3話「二人きり」
日曜日。近頃のoは『Sヒーロータイム』の放送が終わる時間に起床する。友達に薦められていた昨日の夕方の特撮番組をほとんど見られなかったことを反省しながらも、今日は親のパソコンを借り、検索エンジン『Y!』で「プロデューサー」について調べている。
K哲哉やT♂ら作曲や作詞をする有名プロデューサーがいることを知り、鍵盤ハーモニカを吹くことで精一杯だったoにとっては縁遠い職業に感じた。
むしろ同じプロデューサーなら、テレビ番組の方に興味が湧いているくらいだ。そういえばプロ野球中継を延長する場合は誰が判断しているのだろう、と今年行われた『WBC』を見て野球に興味を持ち始めたoは「野球 中継 延長」と検索してみる。
ドラマの録画がどうのこうのという掲示板の書き込みを見かけつつ「へえ『編成』の人が決めるんだ」と色々な仕事があることに関心したところで、目的から脱線していることに気付き今度は「アイドル」を検索する。
女性アイドルではM娘。らが所属する、H!プロジェクトが人気らしい。iに会ったら聞いてみよう。学校の宿題を済ませて、この日は親と一緒にプロ野球中継を見てから眠りに就いた。
月曜日のS小学校二年二組。oは友達に、薦められた特撮番組を見逃したことを素直に伝え謝る。「まじかよ、卒業しちゃったかー」友達は『S戦隊シリーズ』や『Kライダーシリーズ』も継続して見ているため、それらも見なくなっていたoに隔たりを感じてしまったようだ。
「いや本当に時間が合わなくて」「夕方じゃん、興味無かったんでしょ」「いやだから⋯⋯」どうやら取り返しのつかないことをしてしまったらしい。ただ喧嘩には発展していないし、する事象ではないのですぐに仲直り出来るだろう。
このまま一対一で済んでいれば。
oたちのやり取りを皮切りに、特撮シリーズを見ているのか見ていないのかでクラスの男子を二分してしまったのである。「特撮を卒業している」が多数派で、oは与党に所属しながらも申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
これによりしばらくあの友達とは気まずくなってしまった。
週末が近付く。クラスではゴールデンウィークの話題になり、oもクラスメイトに家族行事の話をした。iとの予定は問題ない、というよりも先約しておいて良かった。
実はこの土曜日は祝日の「みどりの日」。ちなみに来年から「昭和の日」になるらしい。oは祝日に興味を持つと同時に「土曜日と被ると損をする」ことを学習した。
今年のGWは五連休だがその前に平日が二日あり、今のoにとっては今週の土曜日こそが最大の楽しみである。先週のようにiら姉弟と三人で遊ぶにしても、会話が尽きる予感がしたので、当初友達を誘おうかと考えていた。しかし特撮の一件で誘いづらくなってしまっていた。
まあよくよく考えれば、校区外で遊ぶ共犯者を作るだけなので杞憂であったのだが。
ついに二回目の土曜日がやってきた。地図で予習をした大通り沿いを進む。学校や友達の家を経由した前回と違い、目的地にすんなり着いた。
十五分ほど早く着いたのでブランコに乗っていると、五分後にiがやって来た。
「来てくれたんだ、嬉しい」と言うiに「そりゃ約束したからね」「ふふっ約束」「来るの早かったかな?」「そんなことないよ、お父さんが『十五分行動』ってよく言うし」ここまで会話のラリーが続き、iが続けざまに「遅れても上から見えるし、待てたから大丈夫だよ」と言う。
流石、公園の目の前に住んでいるだけあるなと思いつつ「遅れちゃいけないし」と答えてから「そういえば弟は?」とiに聞く。「お父さんが休みだからおうち、今日は私と二人きりだね」oは少しどきどきしながら、実は友達を誘おうと思っていたことを話す。
「二人きりじゃ嫌?」そんなことは断じてない。「iの弟が居ると思って」ついでにクラスで特撮シリーズを見ているかどうかで一悶着あった話をする。「ふふっそうなんだ」iが笑ってくれて良かった。
ちなみにiの上の弟は特撮デビューをまだしていないらしい。i本人は八時半の方を昨年度まで見ていたという。oは「一緒だね」と返したが、厳密には見ていた作品も違えば最終回を見届けたというiに対して、oは休日の起床時間が遅くなり最終回を迎えずに卒業したので大違いである。
「友達って難しいよね」友達の難しさをすでに知っているi。「来月までには仲直りしたいな」と、次の平日が五月一日であるためすぐにでも仲直りする気でいるo。
oは覚えたばかりの祝日の話をして「祝日なのに遊びの予定を入れてくれてありがとう」とお礼を言った。「お出かけしても混むかもしれないし」と言うiの言葉を聞いて、この公園が混まないことを神様にお願いするoであった。
「何して遊ぶ?」とoが尋ねる。これがデートか。「じゃーこの前の続きしよ?」この前の続き。iに可愛いのシャワーを浴びせる遊びだったっけ。「じゃあ『アイドルごっこ』しよう」「ふふっ、いいよ」「じゃあ勿論iちゃんがアイドルね」「o君は?」「iちゃんが決めていいよ、何役でもいいよ」内心oは前回やったプロデューサー役は向いてないと思っていたが、言い出せなかった。「うーん、じゃーね⋯⋯」iは勿体振ってこう続けた。
「また私のプロデューサーになってくれる?」。