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どうせ俺はNPCだから 2nd BURNING!  作者: 枕崎 純之助
第一章 『堕天使の森』
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第2話 サムライ少女・パメラ

「オラアッ!」


 気合い一閃。

 俺は両手に装備している手甲・灼焔鉄甲カグツチを振るってカタナ女に攻撃を仕掛けた。

 カタナ女は突如襲いかかって来た悪魔の俺にすかさず応戦しようとしたが、体の変調からまだ立ち直ってはいないようで、反応が遅れた。


「くっ! 何奴!」

「ボサッとしてんじゃねえ!」


 女は咄嗟とっさに刀で俺の灼焔鉄甲カグツチを弾くが、俺は構わずに次々と拳を振るう。

 そんな俺の姿を見てティナがすっとんきょうな声を上げた。


「バ、バレットさん? 何してるんですか! やめて下さい!」

「やなこった! 堕天使だてんしのザコどもより、こっちのほうがよっぽど楽しめるぜ」


 堕天使だてんしとのケンカがあまりにもつまらなかった俺は、カタナ女を相手にすることに決めた。

 ティナの奴がやめろやめろとギャアギャア騒いでいやがるが、構うことはねえ。

 俺は一気呵成(いっきかせい)に拳を振るい、カタナ女を叩きのめすつもりで力いっぱい攻め立てる。


「おのれっ! 悪魔め!」


 カタナ女は苦しげな表情ながらも懸命に俺の灼焔鉄甲カグツチを弾きつつ後退していく。

 その動きは弱々しかったが、無駄むだがない。

 本気で殴りかかっているにもかかわらず、 俺の拳は女にクリーンヒットしなかった。

 こいつ……近くで見るとまだ若く、その表情はどこかあどけない。

 年齢はティナとそう変わらないはずだ。

 そんな小娘にもかかわらず、一通りの戦闘訓練を受けているようで、動きが洗練されていた。

 だが……。


「お上品な剣技だな!」


 そう言うと俺は左足で足元の土を蹴り上げて刀女の顔にひっかけた。

 女は土を顔に受けて思わず一瞬動きが止まる。


「くっ!」

「オラアッ!」


 ここぞとばかりに俺は思い切り右の魔刃脚デビル・ブレードを回し蹴りで浴びせた。

 女は刀でそれを受け止めたが、体勢が悪く左へと吹っ飛ばされた。


「くはっ!」

「まだまだぁ! 噴熱間欠泉ヒート・ガイザー!」


 間髪入れずに俺は右足を大きく振り上げて地面を踏む。

 すると吹っ飛ばされたカタナ女が手をついて何とか着地したその地面の手前に火柱が立った。

 カタナ女はたまらずに顔をのけ反らせて後方に下がろうとする。


 噴熱間欠泉ヒート・ガイザー

 俺が装備しているひざ当て・炎足環ペレの力によって付与されたスキルだ。

 こいつは何かと使い勝手がいい。

 ああして敵を攻撃できるだけじゃなく、次の攻撃へのつなぎとして相手を牽制けんせいすることができるからだ。


「くたばっちまえ!」


 だが、俺が追撃をかけようとしたその時、後方に下がるかと思われたカタナ女は火柱の中を突っ込んで逆に反撃を仕掛けてきた。

 

「はあっ!」

「チッ!」


 胴衣に火がつくのも構わず炎の中を潜り抜けたカタナ女が繰り出した刀の突きを、俺はギリギリのところで裂けた。

 白銀の刃が俺の右即頭部のすぐ横をすり抜ける。

 俺はそのまま女の胴衣をつかむと、刀を握った右腕を押さえてカタナ女を地面に押さえこんだ。


「くうっ! は、放さぬかっ!」


 カタナ女はもがいて必死に俺の体の下から抜け出そうとするが、体格で大きく勝る俺が体重をかけているため、わずかに身じろぎするのが精一杯だった。

 そして悔しげに歯を食いしばるその顔は苦しげで力がイマイチ入らないようだ。

 体が大きく上下していて、その口からはゼェゼェと苦しげな息がれている。

 勝負ありだった。

 俺はカタナ女の体をしっかりと押さえこんだまま言った。


「てめえの負けだ。女。おまえの剣は素直すぎるんだよ」


 確かにこの小娘は動きが速く洗練されている。

 そして刀の切れ味が一級品とくれば、堕天使だてんしどもではとても相手にならなかっただろう。

 だが、カウンターで繰り出された突きを俺が避けられたのは、こいつの剣筋けんすじがあまりにも素直すぎたからだ。

 そして攻撃にせよ防御にせよ、こいつの目線や体の動きによって次の一手が読みやすい。

 要するにこいつの剣技はバカ正直すぎるんだ。

 

 だが、俺の噴熱間欠泉ヒート・ガイザーを受けても守勢に回らず逆に突っ込んできた根性はなかなかのものだ。

 相手が攻勢に出ようとしたところをねらって反撃を仕掛けてくるその勝負勘もあなどれねえ。


「さあ小娘。どうする?」


 そう言った途端とたん、俺の肩にティナの手が置かれた。

 

「何だティナ。今いいところなんだから邪魔すんな……んっ? イテッ!」

 

