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どうせ俺はNPCだから 2nd BURNING!  作者: 枕崎 純之助
第四章 『魔神領域』
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第5話 地底の大河と天上の森

「くそったれが」


 砂利じゃりだらけの川原でれた身体もそのままに座り込んだ俺は、そうつぶやくと大きく息をつく。

 重い疲労感が体にのしかかっていた。


 フクロウ姿となった俺は地底世界エンダルシュアの入口の倉庫街で白面童子ホワイト・キッズという魔物どもに襲撃される中、古井戸に飛び込んだ。

 古井戸の奥に渦巻うずまく黒いあなを見つけたからだ。

 その先で俺を待ち受けていたのは、海かと見紛みまがうほどの壮大な大河だった。

 そこに飛び込んだ俺は、ようやくこうして岸辺に流れ着くことが出来たってわけだ。


「向こう岸が見えねえ。本当に川なのかこれは」


 俺は砂利じゃりの上に座り込んだまま、あらためて目の前の悠然ゆうぜんたる大河を見つめる。

 飛び込んだのは真水だったので、海ではないことは確かだった。


「それにしてもあなはどこ行っちまったんだ?」


 そう言って俺は頭上を見上げる。

 俺をこの世界に落とし込んだ黒いあなは上空のどこにも見えない。

 俺を巻き込んだ空から降る滝もすでに跡形あとかたもなく消えていた。

 そこで俺は見上げる光景の奇妙さに思わずまゆを潜める。


「……何だありゃ?」


 見上げる天頂には地下に潜ってからすっかりお馴染なじみの分厚い岩盤があるかと思いきや、奇妙な光景が広がっていた。

 100メートルほどの高さの天井にも地面があり、そこには木々が生え、草原が広がり、川まで流れている。

 まるで逆さまの世界だ。

 重力はどうなってんだ?


 大河を泳いでいる時は上をじっくりと見る余裕がなかったが、奇妙な世界だ。

 ここはどこなんだ?

 地底世界エンダルシュアのさらに地下……。


「まさか……魔神領域とか言わねえだろうな」


 魔神領域。

 エンダルシュアのさらに地下に存在するとささやかれる魔神どもの住処すみか

 ティナの奴がパメラに話して聞かせた与太話よたばなしだ。

 そんなもんは空想上の世界としか思っていなかったが……。


「ん?」


 そこで俺は視界のはしで何かが動くのをとらえた。

 100メートルほどの高さのところにある天井に生い茂る森の中を何かが動いていやがる。

 背の高い木々の間を数多くの何かが行き交っている。

 緑色の森を背景に赤いものがうごめいているため、遠目にも分かりやすい。


 この世界がどこなんだかハッキリ分からんが、とにかく行動するほかない。

 そう思った俺はアイテム・ストックから回復ドリンクを取り出して飲み干すと、羽を広げて川原からから飛び立った。

 グングンと天井に近付いていくにつれ、天井の森をうごめいているのが何であるか見えてくる。

 その様子に俺は目を見張った。


「あれは……」


 製鉄所に現れて俺たちを襲い、ティナを連れ去った赤い肌の奇妙な腕。

 それによく似た特徴を持つ奴がいる。

 そいつの肌は赤く、その体のサイズに対しての両腕だけが異様に長くて巨大だ。

 背丈は3メートル弱はあるが、それ以上に腕が5~6メートルはある。

 そして、そういう奴が十数人の群れを作っていた。

 

「製鉄所に現れた奴があの中にいるのかもな」


 そう思って天井に近付いた俺は奇妙な感覚に襲われた。

 頭上から引っ張られるような感覚を受け、思った以上の速度で俺の体は天井に向かっていく。

 上昇するには際に羽を強めに動かして推力を高めるんだが、今は落下しているかのような速度超過が見られる。


「おっと!」


 俺は羽の動きを調節して速度を緩めた。

 すると不思議なことに上昇して目指していたはずの天井が地面のように思えて、俺はそちらに足を向けて天井に『着地』した。

 そこは森の中であり、木々の切れ間から頭上を見上げると、先ほどまで俺がいた大河の川原が天井に見える。

 

