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迷子と迷子

『僕と友達になってよ』


小学生の頃、光輝はそう言って俺に手を差し伸べてくれた。


光輝はクラスみんなの人気者だった。

小学生の頃からの仲で、なんだかんだ遊びにも誘ってくれたし、クラスメイト達との仲も良かった。


高校生になってからも割と会話する機会も多かったし、大学も同じところ行こうぜとか言っていたのに。


異世界に来てからはみんな困っていたし、家に帰りたいと泣いていた。かくいう俺だって咽び泣いて膝を抱えることしかできなかった。けれど光輝だけは違った、なんだかんだ誰か一人でも諦めずになんとかしようという奴がいなければ全員が腐っていたと思う。クラスメイト達からの人望もある光輝だからこそできたことだ。


そんな光輝を尊敬していたし、誇らしくも思っていた。光輝はやっぱり頼りになると、ずっと思っていた。


戦闘で手助けはできないからせめて、魔力を肩代わりして、言語理解を全員で使えるようにと。


それに幼馴染のためでもあった。


幼馴染は海外から越してきたご近所さんだった。ドイツから仕事の都合で引っ越ししてきて、確か小学六年生の頃だっただろうか。英語ならまだしてもドイツ語は少々といった様子で学校も、クラスメイトも対応に困っていた。

言語がわからないなりにも、なんとかクラスに馴染もうとする彼女をなんとか助けれないかと、ヒキニートの兄貴にドイツ語を教わって挨拶をしてみた。それで笑顔を浮かべてくれたのが嬉しかったし、きちんと学ぼうと思った。

厨二病を拗らせた兄もノリノリで教えてくれたし家に連れてきたときには珍しく髭を剃って真人間アピールをし、金髪ロリータ万歳を泣いていた。


異世界に来てからは言語理解の効果で苦も無く会話できるようになり、本当に嬉しそうで、俺も嬉しかった。


もう全部、追放された俺には関係のない話だけれど。




路銀が詰まった袋を握りしめて、俺は今後どうすべきだろうかと考える。

金は有限だ、そしてここは中世の異世界、何もしなければ路銀が尽きてその辺でくたばるか、奴隷に落ちるかだ。

流石に道路で寝たままおっちんでカラスに食われるのはごめんだ、ネズミも嫌だ。


せめて宿泊費と食費だけでも稼がないとどうにもならない。


「といっても戦闘はできないしなぁ…..」


それに魔力もクラスメイトが会話するたびに減っていくのがわかる。友人とはもう思ってはいないけれど、仲間とは思っている。俺を追放しようといったのも全員じゃないだろうし、そう言う奴らが不利益を被るのはなんとなく嫌だ。


けど割と詰んでいるのも事実だ、魔力は常に減ると考えた方がいいし、金はすくない、結構大きな街に置いていって暮れたのだけが幸いで、それ以外はまあ絶望的。


今こうやって歩いているのも正解ではないのだろうかという気がしてならない、歩けば腹が減るし疲れる。見知らぬ街で疲れ果てたら本当に詰みだ。


「やっぱりクラスメイトに土下座でもしてパーティーに戻してもらったほうがいいよなぁ……」


そうと決まれば光輝を探そう、あのイケメンリア充のキラキラ雰囲気はどう取り繕うと隠しきれない。

適当に歩いていれば見つかるだろうーー歩き始めようとするけれど、袖が引かれて振り返る。


「お主、同郷のものかえ?」


同じ高さの視線には誰もいない、見下ろせば赤い髪の少女が死んだ魚の目で見上げて来ていた。

まるでラノベみたいな髪の色だなぁと思うけれど、もう異世界だしなぁってことで納得している。割と整った顔立ちでうちのヒキニートが見たらジト目ロリきたー!と叫びそうだ。