 途端とたんに肩に焼けつくような激痛が走り、俺はあわててカタナ女の腕を放してそこから飛び退いた。

 そして即座に振り向くと、そこに立つティナの手が桃色の光を放っていた。

 高濃度の光属性を持つティナの忌々(いまいま)しい神聖魔法。

 高潔なる魂(ノーブル・ソウル)だ。

 やみ属性の俺にとっちゃ毒に等しい劇薬だった。


「てめえ! 何しやがる!」

「それはこっちのセリフです。いい加減にしないと怒りますよ。バレットさん」 

「うるせえっ! 堕天使だてんしどもを何人かぶっ殺したくらいじゃ不足なんだよ。満足いくまで暴れさせろ!」

「だからって苦しんでいる人を攻撃するのが戦士のすることですか! 私の目の前でそんな情けない真似まねはさせませんよバレットさん!」


 そう言うティナはほほふくらませて俺をにらみつけてやがる。

 くそっ……肩がジンジンと痛むぞ。

 俺は痛みと怒りでティナをにらみつけた。

 そんな俺に構わず、ティナはカタナ女の手を取り助け起こす。

 

「もう大丈夫ですよ。すみません。私の相棒パートナーがとんだ御無礼を」


 そう言うとティナは神聖魔法・母なる光(マザーズ・グレイス)をカタナ女にかけてその傷や疲れをやした。

 そのカタナ女はティナの言葉におどろき、俺の方を見て目をく。


「あ、あの悪魔が天使である貴殿の相棒パートナー?」


 不審げにまゆひそめるカタナ女にあやしまれまいと、ティナは必死に説明を重ねた。


「おかしな話ですが、こちらのバレットさんは以前に私を助けて下さいまして、以来、私たちは種族を越えた協力関係にあるんですよ。いきなりあなたに攻撃を仕掛けたので悪人かと思われたでしょうけれど、それはたわむれであって決して悪い人ではないのです。いえ、確かに口も態度も悪いですし顔も怖いですが、いいところもあるんです」


 うるせえ。

 ティナの奴が言えば言うほど俺が胡散臭うさんくさい人物に思えてくるぜ。

 悪人で何が悪い。

 俺は悪魔だぞ。


 カタナ女は立ち上がると、自分の胸を手で押さえ、苦しげな表情で俺を見た。

 こいつ……胸の病か何かか?

 カタナ女の頭の上に表示されたライフゲージはまだ十分にライフを残していたが、そのとなりに浮かぶ疲労度のゲージは真っ赤に染まっている。

 疲労が限界まで貯まっている状態ってわけか。

 カタナ女は苦しげに息を押し殺した声で俺に問う。


「そこの悪魔。なぜ拙者せっしゃを一息にほうむらなかった? 貴殿ならばわざわざ拙者せっしゃを押さえつけずとも、あのすきに致命的な一撃を与えられたはずでござろう」


 そう言うとカタナ女はじっと俺の目を見る。

 まっすぐで、青臭い目だった。

 それにしても拙者せっしゃってのは何だ?

 妙な言葉(づか)いだな。


「おまえ、胸をわずらってるな。そんなヘロヘロの状態の奴を殺しても俺には何の得もねえ。万全のおまえだったらこの手で殺す価値はあるだろうがな」


 俺がそう言うとティナの奴があわてて補足する。


「こ、殺すとか物騒ぶっそうなこと言ってますが、この人は自分の力量を上げるために強い人との対戦を望んでいるんです。あなたに攻撃したのもあなたが強いと思ったからで、決して殺すなどと……」

「うるせえぞティナ!」

「ひえっ!」


 俺の怒鳴り声でティナが頭を抱えるのを見て、カタナ女は立ち上がった。


「そういうことでごさったか。堕天使だてんしどもの数が足りないと思ったが、本当に貴殿が打ち倒したのでござるな。悪魔殿」

「フンッ。物足りない連中だったからてめえを相手にしようと思ったんだが、どうやら買いかぶりだったようだな」

拙者せっしゃもまた物足りぬ相手であった、というわけでござるか」


 聞いたことのない物言いでそう言うとカタナ女はフッと自嘲じちょう気味に笑った。


「かたじけない。貴殿の言う通り、拙者せっしゃは肺をわずらっていて長い時間は戦えぬ。万全の状態ならば貴殿を斬り捨てることも出来るでござろうが」


 そう言うとカタナ女は攻撃的な目を俺に向けてきた。

 ほう。

 なかなか負けん気が強いじゃねえか。

 おもしれえ。


 鋭く視線を交わし合う俺たちの間に不穏ふおんな空気を感じ取ったのか、ティナがあわてて間に割って入ってきた。


「ま、まあまあ。ここで立ち話をしてると、さっきの堕天使だてんしの仲間たちがやってくるかもしれませんし、とりあえず移動しながら話しましょう。あ、申し遅れました。私は見習い天使のティナ。こちらは悪魔のバレットさんです」


 ティナがそう言ってペコリと頭を下げると、カタナ女は白刃を白い鉄拵てつごしらえのさやに収めて深くこうべれた。


「こちらこそ失礼を。拙者せっしゃはパメラと申す一介のサムライでござる。ティナ殿にバレット殿。危ういところを助けていただき感謝申し上げる」


 子供っぽい声に似合わず堅苦しい口調でそう言うと、パメラはようやく胸の痛みが治まったのか、穏やかな表情で顔を上げた。

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