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どうせ俺はNPCだから 2nd BURNING!  作者: 枕崎 純之助
第四章 『魔神領域』
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第17話 白狼牙・絶

白狼牙はくろうが・絶】


 そうコマンド・ウインドウに記されたパメラは異様な姿に変化していた。

 その全身の肌から漆黒しっこくの羽毛を生やし、その背中から生える翼は血のように赤い。

 まるで魔物のような姿だ。

 俺はパメラのすぐそばまで駆け寄ったが、その腕を取ろうとしたこの手を思わず止めた。

 迂闊うかつさわることがはばかられるほど、パメラは異様な気配をその身から発していたからだ。


「パメラ……一体どうなってんだ?」

「バレット殿……ティナ殿を連れて逃げ……」


 パメラはそこまで言うのが精一杯だった。

 次の瞬間にはけもののようなうなり声を上げて俺にドンッと当て身を喰らわせやがった。


「うおっ!」


 ダメージは大したことなかったが、その速さを避けることが出来ずに俺は数メートル後方に飛ばされた。

 そしてパメラは震える手で白狼牙はくろうがを振り上げながら、金弓男アーチマンに一歩また一歩とにじり寄っていく。


「ち、近付くな! こいつを殺すぞ!」


 金弓男アーチマンはティナを抱え、人質として自分の前面に押し出した。

 その首にナイフを当てている。

 だが……パメラは真紅の翼を広げると金弓男アーチマンまでの十数メートルの距離を一気に飛び、一瞬で金弓男アーチマンの目前まで接近した。


「なっ……」


 シャンゴ並みの速さだ。

 あいつ、どうなってやがる。

 金弓男アーチマンはまったく反応することが出来なかった。

 そしてパメラはあろうことかティナの頭の上から白狼牙はくろうがを振り下ろした。


 俺が我が目を疑う中、ティナの体は真っ二つに……ならなかった。

 ガキンと金属がくだける音がしてティナを縛り上げているくさりが粉々になり、ティナは解き放たれた。

 刀を振り下ろしたパメラは苦しげな表情でティナを見下ろす。

 その目はまだ我を失っていなかった。

 あいつ……あんな姿になっちゃいるが、かろうじて意識を残してやがる。

 すぐ間近まぢかでそれを見たティナは即座にパメラに抱きついてその体を揺らす。



「パメラさん! しっかりして下さい!」

「うぅ……ティナ殿。拙者せっしゃから離れ……ぐぅぅぅぅわぁぁぁぁっ!」


 そこでパメラの面構つらがまえが変わった。

 目つきが鋭くなり、その口の辺りがまるで鳥のくちばしのように変化しやがったんだ。

 もうそれは完全に魔物の姿だった。


 俺はパメラの話を思い出した。

 白狼牙はくろうがの中にはかつてパメラの父親が倒して封印した鴉天狗からすてんぐとかいう魔物のたましいが入っているとパメラは言っていた。

 もしかしてあの姿がその鴉天狗からすてんぐなのか?

