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どうせ俺はNPCだから 2nd BURNING!  作者: 枕崎 純之助
第四章 『魔神領域』
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第16話 混迷の戦場

 ロドリックの猛攻を懸命に防御しながら時折、俺は奴のすきを突いて攻撃を加える。

 能力増強ブースト状態を維持するために氷撃魔旋棍フレーズヴェルグにライフを吸わせている奴は、そうして俺から攻撃を受けるためにそのライフの3分の1を失っていた。

 だが、俺のほうはもう半分近くまでライフがけずられていて、いまだ俺のほうが不利な状況は変わらない。


「フォォォォォォッ!」


 さらには俺たちの頭上に陣取るアルシエルが20秒に一度ほどの割合でその太い右腕を振るって俺たちを攻撃してくるため、回復アイテムを使っているひますらない。

 アルシエルが腕を振るう度にまき散らされる鋭いとげのような毛を避けた俺とロドリックはすぐに再び打ち合った。

 奴が振り下ろした氷撃魔旋棍フレーズヴェルグを俺は両手の灼焔鉄甲カグツチで受け止めた。

 そんな俺に対して奴は力で押し込もうとするが、俺も負けじとそれを押し返す。

 力は拮抗きっこうしているとまでは言えねえが、俺は奴に押し負けまいとありったけの力で耐えた。 

 俺とロドリックは超至近距離で鍔迫つばぜり合いを続ける。


「思ったよりねばるな。バレット。不思議ふしぎだ。そんなにあの天使が大事か?」


 ロドリックは俺を力でねじ伏せようとしつつ怪訝けげんな表情でそう言う。


「へっ。アホ抜かせ。おまえが知る俺はそんな温情秘めた奴だったか? 俺が自分以外の他人を大事に思うわけねえだろ」


 だがロドリックはこの言葉を聞き、じっと俺を見据みすえた。


「いいや。おまえは変わった。ゾーラン隊にいた頃のおまえは天使はもちろん、同胞の悪魔であっても寄せ付けなかった。その時の姿と今が同じだとはおまえも思うまい。おそらく……あの奇妙な力を持つ天使の小娘がおまえを変えたのだろう」

「バカ言ってんじゃねえ。変わったのはおまえだろ。昔はケンカの最中にそんな気持ちの悪いおしゃべりはしなかったぜ」


 俺の言葉にそれ以上、ロドリックは何も言わなかった。

 反論する必要などないと思ったのだろう。

 だが……ティナが俺を変えた。

 ムカつくがそれは事実だ。


 悪魔の俺をみ嫌うはずの天使の身でありながら俺と行動を共にし、俺に加勢し挙げ句の果てには俺に魔王になればいいなどと抜かしやがった。

 どうかしてるぜ。

 天使のくせにな。

 だが、どうかしてるのは俺も同じかもな。


 ティナの言ったように魔王ドレイクほどのいただきを目指すなんて今の俺ごときにのたまう資格はない。

 その山のふもとにすら立ててねえんだからな。

 それでも奴らの強さの一片を知る俺は、こんなところでロドリックを相手にあっけなく負けるわけにはいかねえんだ。


 命をけずり、全神経の骨が折れて血反吐ちへどこうとも、この戦いの最後に立っているのは絶対にこの俺だ。

 決死の覚悟を持って俺は再びロドリックとにらみ合う。

 その時、俺たちの頭上でバキッというけたたましい音が響き渡り、巨大なくさりがバラバラにくだけて落下してきた。


「うおっっと!」


 俺とロドリックは互いに後方に飛び退すさって、それらを咄嗟とっさに避ける。

 途端とたん鼓膜こまくを破らんばかりのアルシエルの絶叫が響き渡った。

 

「フォォォォォォッ!」


 チッ!

 アルシエルが2つ目の頸木くびきから解き放たれやがったんだ。

 もう次の10分が経過しやがったのか。

 これでアルシエルの左右両方の腕が解放され、その可動域は格段に広がった。


 途端とたんに戦況が大きく変わった。

 アルシエルはさっきまで以上に頻繁ひんぱんに両腕を振り回して俺たちをねらってくる。

 そのせいで俺とロドリックは10秒ほど攻防を繰り返す度にいちいちアルシエルの攻撃を避けなければならなくなった。

 面倒くさいことこの上ない。


 だがこの状況はどちらかと言えばロドリックに不利に働くだろう。

 奴は今の能力増強ブースト状態を続けるためにライフを徐々に減少させている。

 だから俺を片付けるために時間をかけたくないはずだ。

 しかし10秒間しかまともに打ち合えないとなると、俺もロドリックも互いに大きなダメージを与えるまでには至らない。

 戦いは膠着こうちゃく状態になりつつあった。 


 さらにアルシエルが両腕を使えることでその攻撃が頻繁ひんぱんになったため、城の残骸ざんがいに隠れてやり過ごそうとしていた金弓男アーチマンが耐え切れずに悲鳴を上げる。

 

「ひええええっ! 親方! もう逃げ切れねえ!」


 アルシエルが腕を振るうたびにその針のような毛が四方八方に鋭く飛び、それを必死に避ける金弓男アーチマンはもう限界のようだった。

 ケッ。

 情けねえ猿だぜ。


 あいつは勝手に死んでくれて構わねえが、このままだとティナが巻き添えを食う。

 八方(ふさ)がりなのはロドリックだけじゃなく俺も同じだ。

 どうする?


