[02]雫&千春編
「まさか、久々の再会がこんな形になるなんて、思って無かったなぁ…」
「私も、です。」
これは、雫が聖因子の力に目覚め、砂時計を得た日の話。美波、千春、雫の三人でビデオ通話を用いて軽い自己紹介を済ませ。美波がバイトの時間になった為会話から抜けた為、二人きりになった雫と千春。通話を終了すれば良い。それは二人とも分かっていた。しかし、そうする気にはならなかった。
「なんか、ごめん。」
「えっと…何の、ことですか…?」
「いや、歩夢から聞いたから。何があったか。」
「そう、ですか。ち…土屋先輩は、何も悪くないです。だから、その…気に、しないで下さい…」
「あぁ、うん。」
ー土屋先輩、ねぇ…
一人での生活で、気付かない内に口調が変わっていた雫。意図して敬語にした訳では無い。それでも、千春には壁をより強固なものにされたように感じられた。
「まぁ、こんな身だからやれることなんてお察しだけど。やれることなら力になるから。」
「…はい。ありがとうご、ざいます。」
そこから、沈黙が続く。2分ほど続いたその沈黙に耐えきれず、千春が「じゃあ、そろそろ終わろうか。」と切り出す。こうしてビデオ通話は終了した。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
ビデオ通話が終わると、いつも通りの静寂が訪れた。
ー上手く、やっていけますかね…
初めて会った美波と上手く関われるかが不安。ただそれ以上に、千春と上手く関われるかの方が不安に思えた。
ーなんというか…歩夢君とのこともあるし…気まずい、ですよね。
それは自分だけでなく、お互い様だということも分かっている。だからこそ、意識せざるを得ない。雫は、気付けば机の引き出しにあった砂時計を手に取る。
ーこれを壊せば、逃げられるんでしょうか…
一度砂時計を握った左手を振り上げ、やめる。
ーこれを機に、向き合うべき、なんでしょうか…
砂時計をそっと机の上に置き、ベッドに戻る。カーテンの隙間から入り込む光にストレスを感じて、そっとカーテンを閉めた。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
千春はスマホを台の上に置くと、深くため息をついた。
ー僕がこんなことになってなければ、少しは今の状況もマシだったんすかね…
自分が歩夢ともっと話せていたら。自分が歩夢にとって、気兼ねなく頼れる存在だったら。少しは何かは変わっただろうか。そんなことは今更無意味な仮定と分かりつつも、悩まずにはいられない。
新鮮な空気が吸いたくなり、窓を開けて外を見る。今の感情とは裏腹に、気持ちの良い風が短い髪を揺らし、赤くなり始めた紅葉が見えた。