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どうせ俺はNPCだから 2nd BURNING!  作者: 枕崎 純之助
第二章 『盗賊団のアジト』
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第5話 刃の竜巻

「うおああああああっ!」


 滝つぼの水面から飛び出した巨大ウナギが水面に落ちる瞬間をねらおうとした俺だったが、それよりも早く何かが俺の足にからみつきやがったんだ。

 それは巨大ウナギよりも小さくて細いなわ状のものだったが、強烈な力で俺の足に食い込み、俺は一気に下に引きずりおろされた。


「クソがっ! 魔刃脚デビル・ブレード!」


 俺は絡みつかれた足を鋭い刃に変えてそいつをぶった斬る。

 しなやかで強い弾力を持つそいつはブチンッと派手な音を立てて勢いよくちぎれた。

 だが、そいつに足を取られたすきに巨大ウナギは水底に潜っていっちまった。

  

「チッ。何なんだ一体……」


 俺が魔刃脚デビル・ブレードでぶっちぎってやったそれは、水面の上に力なく浮いている。

 目を凝らした俺はそれが先ほどの巨大ウナギとは別のウナギであることに気が付いた。

 体を切断されたそいつはすでに息絶えているようで、波打つ水面の上をユラユラと漂っている。

 巨大ウナギよりはだいぶ小さいが、その胴の太さは俺の太ももと同じくらいある。


「なるほどな。親子連れか」


 さっきのデカブツは親ウナギってわけか。

 親と子の連携攻撃で水上の獲物をねらうのがこいつらの常套じょうとう手段らしい。

 だが水面下の敵がわざわざ水上に出て来てくれるなら、こっちも対処がしやすいんだよ。

 俺はえて水面の上に体をさらし、敵の襲撃を待ち受ける。

 相手はデカい上に速いが、来ることが分かってんならどうってことはねえ。

 

「さあ。出て来いよ。ぶった切ってやる」


 だが、状況は俺の予想をわずかに上回った。

 出てきやがったのは巨大な親ウナギではなく無数の子ウナギたちだったが、その数は十数匹。

 そいつらは俺の東西南北全方位から同時に襲いかかって来やがったんだ。

 数が多い。


「くっ! こいつらっ!」


 俺は即座に魔刃脚デビル・ブレードで2、3匹の子ウナギをぶった斬ったが、それ以外の子ウナギどもには対処できなかった。

 左右の腕に4匹ずつ、両足の太ももに4匹ずつの合計16匹の子ウナギどもが俺にからみつきやがった。


「くそがあっ!」


 俺は即座に両腕を魔刃腕デビル・エッジに変え、両足を魔刃脚デビル・ブレードに変えて子ウナギどもをぶっちぎる。

 だが、全てを断ち切れたわけじゃない。

 俺が魔力で鋭い刃に変えられるのは足ならひざより下、腕ならひじより下と仕様で決められている。

 だから両腕の上腕と両足の太ももにからみついた子ウナギまでは振りほどけない。  


 そうして子ウナギどもに俺の四肢が封じ込められた状態で、水面が大きく盛り上がってくる。

 親ウナギが飛び出そうとしているんだ。

 こいつら……魔物のくせして妙なチームワークがありやがる。

 水面から盛大な飛沫しぶきをまき散らして巨大な親ウナギが飛び出してきた。


 くっ!

 喰われる!

