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どうせ俺はNPCだから 2nd BURNING!  作者: 枕崎 純之助
第三章 『地底世界エンダルシュア』
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第5話 騒乱

 市長室に3名の職員たちが助けを求めて駆け込んできやがった。

 2名の男と1名の女のNPCはいずれもボロボロだが、さっきこの部屋にフラフラと入り込んで来た女のNPCとは違い、意識はハッキリとしているようだ。


「き、君たち……大丈夫かね!」


 市長はすぐに3人に駆け寄り、部下たちの悲惨な有り様に声を震わせた。

 

「ど、どうしてこんな……」


 職員らの衣服はビリビリに破かれ、何者かに暴行された跡がうかがえる。

 男2人は恐怖で顔を引きつらせ、女は取り乱して泣いている。


「わ、分かりません」

「しょ、職員たちが突然暴れ出して……」


 ちゃんと意思疎通は出来る。

 こいつら……新式のNPCか。

 そういえば、さっき市長が言っていたな。

 この市庁舎では各部署をそれぞれまとめるリーダーは新式のNPCで、それ以外の一般職員は全員が旧式だと。


 俺は持ち上げていた机をその場に下ろすと、市長室の出入口から外に出た。

 すると廊下ろうかの奥から職員のNPCどもがこちらに向かってくるのが見えた。

 その数は十数人だ。

 どいつもこいつもフラフラと足取りは覚束おぼつかない。

 そして一様にその顔には表情がなく、体のあちこちがバグッていやがる。


 俺に続いて廊下ろうかに出てきたティナとパメラは息を飲むが、最後にクラリッサを連れて出てきた市長はさらに顔面蒼白(そうはく)になっていた。

 さらに市庁舎のあちこちから悲鳴が聞こえてくる。

 市長室に駆け込んで来た奴らと同じく、襲われてる奴らがいるんだろう。


「市長様。彼らは皆、旧式のNPCですか?」


 前方からフラフラと歩いて来る奴らを指差して、ティナがそう問うと市長はうなづいた。

 

「はい。新式のNPCならば胸に所属長証のバッジをしているはずです」

「なるほど。まだ断定はできませんが、様子がおかしくなっているのは旧式のNPCばかりの可能性がありますね。ということはこの市庁舎の中で襲われているのは新式のNPC……」

「そいつらを助けて回るとか言い出すなよ? 俺たちの目的は何だ? そいつを見誤るんじゃねえぞティナ」


 俺はまたティナの悪い虫がうずき出すことを察知して先にそう言った。

 目の前の連中を助けて回ってたらキリがねえ。

 ヒルダと再び対峙たいじする前に俺たちはティナの修復術の力を取り戻す必要がある。


「寄り道してるヒマはねえんだよ」

「で、ですが……困っている人がいるというのに」


 ティナがきつくくちびるみしめるその数メートル先にはフラフラと旧式のNPCが近付いて来る。

 だが俺がそいつをぶっ飛ばそうと動きかけたその時、パメラが白狼牙はくろうがさやごと腰帯から抜き放っていち早く踏み出した。

 そして正気を失っているNPCの足を払った。

 男のNPCはひっくり返ってもがきながら起きようとするが、その胸をパメラがさやの先で押さえつける。


「数が集まれば脅威きょういではござるが、1人1人にそう力はござらん」


 そう言うとパメラは市長に目をやった。


「市長殿。新式のNPCらが普段勤務されている場所は把握しているでござるか? あと市庁舎内に隠れられる場所はござらんか?」

「え? あ、ああ……彼らの勤務場所ならば全て分かります。あと、隠れられる場所ですが、地下に貯蔵庫がありまして、そこならばとびらも厚く、侵入される恐れはないかと」


 それを聞くとパメラはうなづき、身をひるがしてさやを振るう。

 すぐ後方から近付いて来た数人のNPCたちが次々と足を払われてひっくり返った。

 そしてパメラは俺とティナに視線を転じた。


「ティナ殿とバレット殿は先に製鉄所に向かわれよ。拙者せっしゃはここで新式のNPCらを救出してから駆けつけるでござるから」

「でもパメラさん。お1人じゃ……」

「ティナ殿。案ずる必要はないでござる。何も強大な敵と戦うわけではござらん。拙者せっしゃもうまいことやるでござるよ。市長殿。道案内を頼むでござる」


 そう言うとパメラは市長をうながして先へ進み、次々とNPCたちをスッ転がして道を作る。

 市長はクラリッサや新式のNPCたちをともなってその後をついていった。

 俺はきびすを返して市長室に戻る。

 

「行くぞティナ。地上をうろついている奴らは空は飛べねえ。さっさと製鉄所に飛んで向かうぞ。言っとくがな、間違っても途中で新式のNPCどもを助けようとするなよ。そんなことは時間の無駄むだだ」


 そう言う俺にティナは浮かない顔でついてくる。

 チッ……相変わらず甘い奴だ。

 俺は少しばかり苛立いらだつも、それ以上は四の五の言わずに市長室の窓から外に飛び出た。

 

