表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
どうせ俺はNPCだから 2nd BURNING!  作者: 枕崎 純之助
第四章 『魔神領域』
52/72

第6話 赤肌男

「くそったれぇぇぇぇ!」


 赤肌男レッド・スキンどもが投げる岩石の集中砲火を浴びながら、それでも俺は螺旋魔刃脚スクリュー・デビル・ブレード敢行かんこうした。

 一番間近(まぢか)にいる野郎に向かって。

 そして回転する爪先つまさきでそいつの手首を直撃した。


「グギャッ!」


 そのはずみで赤肌男レッド・スキンは岩石をポロリと落とす。

 俺は即座に螺旋魔刃脚スクリュー・デビル・ブレードをキャンセルした。


しびれちまいな!」


 そう言うと俺は左足を振り上げた。 

 そして勢いよく振り下ろす。


電撃間欠泉スタンガン・ガイザー!」


 俺の叫び声と同時に目の前の赤肌男レッド・スキンの足元から青い稲光が立ち昇る。

 激しい閃光を浴びた赤肌男レッド・スキンが苦痛の声を上げた。


「ギャッ!」


 どうもこいつらには炎よりも電撃のほうがよく効くようだ。

 だが巨岩鬼ロックロプスもそうだったが、一つ目の奴ってのはすべからくその目が弱点なんだ。

 そこで俺は間髪入れずに酒を口にふくむと、しびれて動けなくなった赤肌男レッド・スキンの一つ目に吹きかけた。

 そのまま灼熱鴉バーン・クロウを放って赤肌男レッド・スキンの顔面を激しく炎上させてやる。


「ギアアアアアッ!」


 目を焼かれた赤肌男レッド・スキンは顔を手で押さえて苦しみ始める。

 効いてるぞ。

 俺はそこへ一気に連続技コンボを繰り出した。

 左右の拳連打からの蹴りを含めた10連撃を続け、仕上げに魔刃脚デビル・ブレード喉元のどもとに叩き込んだ。


「オラァッ!」

「ガウゥゥゥ!」


 赤肌男レッド・スキンはのけって倒れるが、それでもまだ起き上がろうとしていた。

 チッ。

 全力で叩き込んでやったが、それでも赤肌男レッド・スキンのライフはまだ半分以上残っていやがる。

 魔刃脚デビル・ブレードを食らわせた奴の喉元のどもとも切り傷は出来ているものの浅く、上皮のみにわずかに血がにじんでいる程度だ。


 こいつら……本当に魔神なんじゃないのか?

 そうだとしたら上級種と同等と言われる魔神なだけのことはある。

 1対1なら俺にもやりようがあるが、複数の連中を相手にするのはさすがに分が悪過ぎた。

 森を包み込む炎は木々を焼き、赤肌男レッド・スキンどもの行動に制限をかける効果があるが……。


「ブォォォォッ!」


 何だ?

 俺が周囲から迫り来る赤肌男レッド・スキンたちに警戒しているその時、森の奥から不気味な咆哮ほうこうが響き渡ってきた。

 その声がした途端とたん、俺を取り囲んで近付こうとしていた赤肌男レッド・スキンどもが、急に俺と一定の距離を保ったまま動かなくなった。


 何だ?

