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どうせ俺はNPCだから 2nd BURNING!  作者: 枕崎 純之助
第一章 『堕天使の森』
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第14話 下級悪魔の男

「天使の剣士殿。拙者せっしゃは貴殿にこの村の防衛をお願いしたのでござるが、覚えておられるか?」


 パメラは油断なく白狼牙はくろうがの切っ先を天使に向けながらそう問う。

 つい先ほどまで不正プログラムによって正気を失っていた天使は痛みに顔をしかめながら、パメラの顔を見てかすかにうなづいた。

 そこで見かねたティナが天使剣士ソードマンに近付き銀環杖サリエルを振り上げる。


「まずは止血を。母なる光(マザーズ・グレイス)


 桃色の光が天使剣士ソードマンを包み込み、斬り落とされた両腕の傷がふさがり、血が止まる。

 もちろん腕は元には戻らねえが、少し痛みがやわらいだのか、天使剣士ソードマンの表情がわずかに穏やかになる。


「あなたは不正なプログラムに侵されていたのですよ。何か心当たりはありませんか?」


 同胞であるティナの問いに、天使剣士ソードマンは混乱する頭の中を整理するようにポツリポツリと話し始める。


「……パメラ氏から前金を受け取り、自分は農村に向かったんだ。街を出たところまでは覚えているが、その後の記憶がない」


 困惑する天使剣士ソードマンの表情を見たティナとパメラがうなづき合う。

 俺はそんな2人を無視して天使剣士ソードマンの胸ぐらをつかんだ。


「記憶がない? 馬鹿野郎。思い出せ。堕天使だてんしの女と会ったりしてたんじゃねえのか? ああ?」

堕天使だてんしの女? そのようなやからは知らん! 放せ! 無礼な悪魔め!」


 抵抗する天使剣士ソードマンだが、俺にとっちゃその言葉は信ずるに足らん。

 天使剣士ソードマンの胸ぐらををつかむ俺の手にティナが手を重ねる。


「バレットさん。この人の行動は運営本部でログ解析すれば分かることです」


 そう言うティナに俺は舌打ちして天使剣士ソードマンの胸ぐらから手を放した。

 なぜ天使が悪魔と行動を伴にしているのか不可解だという顔をする天使剣士ソードマンにティナは事情を手短に説明し、運営本部への出頭を勧める。

 俺はその辺に倒れている悪魔斧戦士アクスマン人間小刀男ナイフマンに近寄っていった。

 こいつらも天使剣士ソードマンと同様に何も知らねえかもしれねえが、念のため事情を吐かせてやるか。


「まったく面倒くせえ……!」

「バレット殿!」


 そこで不意にパメラが叫び声を上げ、俺の頭上に降り注ぐ西日に一瞬、影が舞う。

 俺は頭上から強烈な殺気を感じて反射的に両手を交差させて頭部を守った。

 そんな俺の両手に想像を遥かに超える力が真上から打ち下ろされた。


「ぐおっ!」


 その衝撃に俺は立っていられずに両膝りょうひざを地面に付いた。

 衝撃を受けた両腕が信じられないくらいにしびれている。 

 灼焔鉄甲カグツチを装備していなかったら、骨がイカれていたかもしれねえ。

 頭上から俺にその一撃を食らわせた相手は俺の真正面に降り立つと、すかさず俺のあごねらって足を蹴り上げる。


「くっ!」


 避ける暇はねえ。

 俺はそれをしびれたままの両手で受けると、その勢いに押されるに任せて後方に飛びながら灼熱鴉バーン・クロウを放つ。

 だが後方に飛ばされながら放つ灼熱鴉バーン・クロウは勢いもなく、目の前の相手はそれを軽々と右に避ける。

 

 くそっ!