 天地逆転した奇妙な光景だった。

 これは不正プログラムの影響なのか、それとも元からこうした世界なのかは分からんが、そのことを気にしている余裕は俺にはない。

 俺が森に着地すると複数の赤肌男レッド・スキンどもが目ざとく俺を見つけて群がってきやがったんだ。


 俺は奴らの姿を間近まぢかで見て思わずまゆを潜めた。

 全員、一つ目なのは変わらないが微妙に顔が違う。

 頭髪がある奴、ない奴、丸顔の奴、細面の奴。

 だが、奴らはすべからくその頭上に六茫星ろくぼうせいのNPCマークがある。


 何だ?

 見たことのないマークだな。

 俺はここが本当に自分のいるゲームと同じ世界なのか、にわかには信じがたかった。 

 ここに来てから妙なことばかりだ。


 そんなことを考えていると数体の赤肌男レッド・スキンたちが長い腕を駆使して木から木へとすばやく移り渡って来る。

 その動きは相当な速さであり、木々を移動するのも手慣れたもんだ。

 ここは奴らの慣れ親しんだ領域テリトリーなんだろうよ。

 

「さっき製鉄所にいた奴は上級種並みの強さを持っていたはずだ。そんな奴らがあんなに徒党を組んでいやがるのは相当やばいな」


 そう言いながらも俺の胸には戦意が宿っていた。

 俺はアイテム・ストックからカラシヨモギのたばを取り出すと、指先をパチンと鳴らして炎を宿す。

 そしてカラシヨモギの束に着火すると、そいつを風上に向かって投げた。

 それからガスマスクを装着する。


 相手は上級種クラスの強さで多数、しかも地の利は完全に相手にある。

 こっちは俺1人。

 まともに戦っても勝機は限りなくゼロに近いだろう。

 なら、あらゆる手を使って戦う。

 前回の戦いで上級種のアヴァンやディエゴとやり合った時もそうだった。


「まずはおまえらの住処すみかを俺の大好きな火の海に変えてやるよ」


 そう言うと俺は赤肌男レッド・スキンらから離れるように走りながら、そこかしこの木々に灼熱鴉バーン・クロウを放って燃やす。

 そしてアイテム・ストックから高アルコール度数の酒を取り出すとそいつを口に含んだ。

 それを燃える木々に向けて吹きかける。

 途端とたんに木々は激しく燃え上がった。


 俺はそれを繰り返す。

 枝葉が密集しているため、炎は次から次へと燃え移り、森の中は一気に熱風吹き荒れる火事場となった。

 そして連続してカラシヨモギのたばを投げ続けたために、辺りは黄色い煙で朦々(もうもう)として視界が悪くなる。


 その中を移動し続ける俺の前に一体の赤肌男レッド・スキンが近付いて来やがった。

 そいつは燃え盛る木々の炎をものともせず、長い腕で枝から枝をつかんで突っ込んでくる。

 だが、あと2本ほどの木を経由すればその長い腕が俺に届こうかというところで、赤肌男レッド・スキンつかんだ枝がバキッと折れた。

 