 親ウナギの大口が俺を飲み込もうとしたその時、響き渡ったのはパメラの声だった。


旋狼刃せんろうじん!」


 その声が響き渡ったかと思うと、俺の周囲の空気が急激にうずを巻き始め、瞬く間に巨大な竜巻たつまきが現れやがったんだ。

 その竜巻は俺の体の周りを上空に向かって一瞬で吹き上がった。

 途端とたんに俺の四肢に巻きついていた子ウナギどもの体がズタズタに斬り裂かれていく。

 そのおかげで体の自由を取り戻した俺は向かってくる巨大な親ウナギを見降ろした。

 そして俺は親ウナギの頭目掛けて自慢のスキルを発動する。


螺旋魔刃脚スクリュー・デビル・ブレード!」


 ドリル状に高速回転する俺の爪先つまさきが親ウナギの頭に突き刺さった。

 頭部をえぐられて盛大に血が噴き出し、親ウナギはビクビクと体を震わせて動かなくなると、そのまま落下していった。

 そして水面に叩き付けられると同時にその巨大な体が光の粒子と化してあえなく消えていく。

 ゲームオーバーだ。


「ふぅっ。ムカつくがあいつに助けられたな」


 そう言う俺の周囲で竜巻たつまきが消えた。

 そこで刀をさやに収めるチンッという音が鳴り、俺が顔をそちらに向けると、すぐ近くの木の枝の上にパメラが立っていた。


「無事でごさるか。バレット殿」


 さっきの竜巻はあいつのスキルか。

 おそらくパメラは白狼牙はくろうがの斬撃によって猛烈な竜巻を発生させ、子ウナギどもを斬り裂いたんだろう。

 その威力は相当なものであり、間違ってあの竜巻に巻き込まれていれば俺もただでは済まなかっただろう。

 パメラ。

 やはり見た目が小娘だからといってあなどれない奴だ。


旋狼刃せんろうじんとか言ったな。それがおまえのスキルか」


 そう言って振り返った俺はパメラが立っている枝の下、木のみぎを伝ってへびのような長い体の奴が上って来たのを目撃した。

 子ウナギが水面から陸に上がりやったんだ!


「パメラ!」


 俺が叫んだ時にはすでに遅く、木をスルスルと器用に上った子ウナギはパメラの足に鋭くからみついた。

 そういえば以前にどこかで聞いたことがある。

 ウナギはエラ呼吸のみならず皮膚ひふ呼吸ができるため、体表をおお粘膜ねんまくを利用して体をくねらせながら地上を移動することが可能だと。

 反応が遅れたパメラは子ウナギに引っ張られて木の枝から引きずり下ろされ、水面の上に投げ出される。


「くっ! 小癪こしゃくな!」


 パメラは空中で体をひねると白狼牙はくろうがを一閃させ、子ウナギの体を斬り裂いて断ち切った。

 だが、そこで水面に黒い影がうごめき、そこからまたしても別のウナギがパメラに向かって跳ね上がる。

 親ウナギはさっき俺が排除したはずだぞ。

 だが、そいつはさっき俺がトドメを刺した巨大ウナギよりも二回りほどサイズダウンした個体で、さっきの奴と違って口の周りに長いヒゲを数本生やしていた。


 パメラは咄嗟とっさに空中で体をひねってこの体当たりの直撃を避けたが、すれ違いざまにウナギの長いヒゲがパメラの体にからみついた。

 その途端とたん、パメラが悲鳴を上げる。


「くはああああっ!」


 何だ?

 苦痛の声を上げるパメラは体を小刻みに痙攣けいれんさせ、ガックリと力を失った。

 まるで筋肉が弛緩しかんしちまったような状態のパメラは、ヒゲにからみつかれたままウナギと共に水面へと落下していく。

 その様子を間近に見た俺は、巨大ウナギの正体に気付いた。

 その生態を以前に聞いたことがある。


 電撃鰻スタンガン・イール

 オスとメスのペアで生息する魔物で、メスのほうが体が大きい。

 さっきパメラの旋狼刃せんろうじんで斬り裂かれたのがメスだ。

 そしてオスは小さいがメスにはないヒゲを持っていて、それが発電器官となって敵を感電させ、餌食えじきにしやがるんだ。

 こいつがそのオスだ。

 さっき俺が倒したのはメスだったってことか。


 くそっ! 

 迂闊うかつだったぜ。

 子ウナギがいた時点で、メスとつがいとなるオスの存在に注意すべきだった。

 俺がオスの電撃鰻スタンガン・イールに攻撃しようとしたその時、ティナの声が響き渡った。


高潔なる魂(ノーブル・ソウル)!」


 ティナの姿をかたどった桃色の光が、水面に向かってパメラを引きずり降ろそうとする電撃鰻スタンガン・イールのヒゲを1本、焼き切った。

 途端とたんにオスウナギはパメラを放り出すと顔を背けて反転し、水の中へと潜っていく。

 その反動で水中から跳ね上がった雄ウナギの尾が、落下するパメラの体を弾き飛ばした。


「あぐっ!」


 パメラはそのまま勢いよく飛ばされて、付近に茂る木の枝の中へと突っ込んでいく。

 だが、パメラのことを気にしているひまはねえ。

 水面から再び別の子ウナギがこちらに向かって伸びてきやがった。


「くそったれ! しつこいんだよ!」


 俺は悪態をつきながら魔刃脚デビル・ブレードで、鋭く向かってくる子ウナギどもを切り刻む。

 しかし子ウナギどもに紛れてオスウナギのヒゲが鋭く伸びてきた。

 俺は必死に体をひねってそのヒゲに触れるのを避けた。


「くそっ!」


 こいつに巻きつかれたらさっきのパメラと同じように感電しちまう。

 冗談じょうだんじゃねえぞ。


「パメラさん!」


 迫り来るメスウナギのヒゲに集中して対処する俺と違って、ティナは吹っ飛ばされたパメラを助けに行こうとした。


「ティナ! パメラはほっとけ! 水面に集中しろ!」


 だがそこで水面から再びオスウナギの長いヒゲが伸びてティナの体に巻き付く。

 あのアホ!