 何かの弾みでその魔物のたましいとやらの封印が解かれたのかもしれない。

 パメラの血を吸った白狼牙はくろうがの刀身は、以前までの白刃から血のような赤い刃に変わり果てていた。


「パ、パメラさん?」


 驚愕きょうがくするティナをパメラは振りほどいて投げ捨てる。


「きゃあっ!」


 ティナは近くの地面に転がった。

 金弓男アーチマンはそれを見て再びティナを捕らえようと飛び出す。

 だがそこでパメラが疾風はやてのごとく動いた。


「シャアアアッ!」


 パメラは甲高い声を発して一瞬で金弓男アーチマンに襲いかかり、白狼牙はくろうがで奴を一刀両断に切り捨てた。


「がっ!」


 哀れな金弓男アーチマンはその体を、竹を割ったように左右真っ二つに切り裂かれて即死した。

 見ているだけで鳥肌が立つほどのパメラの腕前だが……。


「クソッ! まずいぞ」


 金弓男アーチマンを斬り捨てたパメラが次なる標的と見定めたのはティナだ。

 ティナは即座に立ち上がるとアイテム・ストックから銀環杖サリエルを取り出し、必死の形相ぎょうそうでパメラに呼びかけた。


「パメラさん! 私です! 分かりませんか?」


 ティナは信じられないと言った顔で声を震わせる。

 さらに一歩前に踏み込もうとするティナの肩を俺はグッとつかんで引き留める。


「ムダだ。言葉じゃあいつは止まらねえよ。むやみに近付くな。一瞬で斬り殺されるぞ」

「で、でもパメラさんはさっき私をくさりから解き放ってくれましたよ?」

「ギリギリのところだったんだろうよ。あいつ自身、自我を失うまいとあらがっているんだろう。だが今の状態はさすがにもうヤバイ」


 今のパメラの刀の振り方を見る限り、白狼牙はくろうがが自ら意思を持って動き、パメラを引っ張り回しているようにしか見えない。

 ただの刀だったはずのそれが何で急にそう変化したのか……そうか。

 パメラの血を吸ったことで何らかのスイッチが入ったんだ。

 それが【白狼牙はくろうが・絶】ってことか。

 そこで俺はアイテム・ストックから目くらまし用に使う煙幕弾えんまくだんを取り出しながら言葉を重ねる。


「自分の手でおまえを斬り殺しちまったりしたら、パメラの奴はどう思うだろうな」


 俺の言葉にティナはハッしてとして口をつぐむ。

 フンッ。

 こいつはこうして人の良心を持ち出されると弱いからな。

 効果覿面(てきめん)のようだ。


「それより今は時間が惜しいから簡単に説明するぞ。ここに来るまでの間にミシェルに会った」

「え? ミシェル先輩に?」

「おまえの修復術の復旧と、運営本部に取り上げられていた俺たちの能力増強システムの使用許諾(きょだく)プログラムをあいつから預かっている」

「ほ、本当ですか? バレットさんの紅蓮燃焼スカーレット・モードシステムと私の天網恢恢カルマ・モードシステムも……。それならすぐにそれを……」


 そこでパメラがいよいようなりながら前方から向かって来ようとする。


「ぅぅぅぅ……ウガァァァッ!」


 俺は即座に煙幕弾えんまくだんを地面に叩きつける。

 朦々《もうもう》とした白いけむりが舞い上がり、視界をふさぐ中、俺はティナを抱え上げると即座に上空に飛び上がった。

 パメラはけむりの中を突き抜けて反対側に向かっていった。


 ヘッ。

 空振りだぜ。

 俺はそのままティナを抱えて高度を上げていく。


「だがこのプログラムを俺とおまえにインストールするためには、例のバカバカしい儀式をやらなきゃならん」

「ええっ? あ、あれをこの局面でですか? なんでそんなことを?」

「まったく同感だぜ。文句ならそれを決めたライアンに言え」


 ティナの言う通り、この局面でノンキに儀式なんてやってるひまはとてもねえ。

 アルシエルが大暴れし、ロドリックは瓦礫がれきの下にまっているとはいえ、いつまでもそのままじゃいないだろう。

 そしてトチ狂ったパメラは真紅の翼を広げて俺たちをすぐさま追ってくる。

 その時、俺の頭上でアルシエルが再び大きくえた。


「フォォォォォッ!」


 耳をつんざくような大音響に俺もティナも思わず歯を食いしばる。

 あのデカブツ、相当アタマに来てるようだな。

 そりゃそうか。

 自分の縄張なわばりどころか、すぐ膝下ひさもとで好き勝手に暴れ回られているんだからな。

 

 最後の頸木くびきである、奴の胴に巻かれた漆黒しっこくくさりはおそらくあと5分ちょっとしかもたねえだろう。

 あれが外れたらアルシエルはいよいよ自由に動き出す。

 そうなれば俺たちがここでのうのうと戦い続けることは出来ねえだろうよ。

 今すぐにでも儀式を済ませなきゃならん。


 アルシエルが俺たちやパメラを叩き落とそうと両手を振るい、それと同時に半壊した城の中からワラワラと亀の魔神どもがき出てくる。

 さっきの雄たけびは眷属けんぞくどもへの出動命令だったのかもな。

 亀どもは甲羅こうらを高速回転させて空中を飛び回る。

 俺たちの下方からパメラが深紅の翼で宙を舞いながら追ってくるが、途中で亀どもが近付いてきたためにパメラは標的をそちらに変え、その亀どもを白狼牙はくろうがで斬りまくっていく。