 いぶかしむ俺は、近付いてくる足音に気付いて身構えた。

 焼ける木々をなぎ倒すようにしてそこに現れたのは、他の奴らより一際腕が長くて手がデカい赤肌男レッド・スキンだった。

 その姿に俺は目を見張る。


「見つけたぞ……」


 そこに現れたのはあごに傷を赤肌男レッド・スキンだった。

 そしてその太い腕には特徴的な黒い紋様もんようの入れずみられていて、赤い肌と不気味なコントラストをかもし出している。

 ティナの奴をさらっていった腕と同じ入れずみで、他の赤肌男レッド・スキンどもには一切ない特徴だった。


 間違いねえ。

 製鉄所にいた野郎だ。

 あの野郎。

 やっぱりここにいやがったか。


 あいつが現れた途端とたん、他の奴らが緊張した様子を見せている。

 あいつだけが入れずみをしていることからも、あいつがここの連中のボスだと見て間違いない。


「よう。探したぜ。あの時はよくも俺をぶっ飛ばしてくれたな。借りを返しに来たからしっかり受け取りな」


 俺の言葉にも赤肌男レッド・スキンは反応を見せない。

 言葉は通じねえようだな。


 だが赤肌男レッド・スキンのボスである顎傷男ジョー・スカーは俺の顔を見た途端とたんけわしい表情で敵意をき出しにしてきた。

 確かに俺は製鉄所で奴の腕を魔刃脚デビル・ブレードで斬りつけたが、奴の腕はすぐに元通りに戻っちまった。

 それにあの時こいつはの中からその腕しか出しておらず、あいつから俺の顔は見えなかったはずなんだがな。


「グルルルル……」


 だがそこで俺は奴の様子がおかしいことに俺はすぐに気付いた。

 その長い左腕の先には、あるはずの巨大な手が無かったんだ。

 顎傷男ジョー・スカーの左手は手首からスパッと切り落とされたかのように消えて無くなっていた。

 俺が魔刃脚デビル・ブレードで斬った時はすぐに切り口が再生して元通りに戻っちまったんだが、あいつの腕を見事に斬り落とした奴がいるってことか?


 確か奴は左手にティナをつかんでいたはず……ん?

 その左手首の斬り口がボヤけて揺らいでいる。

 あれは……。


「バグか」


 顎傷男ジョー・スカーは斬られた左手首にバグの不具合を負っていた。

 それを見た俺は奴の手首を斬り落とした人物をすぐに想像できた。

 ロドリックだ。

 そういうことか。


 俺もロドリックも同じ下級悪魔だ。

 顎傷男ジョー・スカーから見れば同じツラに見えるんだろうよ。

 だから俺に敵意をき出しにしていやがるのか。


 そして俺は状況を予想した。

 製鉄所で黒い水に飲み込まれた後、ここに落ちたロドリックは顎傷男ジョー・スカーと一戦交えてティナを奪い取ったんだ。

 ということはティナの奴は今、ロドリックに捕獲されているってことか。


 ちょうどいい。

 2つの目的が一度に果たせそうだぜ。

 俺は目の前の顎傷男ジョー・スカーにらみ付けると、無駄むだだと知りながら声をかけた。


「自慢のビッグ・ハンドが無くなって気の毒だな。お前の手をそんなふうにした野郎はどこ行ったんだ?」


 そう言うと俺はニヤリと笑って見せた。

 言葉が通じない奴だが、俺の表情を見て、さらに激しくうなり始める。

 

