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どうせ俺はNPCだから 2nd BURNING!  作者: 枕崎 純之助
第四章 『魔神領域』
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第22話 一閃!

「バレットさん! 負けないでぇぇぇぇぇ!」


 ティナだ。

 俺の勝利を信じているとほざいた見習い天使の金切り声が、俺の全身の神経に最後の火をともした。

 そして俺の脳裏に少し前に出会った雷の魔神である奇妙な男の顔がよぎる。

 左足にハメている雷足環カネヘキリからビリビリと強烈な振動が伝わって来る。


「終わりだ! バレット!」


 ロドリックは俺とほとんどゼロ距離で顔を突き合わせるようにして最後の一撃を放とうとしていた。

  

氷爆破臓弾フロスティー・バースト!」


 絶体絶命。

 だが……絶体絶命の危機にして千載一遇せんざいいちぐうの好機でもあった。  

 ロドリックの奥義おうぎ炸裂さくれつしようかというその刹那せつな、俺は左足でタンッと地面を打ち鳴らした。

 途端とたんにこの体から青い稲妻と赤い炎が激しく噴き出す。


 あの……雷魔神のシャンゴが得意としていた必殺の一撃を俺はまだ制御できねえ。

 多分、たった十数メートル離れている的に当てるのだって、そう簡単にはいかねえだろう。

 だが、敵がこうして目の前にいるなら話は別だ。

 この距離ならどうやっても外しようがねえ。

 相討ち上等の覚悟で俺は全身の神経をませて、新たに覚えたばかりの新技を放った。 


稲妻迅突脚レヴィン・ストライク


 まるで自分自身が稲妻と化したかのように俺の膝蹴ひざげりが一閃いっせんする。

 決着は一瞬だった。

 俺の左膝ひだりひざがロドリックの腹を直撃し、奴が奥義である氷爆破臓弾フロスティー・バーストを放つ直前に吹っ飛ばしたんだ。

 猛烈な勢いで繰り出した俺の稲妻迅突脚レヴィン・ストライクに吹っ飛ばされたロドリックは、十数メートル先のアルシエルの下半身のうろこに激突した。


「ごはあっ!」


 ロドリックは口から盛大に吐血とけつし、その場にくずれ落ちる。

 だが、前のめりに地面に倒れ込んだロドリックは、震える両手を地面に着いて、それでも起き上がろうとする。

 だが、その体には俺の攻撃で伝播でんぱした電撃と炎がまだ残っていて、バチバチと音を立ててロドリックの体を痛めつけた。

 それが奴の残ったライフを全て奪い去る。

 ロドリックは再びその口から血を吐くと、苦しげにうめいた。


「ぐぅぅ……ば……馬鹿な……俺を……上回るとは」


 そう言ったきり、ロドリックは顔を地面につけて動かなくなった。

 そのライフが0を指し示している。

 ロドリックは……息絶えた。


 それを見た俺は、その場にガックリと両膝りょうひざをつく。

 俺のライフも残り5%。

 倒れたまま動かなくなったロドリックを見て俺は深く息をついた。


 何かが一つ間違えていれば、死んでいたのはロドリックではなく俺だったかもしれない。

 俺とロドリックの生死を分けたもの。

 それは時の運だ。


 勝負には時の運がある。

 特に俺とロドリックのように実力差が大きくかけ離れていない今回のような戦いでは、時の運が左右する余地は大きい。

 俺にとっての時の運。

 それは雷の魔神シャンゴと出会い、その強さに触れ、稲妻迅突脚レヴィン・ストライクという技を知ったことだ。

 あの出会いがないままだったら俺はこの技を知らず、こうしてロドリックに対して起死回生の一撃を放つことも出来なかっただろう。


 もう一つ。

 はぐれたままだったティナとここで出会ったことだ。

 ティナがいなけりゃ俺は紅蓮燃焼スカーレット・モードを取り戻すことは出来なかったし、そうなりゃ俺の勝利はなかった。

 逆にロドリックの奴は時の運に見放されたな。


 ライフがゼロになったロドリックだが、あいつはネフレシアの製鉄所でヒルダの断絶凶刃コンティニュー・キャンセラーに刺されたため、コンティニュー不可の状態でしかばねさらしている。