 市庁舎の中庭にはそこかしこに職員どもがウロついていやがる。

 奴らは宙を舞う俺たちを見上げるものの、どうすることも出来ずに見送る。 

 フンッ。

 いちいち相手にしていられるかよ。

 こっちは飛んでさえいれば連中はアホみたいに口を開けて見上げているしかないんだからな。


 俺たちは空中を飛んで街中を抜け、製鉄所の方角へと向かっていく。

 だが、そこでどこからかゴゴゴゴゴという地響きのような音が響いてきた。


「何だ?」


 俺とティナは空中に静止したまま注意深く周囲をうかがう。

 そこでティナが声を上げた。


「バ、バレットさん! 空が!」


 はじかれたように上を見上げると、空に浮かぶ雲の映像がどんどんとこちらに近付いて来る。

 天井が……下がってきやがったんだ。

 このままじゃすぐに空を飛べなくなる。

 そして空の映像がバグったかと思うと消え去り、そこには無機質な岩盤の天井が現れた。


 チッ!

 ヒルダの奴、俺たちの飛行スペースを潰して、地上のクソどもの中に落とそうって魂胆こんたんか。

 いや、最悪の場合、このまま空に上から押しつぶされて、街の住人もろとも地面とのサンドイッチにされるかもしれねえ。

 小ずるいヒルダの奴は俺たちをそう簡単には進ませようとはしない。

 

「クソッ!」

「バレットさん! 市庁舎が!」


 ティナの声に振り返ると、すでに遠ざかっている3階建ての市庁舎の屋根が落ちてきた空に押しつぶされ、ガラガラと音を立ててくずれ落ちていく。

 ティナが悲鳴まじりの声を上げて引き返そうとした。

 すぐに俺はそんなティナの手を取って引き留める。


「あのままじゃパメラさんたちが!」

「アホ! 今さら戻れねえぞ!」


 すでに天井は俺たちの頭の上まで迫っている。

 俺はティナの手を握ったまま、とにかく地上に降下できる場所を探した。

 天井の押し迫るペースは徐々に早まり、街の中でも比較的背の高い建物は岩盤に押しつぶされてくずれ落ちていく。

 もう地面から天井まで5メートルもない。


 ジリジリと高度を下げる俺たちの足元には、トチ狂ったNPCどもが頭上に手を伸ばし続けて待ち受けている。

 このままいけばすぐに奴らの手が俺の足をつかみやがるだろう。

 ティナはいよいよ困り果ててこちらを見た。


「間に合いません! バレットさん。ど、どうしましょう」

「俺が下にいる奴らをぶっ飛ばすから、連中の熱烈な歓迎でモミクチャにされたくなかったら、ついてこい!」


 そう言うと俺は両手に炎を宿し、灼熱鴉バーン・クロウの射撃体勢に入る。

 あの旧式のNPCどもはライフゲージを持たねえから、俺の炎で焼かれたって死にゃしねえだろうけど、吹っ飛ばすことくらいは出来る。

 だが、そこでティナの奴が俺を止めやがった。


「待って下さいバレットさん! あそこ! あそこに逃げ込みましょう!」


 そう言うとティナは銀環杖サリエルで、ある方角を指し示す。

 住人どもでごった返す商店街の路地を抜けた先にある突き当たりに、地下道へ降りる階段が見える。

 

「やみくもに住民の皆さんを退しりぞけても意味はありません。まずは誰にも邪魔されない空間を確保して対策を練りましょう」


 くっ!

 地下道なんかに逃げたら、不正プログラムで袋小路ふくろこうじに追い込まれるだろう。

 だが、このまま天井に押し潰されてしまえばジ・エンドだ。

 頭上を見上げると、もう天井は頭のすぐ上、数十センチのところまで迫っていた。

 あと1分もしないうちに俺たちは頭を上から押さえつけられ、下の人ごみに押し込まれることになるだろう。


「チッ! 仕方ねえ! 突っ込むぞ!」

「はい!」


 俺とティナは住人たちの手が触れないギリギリの低空飛行を敢行かんこうし、俺は全速力で路地を飛び抜けた。

 そしてそのまま地下道の入口前に着地する。

 そこにも十数人のNPCたちがうろついていたが、商店街ほどの人口密度はない。

 

「邪魔だっ!」


 俺は入口付近にいる奴らを次々と蹴り飛ばして退路を確保する。

 地下道の入口には開きっぱなしのとびらが備えつけられている。

 かなり分厚い重厚な鉄のとびらだ。

 あれを閉めれば地上の奴らは入って来られない。


「ティナ! 来いっ!」

「はいっ!」


 俺とティナは地下道の入口に賭け込む。

 だがそこでけたたましい悲鳴が鳴り響いた。


「た、助けてくれぇぇぇ!」


 悲痛な男の叫び声にティナの奴が思わず足を止めた。

 見ると俺たちの数十メートル先の路地にいる男が、住民たちに捕まって身動きが取れなくなっていた。

 新式のNPCが襲われている。

 それを見た途端とたん、ティナが地上に戻ろうとした。

 地上からは多くのNPCたちがこちらに向かって来ようとしているにもかかわらずだ。


「チッ!」


 俺は反射的にティナの首根っこをつかんで地下道に放り投げた。


「あうっ!」


 そして容赦ようしゃなくとびらを閉め、向かってくるNPCどもの姿も、助けを求める悲痛な男の声もシャット・アウトした。

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