 両手がしびれているせいで、防御後に起きる硬直状態をキャンセルして即時攻撃に転じるガード・キャンセルも使えねえ。

 灼熱鴉バーン・クロウを余裕で避けたそいつは、俺の前に立ちはだかった。

 俺よりも少しばかり上背があり、体もガッチリとしたそいつは格闘タイプらしく、武器は持っていない。

 そして深い緑色のローブを羽織り、フードを目深にかぶっていて顔はよく見えない。

 だがそのNPCマークを見る限り、俺と同じ下級悪魔の男だ。


「てめえ……何モンだ」


 俺の問いに男は仁王立ちのまま微動だにせずじっとこちらを見る。

 こいつ、俺と同じ下級種の割に強烈な重圧を感じさせる。

 ただもんじゃねえぞ。


「……ただの悪魔だ。そこの娘ら二人をいただく。奴隷どれいとして売り払えそうだ」


 フード男は低いがよく通る声でそう言うと身構えた。

 オーソドックスだが、すきの少ない構えだった。

 そんな男の後方でパメラが白狼牙はくろうがを手に腰を落として叫んだ。


「バレット殿! 加勢するでござるよ!」

「邪魔すんなパメラ。こいつは俺1人でやる。おまえは体を休ませとけ。また息が上がるぞ」


 そう言い放つと俺はフード男を前に再び戦闘態勢を取る。

 それにしても……。


「ただの悪魔。ハッ。そうかよ。で? 奴隷どれいとして売り払う? やめとけ。こんな貧相なガキども、いくらにもならねえぞ!」


 そう言うと俺は踏み込む足に力を込めて、最大速度で一気にフード男との距離を詰め、魔刃脚デビル・ブレードを放つ。

 しかしフード男はヒラリとバック・ステップを踏みながらこれをかわしていく。

 だが、俺は一切攻撃を止めることなく連続で魔刃脚デビル・ブレードを繰り出した。


「オラァ! こんな状況下でただの悪魔が人さらいにやって来た? 見えいた芝居はやめとけ!」


 こいつは間違いなく先ほどの不正プログラムの感染者どもに関わりのある奴だろう。

 その線でティナをねらっているに違いない。

 奴はたくみに俺の攻撃をかわしていくが、まだまだこんなもんじゃねえぞ。

 俺は徐々に攻撃の速度を上げながら相手の反応を確認する。


 奴はまだ余裕で回避しているが、これならどうだ。

 俺はそれまでの直線的な動きから一転して、水流の動きを見せる。

 以前に海棲人マーマンの戦士から教えられた、水が揺らめき流れるような不規則なステップだ。

 そこから俺はフード男の真横におどり出る。

 フード男の反応が一瞬遅れた。


「オラァ!」

「ぬっ!」


 今度ばかりはフード男も避け切れずに腕で防御体勢を取った。

 馬鹿が。

 その腕、切り落としてやる。


 そう勢い込んで俺は鋭い刃と化したすねで蹴りつけた。

 だが、フード男の腕に当たったかと思われた俺の魔刃脚デビル・ブレードはギィンという硬質の音と感触を残して弾かれる。


「なにっ?」


 おどろく俺に男はガード・キャンセルを使ってすばやく回し蹴りを放ってきた。

 俺は避けきれずにその回し蹴りを右の脇腹に食らって吹っ飛ばされた。


「ぐはっ!」


 空中で何とか体勢を立て直して着地した俺は、痛む脇腹を押さえながらフード男をにらみ付ける。

 すると奴の左右の手にはいつの間にか2本の武器が装備されていた。

 フード男が握ったそれは藍色をした金属製の特殊な棍棒こんぼうだった。

 その腕を守るかのように二の腕から上腕に沿って装備されているそれは、旋棍トンファーと呼ばれる武器であり、格闘術を使う戦士が時折使う武器だ。


 敵を攻撃するのみならず、腕を守る防御性にも優れている。

 そしてそれはかなり硬質な金属で出来ているようで俺の魔刃脚デビル・ブレードを浴びてもビクともしていない。


「……その程度か」

「なに?」


 フード男は旋棍トンファーを構えると腰を落とした。

 俺は奴と同様に腰を落とすが、ほんの瞬きをする間にフード男が眼前に迫ってきやがった。

 フード男は鋭く旋棍トンファーを繰り出して俺の即頭部をねらう。


「チッ!」


 俺は灼焔鉄甲カグツチでそいつを受け止めるが、ガキッという音を立ててぶつかってくるそれは、思った以上の衝撃だ。

 ようやくさっきのしびれが収まったばかりの腕に相当の負担がかかり、俺はそこから守勢に回らざるを得なくなった。

 フード男は旋棍トンファーの使い方に長じているようで、流れるような連続攻撃を仕掛けてくる。 

 さっさと反撃に転じたい俺の忸怩じくじたる心持ちを見透みすかす様にフード男は果敢に俺を攻撃する。


 くそっ!