 固い亀の甲羅こうら白狼牙はくろうがにかかれば紙切れ同然に斬り裂かれていく。

 あいつは今、すぐ近くにいる奴を敵と認識して攻撃を仕掛けているので、俺たちを追ってこなくなった。

 とはいえ、俺たちの周囲にも亀どもが群がってきて、とても儀式をやっている余裕はない。


 そうこうしているうちに下から何かがドンッとくずれる音がして、瓦礫がれきの山の中からロドリックの奴がい出てきやがった。

 そのロドリックに対しても亀どもが群がっていく。


「か、亀の数が多すぎます!」


 悲鳴混じりの声を上げるティナを抱えたまま、俺は周囲を見回した。

 どこかに亀どもの手薄な場所は……。

 そこで俺は頭上を見上げて思わずつぶやきをらした。


「……よりにもよってあそこかよ」


 見上げる先にはアルシエルの頭がある。

 奴の眷属けんぞくである亀の魔神どもは、アルシエルの肩の高さ辺りまではわんさか漂っていやがるが、頭の高さになると一匹たりとも飛行していない。

 主人の頭の高さを飛ぶのは無礼だってことか。

 そこで俺は自分が持っているアイテムを使うことを咄嗟とっさひらめいた。


「やってみるしかねえな。行くぞティナ!」

「えっ? バレットさん?」 


 ティナを抱えたまま俺はさらにグングン上昇していく。

 亀どもが次々と襲いかかって来るが、奴らの動きの特徴はもう見慣れた。

 俺はクルクルと螺旋らせんを描くようにして亀どもをかわしながら、ついにアルシエルの顔の高さまで上昇した。

 亀どももここまでは上がって来ない。


「ひっ!」


 アルシエルの顔を間近まぢかで見たティナが思わず悲鳴を上げる。

 奴の顔はイカツイが普通の人間の男の顔だ。

 だが、目玉の大きさだけで俺の体ほどもあるその顔を、これだけの至近距離で見るのはやはり不気味だった。


 アルシエルからしてみたら、俺たちは顔の周りを飛び回るうるさい羽虫みたいなもんだろう。

 先ほどロドリック相手にそうしたように、俺たちを吐息といきで吹き飛ばすべく息を吸い込もうとする。

 ここだ!

 俺はアイテム・ストックの中から先ほどの煙幕弾えんまくだんに似た球状のアイテムを取り出した。

 そしてそれをアルシエルの口に向かって投げつける。

 

 アルシエルが大口を開けようとしたところ、それは奴の歯に当たって粉々に弾け飛ぶ。

 途端とたんに白いけむりあふれ出し、アルシエルが吸い込む息とともに奴の口の中へと吸い込まれていった。

 

「バレットさん。あれは?」

「見てりゃ分かる」


 そう言う俺の前でアルシエルの口の動きが止まり、その目の焦点しょうてんが合わなくなってくる。

 即効性の効果が出てきたようだな。

 俺が投げたのは眠りを誘う粉薬を固めた睡眠薬だった。

 

「眠り薬ですか?」

「そうだ。この図体ずうたいの奴にあんなチッポケなもんがどれだけ効くかは分からん。だが1分でもおとなしくしてくれてりゃ儀式が出来る」


 まさか魔神の王の頭の上でこんなことをするとは夢にも思わなかったがな。

 見るとアルシエルの目はトロンとして、その息遣いきづかいが静かになった。

 眠り始めたんだ。

 俺は即座にティナを抱えたままアルシエルの頭上におどり出た。


 そしてその赤茶けた頭髪の中に潜り込むようにして奴の頭の上に着地した。

 ティナを目の前に降ろすとさっとその前髪を手で上げる。

 あらわになるティナのひたいには【封】の字がまだ刻まれたままだった。

 修復術が封じられている証拠だ。


「じ、自分でやりますから」


 そう言うとティナは自らの手で自分の前髪を上げてひたいを見せる。


「こ、ここでやるんですね?」

「ここしかねえ。急ぐぞ」


 下をチラッと見るとパメラはまだ亀の魔神どもを相手にしていたが、瓦礫がれきから抜け出したロドリックは亀どもを極力避けてこちらに向かって来ようとしている。

 チッ。

 急がねえとな。

 俺はすぐにメイン・システムを操作してミシェルから預かったプログラムを起動した。


【ティナ・ミュールフェルトに修復術プログラムVer.2を再インストールします】


 混迷の戦場の中、場違いな儀式が始まった。

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