 あいつに指示を与えていたのがどんな奴だか知らんが、任務とやらはまんまと失敗に終わったな。

 ざまあ見やがれ。


「ロドリックの奴、南将姫なんしょうきとか言っていたな。それがあいつの親分だってことか。何だか良く分からんが……」

「バレットさん!」

「イテッ!」


 そこでいきなり俺の背中にドンッとティナがぶつかってきやがった。

 ロドリックを倒すことに全身全霊をかたむけて燃焼し切った俺は気が抜けていて、それを受け止め切れずにドサッと倒れ込んだ。


「て、てめえ。何しやがる」

「バレットさん! 勝ちましたね!」


 ティナは気色悪いことに俺の腰にしがみついてその顔を思い切り押しつけてきやがった。


「勝つって信じてましたよ! 私、信じてたんですからね!」

「うるっせえな。離れろコラ」


 そう言って俺は強引にティナの頭を押さえつけて腰から引き離す。

 するとティナの奴は顔をクシャクシャにして目からボロボロ涙をこぼしていやがった。


「おい。なに泣いていやがる?」

「だって……だって……」


 だが、勝利の余韻よいんひたるのはそこまでだった。


「フォォォォォ!」


 アルシエルが大きくえると、奴の腰に巻かれていた漆黒しっこくくさりがついに音を立ててくだけ散っていく。

 俺たちの頭上から馬鹿でかい金属のかたまりと化したくさり残骸ざんがいが落下してきた。


「やばいぞ!」

「ひえええっ!」


 俺とティナは泡食あわくってその場から脱出する。

 ロドリックの亡骸なきがらくさり残骸ざんがいに飲み込まれていき、見えなくなる。

 俺とティナは全力で飛んでその場から脱出する。

 50メートルは離れたところで後方を振り返ると、アルシエルは全ての頸木くびきから解き放たれた感動に打ち震えるように、両手を天に突き上げ、大きくえていた。


「フォォォォォォッ!」


 ついに……魔神の王アルシエルが完全に体の自由を取り戻した。

 その瞬間、先ほどまでとは比べ物にならないほどの重圧がこの肌を震わせる。

 重力が重くなり、空気が冷たく、酸素が薄くなったようにすら感じられる。

 実際にはそんなことはねえんだが、アルシエルがその体から発するあまりの異常な魔力に俺は全身の毛が逆立つのを感じた。

 俺のとなりではティナが口を手で押さえながら苦しげにうめいた。


「ううぅっ……」

 

 ティナの奴は顔を真っ青にして、吐きそうになるのをこらえていた。

 今なら分かる。

 おそらくあの頸木くびきから解放されることでアルシエルは本当の自分の力を取り戻せる仕様なのだろう。

 あいつが3本のくさりに巻きつかれる前でさえ、ここまでの重圧は感じられなかった。


 魔神の王はまさにこいつにふさわしい称号だ。

 あのシャンゴが本気で喧嘩けんかしても負けることのほうが多いと言っていたのは、大げさでも何でもなかった。

 実際、今の俺じゃ勝負にすらならねえだろう。


「こいつはヤバ過ぎるな。この場からとっとと立ち去るぞ」

「そ、その前にパメラさんを連れていかないと」


 相変わらずアルシエルの不可逆結界は有効で、ライフの回復手段はない。

 だが幸いにしてバーンナップ・ゲージは残り30%ほどだがまだ残っている。

 ティナのハーモニー・ゲージも同様だ。

 今持てる余力を離脱に全振りすれば、この場から立ち去ることくらいは出来るはずだ。

 情けねえが今はそれしかねえ。

 

 パメラの身を隠している場所に全力で向かうティナを俺は追う。

 だが、そんな俺たちにアルシエルが後方から視線を向けてくる。

 背中越しだってのにその視線を向けられるだけで鳥肌が立つほどだ。

 思わず振り返ると、アルシエルの顔の周囲にいくつもの巨大な火球が浮かび上がる。

 その火球の異常な飛行速度を知っている俺は、ハッとして前を行くティナの手をつかんだ。


「へっ? バレットさん?」

「ティナ! 後ろからヤバイのが来るぞ!」


 だ、ダメだ。

 この距離で撃たれたら100%避けられない。

 俺はティナの手を引っ張って即座に急降下する。

 ドンッという強烈な破裂音がして撃ち出された巨大火球が、俺たちの頭上十数メートルのところを通り過ぎていく。

 