背丈は割と低め、俺の腰ぐらいの丈しかない。黒色の豪奢なドレスに身を包みクマのぬいぐるみを抱えている。


「えっと、お嬢ちゃんは迷子かな?」


「お嬢ちゃんではない、わしにはエルグレイ・クメシュという名がある。質問に質問を返すでないと教わらんかったのか。貴様も我が故郷アルグリアから来た者か?」


「アルグリア?どこ?」


「国を知らぬのにアルグリア語を話すというのには無理がある。わしを子供と侮っとるのか本当に知らんのかどっちじゃ?」


「ぶっちゃけ知らない……」


この国、アルドリア王国以外にも国があるのは知っていたけれど、見ることはないだろうと思って覚えていなかった。

正直に答えると少女は頭を抱えて、深くため息を吐いた。


「おかしなやつじゃのう。さては貴様迷子か?雰囲気がそうじゃ」


「そういう君は?ちなみに俺は無職なだけで迷子じゃない」


パーティーから追放されて無職なだけで迷子じゃない、ぶっちゃけこの街来るの初めてだし自分がどこにいるかすらわからないけれど迷子じゃないったら迷子じゃないのだ。


おいやめろその哀れむ目を。


「ふむ、人生の迷子じゃな。それとわしを迷子などと決めつけるでないはたわけ」


「ほほう、それじゃあ君は一人で何をしているのかな?」


「迷子になった保護者と爺やを探しとるんじゃ。全くもってこまった奴らじゃ」


「いやそれを迷子っていうんじゃ……痛い痛い、靴踏まないで」


「わしに踏んでもらえて嬉しいじゃろう、じいやは泣いて喜んどったわい」


「流石に踏まれて喜べないなぁ……」


ぐりぐりぐりと踵で踏まないでくれまじで痛い。

ヒキニートの兄貴ならご褒美とかいって喜ぶだろうが俺にそんな趣味はない。


「まあ戯言は置いておいてお主、名はなんという?」


「え?」


「名はなんという」


「山田太郎だけど」


「ふむ、あまり聞かん名じゃな。こっちの国で名付けられたのか?それでもアルグリアか?」


「いや出身はどちらでもないから……」


正直に話すべきかどうかわからない、俺の感が異世界からきたなんてことは言わない方がいいと全力で訴えてくるのだけはわかる。

幼女の視線がさらに怪訝なものとなる。

今やっと分かったが俺の違和感がなんとなくわかってきた。

元の世界で例えるならイギリス観光に来たロシア人がロシア語で独り言を呟く奴に話しかけたのに、ネイティブに話すくせにロシア出身でもイギリス出身でもないとかいうのだ、うん違和感しかない。


元の世界だったら大使とか、翻訳家とかの可能性もあるだろうけれど、異世界じゃまあないに等しい。


「……色々あったんじゃな、まあこれ以上詮索はしまい」


「ありがとう、そうしてくれると助かる」


勝手に何か納得してくれたようで何よりだ、なんせ俺は嘘が下手くそだしボロしか出さない。


少々冷たい風が吹いて、空を見上げれば美しい茜色の夕焼けが見えた。

美しい光景だけれど、宿無し職なしの今夜になるのはちょっと厳しい。


早めに移動しなければいけないのだけれどーー


「なんじゃ?わしの顔を見つめて?まあわしの天文学的確率で生まれた美少女ぶりに惚れ込むのもわかるが齢の差を考えるんじゃな」


「迷子がいるしなぁ……」


「迷子じゃないというとるじゃろう!母上と父上、爺やが迷子なんじゃ!」


「はいはいそうですね」


ひとまずはやっぱり宿を見つけるところからかぁ。

光輝たちに会いに行って土下座するのも別に今日じゃなければいけないということはない。

領主に謁見した後、数週間はここを拠点にして付近の魔物を掃討、確かそんな予定だった。


今確保すべきは、安全な寝床と。


「?」


この迷子の安全だろう。

俺の生活はどうなってしまうんだろうかと、切実に思った。



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