「ガゥゥゥゥッ!」


 敵意なんてもんじゃねえ。

 俺に向けられるそれは明確な殺意だ。

 その様子から見ても、こいつがロドリックに手を斬り落とされたのは間違いないようだな。


「そううなるんじゃねえよ。その手をやったのは俺じゃねえぞ。けどまあ、これから俺がもう片方の手もやってやるけどな」


 そう言うと俺は腰を落として顎傷男ジョー・スカー対峙たいじする。

 周囲から遠巻きに見ている赤肌男レッド・スキンどもはギャーギャーとはやし立てながらも決して近付いてこようとはしない。

 ボスのケンカに水を差さねえようにってことか。

 よくしつけられてんじゃねえか。


 俺は全神経を目の前の顎傷男ジョー・スカーに集中させた。

 能力スペックは間違いなく敵が数段上だ。

 あのデカイ拳でクリティカル・ヒットを浴びてしまえば大ダメージはまぬれない。

 格下の俺が勝つには一つのミスもなく立ち回り、相手のミスを一つも見逃さずに好機をつかむ必要がある。


 そして相手のミスを誘うには、こちらがアクセル全開の攻撃で攻め続けることが重要だ。

 俺はすばやく右足を振り上げると、鋭くそれを振り下ろして地面を踏んだ。


噴熱間欠泉ヒート・ガイザー!」


 顎傷男ジョー・スカーの足元から炎が立ち上る。

 だが奴は足を焼かれてもまるでひるまない。

 しかし炎が収まる瞬間には俺は奴の前方1メートルの間合いまで入り込んでいた。

 こいつらは腕が長い分、間合いに入り込まれると対処し切れなくなるはずだ。


「オラアッ!」


 俺はそこから顎傷男ジョー・スカーあごを右足で蹴り上げ、そのまま体をひねって左足で奴ののどに後ろ回し蹴りを叩き込む。

 そこからさらに奴の目に向けて灼熱鴉バーン・クロウを放った。


「燃え尽きろっ!」


 だが顎傷男ジョー・スカーはそのデカい口から大量の息を吐き出して、灼熱鴉バーン・クロウをかき消した。

 チッ。

 この至近距離からの攻撃に対して反応が早い。

 ボスなだけあって他の赤肌男レッド・スキンとは反応速度が違う。


 だが俺はそのまま攻撃を続けた。

 射程距離の長い相手に対して至近距離からの連続攻撃が有効なのは間違いない。

 それでも俺は果敢に顎傷男ジョー・スカーを攻め立てながらも、冷静に神経をませていた。

 俺はこの世界のことと同様、こいつらのことも何も知らない。

 この顎傷男ジョー・スカーが近距離攻撃の手段を持っていたとしても何ら不思議ふしぎはないんだ。


 思い込みや決め付けは命取りになる。

 そして俺のその勘は間違っちゃいなかった。

 顎傷男ジョー・スカーの目がカッと見開かれたかと思うと、そこからまばゆい光が放射されたんだ。

 俺は思わず目を閉じたが、目蓋まぶたの裏から焼けるような光に照らされる。

 目を少しだけでも開けたら眼球が焼かれちまって視界が利かなくなるだろう。


 この野郎。

 接近してくる敵を排除するために目眩めくらましのスキルを持っていやがったか。

 だが、目を閉じているくらいで俺が攻撃できないと思ったら大間違いだぜ。


魔刃脚デビル・ブレード!」


 俺は自分と相手との距離感を測って前方に突っ込み、奴の目を切り裂くべく右足の魔刃脚デビル・ブレードを横なぎに払った。

 だが、俺の攻撃はむなしく空を切る。


「なにっ?」


 距離感は間違っていないはずだが、そこに敵の姿はなかった。

 そこで辺りを包み込む光が消えた。

 そして空振りをした俺の体を目掛けて何かがうなりを上げる。

 やばいっ!

 俺は咄嗟とっさに体を上昇させたが、避けきれずに左足のひざ付近を払われて体勢をくずした。


「ぐっ!」


 強烈な痛みに思わず目を開けた俺は、俺の足を払ったのが顎傷男ジョー・スカーの腕だと気付いた。

 そこで俺は理解した。

 顎傷男ジョー・スカー目眩めくらましの光を放つと同時に、後方に下がっていやがったんだ。

 だから俺の魔刃脚デビル・ブレードは空を切り、顎傷男ジョー・スカーの長い腕は俺にヒットしたってわけか。

 体を払われた俺は、風に舞う木の葉のように空中で回転しながら落下した。


「ぐああああっ!」


 受け身を取ろうとした俺の背中が、燃える木のみきに激突する。


「ぐはっ!」


 先ほど赤肌男レッド・スキンどもの投石を受けて痛む背中に追い打ちをかけるような激痛が走る。

 俺は地面に落下すると歯を食いしばってすぐに起き上がった。

 だが、痛むのは背中だけじゃなかった。

 払われた左足は鈍痛どんつうを感じ、力が入らなくなっていやがる。


 まずいな。

 この感じだと筋を痛めたか、最悪、骨にヒビでも入ったかもしれねえ。

 左足は何とか動かせるものの、この状態では強く踏み込むことは難しいぞ。

 俺が足を痛めたことを手ごたえから感じ取ったようで、顎傷男ジョー・スカーは間髪入れずに俺に向かってくる。

 こっちに回復のすきを与えないつもりだ。

 

「くそっ!」


 俺は羽を広げると空中に浮かび上がった。

 この足の状態なら地面をかけ回るより空中を飛んだほうがマシだ。

 一筋縄ひとすじなわではいかない敵を前に、俺は全身の神経をませて戦いに埋没まいぼつしていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