「あ、熱っ!」


 火球が通り過ぎた後の高温衝撃波に翼をあぶられ、ティナは悲鳴を上げた。

 これだけ距離があっても、熱波が押し寄せてきやがる。

 炎属性の俺はまだ耐えられるが、これじゃティナの奴が持たねえぞ。 

 俺は即座にティナに言った。


「あれを撃たれてから回避行動を取ろうとしても無理だ。ティナ。俺があいつを引き付けて時間をかせぐ。とっととパメラを連れ出して来い!」

「で、でもバレットさん。もうライフが残りわずかしか……」

「関係ねえよ。あの火球にかすりでもしたら、ライフが満タンだろうと一撃即死だ」


 俺の言葉にティナは息を飲むが、すぐにうなづいた。


「わ、分かりました。パメラさんと合流できたら、すぐに合図をします。バレットさん。せっかく勝てたんですから、絶対に死なないで下さいね!」


 そう言うとティナは全速力でパメラの隠れている場所へと向かう。

 それを見送った俺はきびすを返して再びアルシエルに向かっていった。

 前方ではアルシエルがいくつもの火球を体の周りに浮かび上がらせて、狙撃態勢に入っている。


 やばい。

 やばすぎるぜ。

 自ら死にに行っているようなもんだ。


 俺は自らの勘と運を信じてグルグルとアルシエルの周囲を羽虫のように小刻みにターンして飛び回った。

 そんな俺のすぐそばを、撃ち出された火球が通り過ぎていく。

 紅蓮燃焼スカーレット・モード能力増強ブーストがかかっているからここまで動き回れるが、残り20%ほどになっているバーンナップ・ゲージが尽きてしまえばそれも叶わない。

 そうなった途端とたんに俺はいとも容易たやすく撃ち落とされちまうだろう。


「早くしろティナ!」


 俺は苛立いらだちを吐き捨てる。

 まったくフザけた状況だ。

 何で俺があの小娘どもを助けるためにおとり役まで買って出ねえとならねえんだ。


 だが、それは俺自身がそうすると決めたからなんだがな。

 この厄介事やっかいごとだって乗り切れれば俺自身のかてになるはずだ。

 何しろ魔神の王と遭遇そうぐうすること自体がレアな出来事なんだからな。


「フォォォォォッ!」

 

 いつまでも俺を撃ち落とせないことに苛立いらだったアルシエルがいよいよ移動を開始する。

 そのへびの下半身をくねらせてグングン俺に向かってきやがる。

 その巨体が一瞬で俺の眼前まで迫って来た。

 まるで山が高速で移動しているみたいだ。 

 

「くうっ!」


 俺は即座に地上に降下して着地した。

 アルシエルは両手で俺をつかみ上げようとするが、俺は左足で地面をタンッと打ち鳴らして稲妻迅突脚レヴィン・ストライク敢行かんこうする。

 敵を攻撃するための一撃ではなく、攻撃をかわすための一撃だ。

 アルシエルは両手で握りつぶそうとした俺が、雷のように動いてそれをかわしたのを見て怒りの声を上げる。


「フォォォォッ!」


 長年の喧嘩けんか相手であるシャンゴの技を使ったことが何やら気にさわったようだな。

 アルシエルは長いへびの下半身の先をバシンバシンと地面に打ち付け、その度に地響きとともに埃臭ほこりくさい土煙が巻き起こる。

 俺のことをシャンゴの眷属けんぞくだとでも思ったのかもな。


 そこで俺の後方、数百メートルのところでバシュッと照明弾が射出された。

 ティナの合図だ。

 撤退てったい狼煙のろしを見た俺は即座にその場から離脱を開始する。

 稲妻迅突脚レヴィン・ストライクを連続で使えばこの場から逃れられるはずだ。


 俺がそう思ったその時、周囲の瓦礫がれきの合間をうようにして走る人影が視界のはしに映った。

 予期せぬ出来事に俺は思わず足を止める。

 俺が見たのは小さなガキが頭を抱えながら必死にこちらに向かって走って来る姿だった。

 そいつは俺の姿を見つけると、必死の形相ぎょうそうで声を張り上げる。


「バ、バレット! 助けてぇぇぇぇ!」


 そう叫びながら俺に向かって必死に走って来るのは、行方ゆくえ知れずになっていたクラリッサだった。

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