 よし。

 ねらい通りだ。

 炎にあぶられた木は弱く、もろくなる。

 腕だけが異様に長くて大きな赤肌男レッド・スキンどもは足は短く、手で木をつかんで移動できなくなれば、その機動力は半減以下になるはずだ。

 枝をつかみ損ねた赤肌男レッド・スキンは予期せぬ事態に反応できず、地面に落下した。


「ギャフッ!」

「目玉をこんがり焼いてやるよ! 灼熱鴉バーン・クロウ!」


 俺はそいつの顔面に灼熱鴉バーン・クロウ浴びせかけると、酒をあおって思い切り吹きかけてやった。

 すると炎に引火した酒が赤肌男レッド・スキンの目や口の中を焼く。


「ギャオオオオッ!」


 こいつらは体の外からは熱に強いようだが、目や口の無顔を焼かれるのはさすがに耐え切れないようだ。 

 そして辺りにただようカラシヨモギの煙が濃くなってきたせいで、赤肌男レッド・スキンどもの一つ目からは大粒の涙がこぼれ始めていた。

 視界が覚束おぼつかず、動き回る俺を目で追えなくなっている。


「ウラアッ!」

「ギャフッ!」


 俺は目の前の赤肌男レッド・スキンの顔面を思い切り蹴り飛ばすと、煙のただよう森の中を走り回った。

 森の中は奇妙な黒い岩石がそこかしこにゴロゴロと落ちている。

 それにつまづかないよう俺は足元を確かめながら走った。

 

 赤肌男レッド・スキンどもにあまり近付き過ぎると、前みたいにあのリーチの長い巨大な手でぶっ飛ばされるかもしれねえ。

 製鉄所であの巨大な手でぶっ飛ばされた時は、かなりの圧力を感じた。

 奴らの射程距離に入らないよう俺は最新の注意を払う。


 だが、俺にも優位性アドバンテージはある。 

 奴らに無くて俺にある武器は羽だった。

 俺は周囲を警戒しつつ、すはやく飛び上がった。


 赤肌男レッド・スキンどもは空を飛ぶことが出来ない。

 こっちが空中にいる以上、手出しは出来ないはずだ。

 そう思った俺だが、その考えは甘かった。

 俺は目の前から迫り来る何かに気付き、咄嗟とっさに半身の姿勢でこれをかわした。


「うおっ!」


 ブンッとうなりを上げて俺のすぐそばを通り過ぎていくそれは、黒い固形物で、その大きさは俺の頭よりもデカい。

 下を見ると、赤肌男レッドスキンどもがその巨大な手で握りしめた何かを俺に向かって投げつけてくる。

 その速度たるや強烈で、俺が地上からの高さ30メートルほどの場所にいるってのに、ほぼ一瞬でそれは俺の目の前まで迫ってくる。


 見ると、燃える森の中から多くの赤肌男レッドスキンどもが俺を見上げて標的と定め、次々と地面から何かを拾い上げてはそれを投げつけてきていた。

 俺は投げられた物の正体に気付き、戦慄せんりつを覚える。

 それは森の中にゴロゴロ落ちていた黒い岩石だった。


 赤肌男レッド・スキンどもはその腕の長さと手の大きさ、そして強い握力を 武器にした投射攻撃を得意としていやがるのか。

 そして奴らが投げた岩石は速いだけでなく、かなり正確なコントロールで俺をねらってきやがる。

 あんなもんをあの速さで食らったら大ダメージはまぬがれない。

 もし頭に直撃したら、一発で即死しかねねえぞ。


 俺はとにかく距離を取るために、より上空へと逃れようとした。

 ここは一旦引くべきか……いや。


「……引いてどうする。俺は連中に用があるんだ」


 俺は口を引き結ぶと、体内の魔力を高めながら全速力で降下した。

 そんな俺を目掛けて次々と岩石が投じられる。

 すぐ間近をうなりを上げて通過していくそれらに俺は歯を食いしばった。

 死ととなり合わせの急速降下の中で、俺は得意技を繰り出す。


螺旋魔刃脚スクリュー・デビル・ブレード!」


 俺はドリル状に高速回転しながら降下する。

 この技は相手を貫く攻撃技でありながら、高速回転によって相手の攻撃を弾いていなすという防御技としての側面も持ち合わせている。

 あのゴツい岩石をどこまで弾けるか分からんが……。


「ぐうっ!」


 そこで回転する俺の体を激しい衝撃が襲った。

 飛び交う岩石の一つが俺の背中付近に命中しやがったんだ。

 回転のおかげで岩石は弾き飛ばされたものの、肩甲骨けんこうこつの間に強烈な痛みが走る。

 だが、それでも俺は回転を止めなかった。

 止めればねらい撃ちにされる。


「くそったれぇぇぇぇ!」


 そのまま俺は地上で投射体勢に入っていた赤肌男レッド・スキンに襲いかかった。

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