 言わんこっちゃねえ!

 そう思った俺だが、ティナの体は瞬時に桃色の光を発した。


高潔なる魂(ノーブル・ソウル)!」


 ティナの全身から放出される神聖魔法がオスウナギのヒゲを焼き切る。

 あいつの得意技であるあれは、ああして体全体から放出されるため、攻撃だけではなく防御技としても使える。

 だがヒゲを焼き切られたオスウナギは恨みを晴らそうとするかのように、今度は水面から己自身が跳ね上がってティナをねらう。

 だがそのすきを俺は見逃さなかった。


「ミエミエなんだよ! オラアッ!」


 俺は鋭く宙を舞うと、跳ね上がったオスウナギの横っつらを蹴り飛ばしてやった。

 オスウナギは滝つぼの奥へと落下していき、俺はさらに灼熱鴉バーン・クロウで追撃をかける。

 

「燃え尽きろっ!」


 だが俺の炎のからすは、この水辺で体に粘膜ねんまくまとったウナギ相手には効果が薄い。

 だから俺がねらったのはオスウナギではなく、滝つぼの奥側のがけに突き立つようにして生えている一本の木だった。

 俺の放った灼熱鴉バーン・クロウはその木を激しく燃やす。


 すると衝撃で木の根元の土砂が木の重さに耐え切れずにくずれ始めた。

 それはすぐに盛大な土砂崩れとなって滝つぼに落下し、オスウナギを巻き込んでいく。

 奴は面食らって暴れ出すが、土砂の間にはさまり、身動きが取れなくなった。


「ざまあみやがれ!」


 俺はすぐさま水面近くまで下降し、オスウナギに攻撃を仕掛ける。

 オスウナギは土砂にはさまれながらも、俺を排除しようとヒゲを伸ばしてくる。

 だが、そんなもんはお見通しだ。


魔刃腕デビル・エッジ!」


 俺は自分の両腕を鋭い刃に変えて、オスウナギのヒゲを鋭く切断していく。

 こいつのヒゲはおそらく発電するまで一瞬の間が必要なんだろう。

 だからこそ、こうして一瞬触れるだけだと感電しない。

 巻き付かれさえしなきゃ大ダメージを受ける危険性は高くないことが分かった。

 それなら対処のしようがある。


 魔刃腕デビル・エッジ魔刃脚デビルブレードを効果的に使い、俺は集中して奴のヒゲを切断し続け、オスウナギの攻撃手段を封じていく。

 だがオスウナギは残されたヒゲを総動員して、俺を捕らえようと伸ばしてきた。

 そこで俺はある技の応用を咄嗟とっさに思い付き、ぶっつけ本番でそれを敢行かんこうした。


螺旋魔刃脚・伐スクリュー・デビル・ブレード・シュレッド!」


 螺旋魔刃脚スクリュー・デビル・ブレードを放ちながら、魔刃腕デビル・エッジとして展開した両腕を広げる。

 広げた両腕の空気抵抗によって技の降下速度は遅くなったものの、迫り来るオスウナギのヒゲはことごとく回転する俺の腕に切り裂かれていく。

 いいぞ。

 うまくやれた。


 それは回転ドリルに回転ノコギリをプラスしたような、攻防一体の技だった。

 俺はそのまま降下してオスウナギの頭に鋭くとがった爪先つまさきを突き刺してやった。


「くたばっちまいな!」


 気合いを入れてオスウナギの頭蓋骨ずがいこつを砕いた俺は、即座に奴の頭の横に降り立った。

 頭を貫かれたにもかかわらず、雄ウナギはまだ動こうとしていやがる。

 大した生命力だが……。


「これで終わりだ!」


 俺は技を解いてオスウナギの頭に取り付くと、そのエラに思い切り拳をぶち込んで中までえぐる。

 そしてその状態で灼熱鴉バーン・クロウを放った。


「脳まで溶かしてやるよ!」


 エラの中で炎が噴き上がり、途端とたんにオスウナギは苦しまぎれでビチビチと暴れる。

 それでも構わずに俺が灼熱鴉バーン・クロウを連発すると、奴はすぐに力を失って動かなくなった。

 魚肉の焼けるにおいがただよい、オスウナギは絶命して力なく水面に浮く。

 そのライフがゼロを指し示し、ようやくこの厄介やっかいな相手を討ち果たしたことを俺に告げていた。


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