 俺はアルシエルの攻撃を避けつつ、ロドリックと打ち合いながら次の一手を考える。

 このままロドリックの攻撃に耐え続ければ、奴のライフが自然と減っていき、どこかであいつは能力増強ブースト状態を解かざるを得なくなるだろう。

 それを待つか……いや、それは俺の戦いじゃねえ。

 俺の戦いは堅い門をこじ開けて押し通る道だ。


「どうしたロドリック! 俺をぶっ殺すんじゃねえのか! もっと来いよ!」

「その口を今すぐだまらせてやるっ!」


 俺とロドリックはアルシエルの腕をかいくぐって再び接近する。

 だが、そこで状況を大きく変える闖入者ちんにゅうしゃが姿を現したんだ。

 金弓男アーチマンが困惑の声を上げる。


「お、親方!」


 アルシエルの飛ばす針から右往左往して逃げ惑う金弓男アーチマンの背後にある瓦礫がれきを飛び越えてきた奴がいた。

 その姿に俺は目をいて思わず声を上げる。

 それは刀を手にした小柄こがらな女だった。


「パメラ!」


 そう。

 大河に流されて行方不明ゆくえふめいになっていたサムライ女のパメラがそこに姿を現したんだ。

 やっぱり生きていやがったか。

 だが……パメラの様子は明らかにおかしい。

 あいつが握る白刃の刀、白狼牙はくろうがは完全にバグに包まれていた。

 さらには、その白狼牙はくろうがを握るパメラの手までバグが浸食しんしょくし始めていやがる。


 そうだ。

 あいつは製鉄所でロドリックと戦い、あのナックル・ガードによる攻撃を刀で受け止めたんだ。

 そのせいでバグッたんだろう。

 だが妙だ。

 以前にも同じロドリックからバグを負わされた白狼牙はくろうがは一度ティナの手で正常化されている。


 ティナの修復術で正常化された物質には抗体が備わり、それ以降は二度目の感染をしなくなるはずなんだが……。

 俺はそこでロドリックのナックル・ガードにヒルダの耳から吸い出した虫が吸収されていったことを思い返した。

 あの虫こそが不正プログラムの保持者だったんだ。

 ということはそれを吸い込んだナックル・ガードには、何らかの変質をげた不正プログラムが備わっているってことだろうか。


 そもそも不正プログラムによるバグは、保持者がその意図いとを持って相手に感染させることで対象物に付着する。

 バグった物質に触れただけでは二次感染は起こらないはずなんだが……。


「チッ! 邪魔者めが」


 ロドリックはパメラがこの場に現れたのを見て舌打ちをする。

 するとそこでロドリックの頭上からアルシエルが腕を振り下ろした。

 ロドリックは後方に飛んでそれをかわす。

 だが、アルシエルの腕が城の尖塔せんとうに当たり、くだけた瓦礫がれきがロドリックの頭上に降り注いだ。


「ぐおっ!」


 ロドリックはこれを避け切れずに瓦礫がれきに飲み込まれていく。

 これは……思わぬチャンスだ!

 俺はティナを捕らえている金弓男アーチマンに向かって駆け出しながら声を張り上げた。


「パメラ! 動けるか? そこで捕まっているマヌケな見習い天使を奪い取れ!」


 だが、パメラの動きはにぶい。

 白狼牙はくろうがを振り上げようとするも、バグッたその手はブルブルと震えてまともに動かせそうもない。

 パメラはその表情を苦悶くもんゆがめ、うめくような声を上げる。


「バ、バレッド殿。拙者せっしゃ……」

「ケッ! 今さらお呼びでないんだよ! 死ねっ!」


 刀を振るえないパメラに向けて金弓男アーチマンは矢を放つ。

 パメラは必死に転がってこれを何とかかわすが、金弓男アーチンマンの弓・金蛇の弓(ヤクルス)から放たれた矢は地面に落ちるとへびの姿に変化してパメラに襲いかかる。

 

「くっ!」


 パメラが懸命にそれを避けようとしたその時だった。

 唐突に白狼牙はくろうがを持つ右手がビンッと跳ね上がったんだ。

 その勢いでパメラ自身が強引に上半身を引き起こされるほどだ。

 何だ?

  

 パメラのバグった右手は白狼牙はくろうがを振り下ろし、金蛇の弓(ヤクルス)へびどもを叩き切っていく。

 だがその太刀筋たちすじはとてもパメラのものとは思えないほど荒々しく乱雑だった。

 どうなってんだ?

 パメラが振り回されている。

 まるで白狼牙はくろうががパメラの意思とは無関係に自分勝手に動いているようだ。


 そしてあまりにも勢いよく刀を振るい過ぎたため白狼牙はくろうがは、まだバグッっていないパメラの左腕をも切り裂いた。


「うぐっ!」


 苦痛の声を上げるパメラの左の二の腕から鮮血が舞い散った。

 途端とたんに刀のバグがパメラの左腕にまで広がった。

 やはり二次感染していやがる。

 だが、さらに俺をおどろかせたのは、パメラの血を浴びた白狼牙はくろうがの刀身が不気味な変化を遂げたことだった。

 

「な、何だ?」


 白狼牙はくろうがの刀身は見る見るうちに赤く染まっていく。

 するとパメラの背中から真っ赤な翼が生える。

 以前に白狼牙はくろうが・翔の時に見た灰色の翼とは明らかに違う。

 そしてパメラの肌から黒い羽毛が生えて来てその全身を包み込む。


 何だ?

 あの変化は。

 奇妙な姿に変化したパメラは必死の形相ぎょうそうで声を張り上げた。

 

「バ、バレット殿! 拙者せっしゃに近付かないで欲しいでござる!」


 そう叫ぶパメラの頭上に突如としてコマンド・ウインドウが開いた。


白狼牙はくろうが・絶】


 コマンド・ウインドウにはそう表示されていた。

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