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どうせ俺はNPCだから 2nd BURNING!  作者: 枕崎 純之助
第一章 『堕天使の森』
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第12話 パメラの辿ってきた道

「そもそも拙者せっしゃ、村を守るつもりはござらん」

「……へっ?」


 きっぱりと言い切るパメラにティナは呆気あっけに取られて戸惑いの声をらす。


「え? でもパメラさん。農村を守る依頼は……」

「それはもちろん責任を果たすでござるよ。ですが拙者せっしゃ1人ではそもそも村を守りきれないでござる。だから逆に敵の拠点に乗り込んでヒルダを討ち取るほうが村を守れると思ったでござるよ」


 そういうことかよ。

 ヒルダを含めた堕天使だてんしどもはエネミーNPCという種別のNPCであり、天使や悪魔を操作するプレイヤーどもにとって敵役となる。

 その堕天使だてんしどもはゲームオーバーになると、このアメイジア大陸の各所にランダムでコンティニューされてバラバラに再配置される。

 そこが天国の丘(ヘヴンズ・ヒル)地獄の谷(ヘル・バレー)なるかは、その時次第だ。


 その後、元の盗賊団として再集結することはほとんどなく、それぞれが再配置先の土地で新たな暮らしをするようになるんだ。

 だからヒルダたちを全滅させてしまえば、次に盗賊団がこの土地に現れない以上、天使どもの農村には平和な時間が訪れるというわけだ。

 パメラは話を続け、己の考えを述べる。


「まずティナ殿が農村におもむき、農民たちに事の次第を伝え、襲撃時刻までに避難を済ませておくよう手配するでござる。その間に拙者せっしゃとバレット殿でアジトに向かう準備をしようではござらんか。座標は確認できたものの、そこに向かうまでの最短ルートを確認してから向かうほうが確実でござるよ」


 パメラはそう言うとティナをうながす。


「さあティナ殿。時間がもったいないでござる。早々に用事を済まされよ」

「は、はい。と、とにかく村人たちに用件を伝えてきます」


 そう言うパメラにかされてティナはそそくさと農村へ向かって行った。

 そんなティナを見送りながら俺はパメラに言う。


「最初から敵陣を突くつもりだったのか」

「そうでござる。まずは農村で情報を得ようと思ったのでござるが、思わぬ形でヒルダの根城の情報を得られたのは幸運でござった。今回の場合は攻めるより守るほうが難しいでござる。ならば攻めの一手で一気に敵陣を落とすべきでこざろう」


 確かにこいつの言う通りだ。

 堕天使だてんしどもから村を守るのに、この3人だけでは現実的に無理がある。

 それは、大したことのない堕天使だてんしの野盗集団を相手に俺たちが負けちまうって意味じゃない。

 仮に堕天使だてんしどもが100人いようが俺が負けることはねえ。


 だが、村に損害を出さずに守りきるのは不可能だ。

 周囲を取り囲まれて一斉にかかられたら、30分もせずに村は全滅するだろうよ。

 拠点防衛はこちらにも最低限の人数がいなければままならない。

 ましてや天使どもの農村は防壁のある要塞とは違って無防備だからな。

 それにしても……。


「天使の農民どもはアホだな。街の武術大会まで出向いておきながら、パメラにしか声をかけなかったのかよ。仮にパメラが敵のアジトに乗り込むのと入れ違いに堕天使だてんしどもが村を攻めてきたら、パメラは無人のアジトで空振り、村は堕天使だてんしに襲われて全滅。何の意味もなくなる」

 

 俺の言葉にパメラは顔をくもらせる。


「大勢をやとう資金が足りなかったのでござろう。実際、農民たちは拙者せっしゃの他にも数人に声をかけていたようでこざったが、提示額が不満だったのか、断られていたでござる」

「そういうことか。なら、おまえも二束三文で仕事を引き受けたわけだな。たった1人。大した見返りもない。よくもまあそんな状況で安請やすうけ合いしたもんだな」

 

 そう言う俺にパメラはきっぱりと言葉を返した。


「バレット殿。拙者せっしゃにとって大事なのは報酬の高い安いではござらん。サムライとは信じるものや守りたいもののために刀を振るうものなのでござるよ。困難な状況でも己の腕でそれを乗り越えた時に手に入る経験こそが何よりの報酬でござる」

「ケッ。綺麗事きれいごとぬかしやがって」


 そう言ってにらむ俺にパメラは泰然とした視線を返してきた。

 こいつは本心からそう言ってやがるんだ。

 馬鹿な小娘だぜ。

 だが、そうは言うもののパメラの言うことは俺にも理解できる。


 俺は金のために動くことはない。

 金が今の俺の人生にとってそれほど重要ではないからだ。

 たとえば二束三文の仕事でも、それを引き受けることで俺自身の実力が上がるなら、それは俺に取っちゃ十分においしい仕事だ。

 ケンカの腕前を上げることが人生において一番重要視すべき価値観である俺にはな。

 おそらくパメラも似たようなものなのだろう。


「それにしても無謀に過ぎるぜ。おまえはたった1人。そして5分しか戦えない。手持ちの手札が少な過ぎるその状況で、どう山場を乗り切るつもりだったのか。お聞かせ願おうか」

「いえ、バレットどの。そもそも拙者せっしゃは1人ではござらん。ちゃんと協力者をつのったのでござるよ」

「なに?」

「地方大会の会場で農民より話を聞かされた際、堕天使だてんしの規模についてはある程度把握(はあく)していたでござる。正直なところ拙者せっしゃ1人では困難だと思い、同じ大会に出ていた成績上位者たち7名に依頼して協力を仰いだのでござる」