 まるで先回りをされているかのように、こっちの動きが封じ込まれ、防戦一方に追い込まれていく。

 ムカつくがこのフード男、かなり手練てだれだぞ。

 このままじゃジリ貧だ。


 だが、この戦い方……。

 俺はフード男の戦う様にどこか既視感を覚えていた。

 そこからフード男が俺を攻め立てる時間が続く。

 俺は防御に徹しつつ、相手の攻撃の速度と傾向に少しずつ自分の感覚を慣らしていった。

 しかしやはり気にかかる。

 こいつの攻撃は強く速いが、技の繰り出し方がどこか俺と似ている。


 そのおかげか俺はその攻撃に徐々に慣れ始めた。

 そしてフード男が鋭く旋棍トンファーを突き出してきたタイミングで俺は打って出た。

 旋棍トンファー灼焔鉄甲カグツチで防御すると同時にガード・キャンセルを発動して一瞬でフード男の間合いに飛び込んだ。

 そして両腕を左右一文字に一閃させる。


魔刃腕デビル・エッジ!」


 鋭利な刃と化した俺の左手がフード男の胸元を切り裂き、右手は顔を切り裂く。

 フード男はのけぞってこれをかわそうとしたが、浅いものの手応えありだ。

 フード男の胸元は俺の左手に切り裂かれて鮮血が舞い、右手に切り裂かれたフードの下からは男の顔があらわになった。


「フンッ!」


 フード男は鋭く旋棍トンファーを振り回して俺を牽制けんせいしつつ、大きく後方へと下がって間を取った。

 俺はフード男の顔を見て舌打ちをする。

 なぜならその顔には目元を隠す仮面がつけられていたからだ。


「チッ。フードの下は仮面かよ。てめえ……よっぽど顔を見られたくねえようだな。ブサイクなのを気にしてんのか?」

 

 フード男改め仮面男は胸から出血しているにも関わらず、平然とした顔で着ているローブを脱いで胸の血をぬぐう。

 ローブの下から現れた肉体はしなやかな筋肉におおわれていて、生気に満ちた肌つやをしていた。


「フンッ。いい体してんじゃねえか。ついでに仮面も脱いでそのツラ見せたらどうだ? ああ?」


 だが、俺の軽口にも一切取り合わず、仮面男は再び旋棍トンファーを構える。


「……なるほど。時が経ったということか」

「ああ?」

「だがそれはこちらも同じこと」


 聞き取りにくいボソボソ声でそう言うと、仮面男は旋棍トンファーを握り締めたまま、親指だけをこちらに向ける。


氷風隼フロスト・ファルコン


 そう言った仮面男の親指から真っ白な弾丸が射出された。


「くっ!」


 自分の顔に向かってくるそれを俺は首をひねって避けようとしたが、思った以上の速度に反応しきれずにほほを切られた。

 鋭い痛みがほほに走る。

 それはひどく冷たい氷をほほに押し付けられたような痛みだった。


 氷の弾丸か?

 目を見開く俺の眼前で、仮面男は第二射を放つ。

 だが、俺は鋭く腕を振るって氷の弾丸を叩き落とした。

 来ることが分かってりゃ反応できないほどじゃねえ。


 俺の足元に落ちたそれは、真っ白な氷で出来た手のひらサイズの鳥だった。

 氷風隼フロスト・ファルコン

 奴の飛び道具か。

 それは小さな氷のかたまりに過ぎないが、飛来する速度が相当速いため、急所に浴びたり、連発されて立て続けに被弾したら厄介やっかいだ。

 ここは一気に攻めるのみ!


灼熱鴉バーン・クロウ!」


 俺は灼熱鴉バーン・クロウを放つと同時に突っ込んだ。

 奴が灼熱鴉バーン・クロウを避けようが防ごうが、その次の瞬間にはキツイ一撃を食らわせてやる。

 だが、俺の放った燃え盛るからすは、どういうわけか仮面男の体に到達する前に急激に威力を減衰げんすいさせられてしまった。


 そうして弱まった灼熱鴉バーン・クロウを突き破って、複数の氷風隼フロスト・ファルコンが俺に向かってくる。 

 ショット&ゴーで距離を詰めていた俺はそれを避け切れず、肩や腹に浴びてたまらずに転倒した。


「くはっ!」


 かなり強い痛みをこらえた俺は、すぐに起き上がって飛び退すさった。

 そして前方に立つ仮面男の姿に目を見開く。

 仮面男の体から猛烈な勢いで真っ白い凍気が噴き出して、その周囲の空気を揺らめかせている。

 おそらくあれは急激な気温低下による現象だ。

 そのせいで俺の灼熱鴉バーン・クロウの威力が鈍っちまったんだろう。

 こいつは俺とは正反対の氷の属性を持つってことか。


「貴様の炎は俺には通じぬ。氷漬けにしてから心臓を砕いてやろう」

「抜かせ。火だるまになってから今の言葉を後悔することになるぜ」 


 俺と仮面男はにらみ合いながらゆっくりと身構える。

 後方でティナとパメラが固唾かたずを飲んで見守る中、俺と仮面男は互いの喉笛を食いちぎろうとする獣のように飛びかかった。

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