく波打っていた。


「準備はよろしいですか、お嬢様?」


ルーシーが優しく問いかける。


「ええ」


私は小さく頷いた。


ルーシーがドアを開け、丁寧に声を掛ける。


「エレノアお嬢様が参りました」


そして私の目に映ったのは、一度目の人生で失った愛する家族の姿だった。


食堂の壁際には朝食のビュッフェが美しく並べられている。テーブルの上座近くにお母様の姿。その周りには姉たちが座っていた。


「エレノア、おはよう」


お母様が微笑みながら言った。


あの優しい声。


あの温かな微笑み。


胸の奥から込み上げてくる感情に、私は立ち止まった。


震える唇を隠すように、ドアの前で静かに佇む。


この感情を抑えきれなくなるまで、あと何秒持つだろうか。



(つづく)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