 武術大会には予選を勝ち抜いたパメラを含む8名が決勝トーナメントを争った。

 こいつは自分以外の7人に声をかけたらしい。


「待て待て。さっき天使の農民どもが他の参加者にも声をかけたが断られたと言ったな。そいつらにおまえが改めて声をかけたってことか?」

「左様」


 平然とそう言うパメラに俺は何だか嫌な予感がして聞いた。

 

「そいつらを納得させる報酬は誰が払うんだ?」

「無論のこと、彼らへの依頼の成功報酬は拙者せっしゃが負担したでござるよ」


 ……やっぱりそういうことかよ。

 俺の嫌な予感は当たっていたし、俺がどうしてそう感じたのかも分かった。

 こいつは根っこのところがティナに似ていてお人好し過ぎるんだ。

 いくら金を重要視していないったって、自腹を切ってまで他人を助けようとするか?

 俺には理解できん。


「相応の金を払ったってことか」

「優勝賞金を7等分して彼らに譲り渡す条件でござるよ。もちろんその7人に着手金として相応の前金を払ったでござる。おかげで7人のNPCたち全員が快く契約し、引き受けてくれたのでござるよ」

「……だろうな」


 アホだ。

 ここにアホがいるぞ

 農民から受け取った1人分の用心棒代に比べて、7人分の報酬という出費。

 言うまでもなく完全に赤字だ。

 それだけじゃねえ。

 俺はジロッとパメラを見やるとたずねた。


「で、金でやとった奴らはいつせ参じてくれるんだ」


 俺の言葉にパメラは表情をくもらせる。


「それが……その彼らとの待ち合わせ場所は、バレット殿らと最初に出会ったあの森だったでござるよ。しかし彼らは現れず代わりに現れたのは堕天使だてんしの盗賊たちだったでござる」


 なるほどな。

 あの時にパメラを襲っていた連中か。

 パメラのあんまりな世間知らずぶりに、他人事ながら俺は苛立いらだって吐き捨てた。


「パメラ。ハメられたんだよオマエは。前金泥棒(どろぼう)だ。奴らはもらった着手金で今ごろ酒でも飲みながら、オマエのことをマヌケな田舎もんだと笑ってやがるぞ」

「し、しかし、堕天使だてんしの襲撃を退しりぞければ成功報酬が入るのでござるよ。前金4割に対して後金6割。彼らにとっても悪い話ではないはずでござらんか? もちろん契約書も交わしたでござるよ。だというのに7人全員が拙者せっしゃたばかったということでござるか?」

「大会優勝者だから賞金でうるおっているとでも思われたのかもな。ま、おまえは見るからにヨソ者だし、7人が結託けったくしてハメたんじゃねえか。優勝者へのやっかみも含めてな」


 俺の言葉にパメラは意気消沈いきしょうちんして肩を落とす。

 フンッ。

 高い勉強料だったな。


 だが……妙な部分もある。

 堕天使だてんしどもを排除するだけで小遣こづかかせぎが出来るなら、7人全員とは言わねえが数人は引き受けそうなもんだ。

 どの程度のレベルの大会かは分からねえが、上位に入るような連中ならおそらく実力的に言っても堕天使だてんし相手に怖気おじけづくようなことはねえだろう。


「皆、こころざしある武人に見えたのでござるが、拙者せっしゃの目がくもっていたのでござろうか」

「真相はどうだか分からんがな。結果として奴らは待ち合わせ場所に現れず、おまえは金をドブに捨てることになったってわけだ」

「いや、金のことはいいのでござるよ。拙者せっしゃの見る目が無かったことのほうが無念でござるよ」


 そう言うパメラは腑に落ちない顔をしているが、すぐに気を取り直した。


「過ぎたことは仕方がござらん。とにかく拙者せっしゃだけでも依頼を全うせねばならぬでござる。バレット殿とティナ殿が助太刀して下されば百人力でござるよ」

「フンッ。勘違いするな。俺は天使の農民どもなんざどうでもいい。だが、あのヒルダだけは俺がこの手で仕留めなきゃ気が済まん。ナメられたままじゃ終わらせねえ」

「理由はどうあれバレット殿が共に戦ってくれるのは拙者せっしゃにとって幸運でござるよ。その調子で頼むでござる」

「ケッ。事が片付いたら俺と一戦交える話を忘れるなよ」

「無論でござる。さあ、それよりヒルダのアジトへの道すじを……」


 俺たちがそんな話をしていると、思ったより随分ずいぶんと早くティナの奴が戻ってきた。

 だが、何やら様子がおかしい。

 ティナは青ざめた顔で髪を振り乱し、大(あわ)てでこちらに飛んでくる。

 そして俺たちの手前で急停止すると息も絶え絶えに言った。


「た、大変です! 農村が……襲撃されています!」

「なに? 襲撃は夜のはずだろう。あの小僧、テキトーなことを……」

「違います! 堕天使だてんしじゃありません! 悪魔と天使の奇妙な数人組がいきなり無差別に村人を襲い始めて……とにかくすぐ来て下さい!」


 そう言うとティナはすぐにきびすを返して、今来た道を全速力で舞い戻って行く。

 悪魔と天使の数人組が天使の村を襲っている?

 何だそりゃ。

 ワケが分からねえぞ。


 ティナの剣幕にただならぬ雰囲気ふんいきを感じたようで、パメラがいち早く駆け出した。

 チッ。

 天使どもの村なんざ行きたくねえが、とりあえず様子を見に行くしかねえか。

 俺はかすティナの後を追って宙を舞った。

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