追放
「え?」
俺山田太郎は突如として言われたことが理解できず硬直してしまった。
異世界に召喚されて早数ヶ月、常にパーティーを組んでいたクラスメイトたちからクビを宣告されたのだ。
クラスの中心である天之川光輝が剣の切先を突きつけ、見下ろしてくる。
「ぶっちゃけ、お前ただ飯ぐらいだよな?クラスのみんなが何かしらで役に立っているのに、お前だけ何もしてないのは不公平だろう?だからクビだ、お前はもうパーティーに必要ない」
「いやっ!ちょっと待ってくれよ、俺のスキルが無いとマジで困ることになるぞ!」
「は?負け惜しみかよ。ぶっちゃけお前の『言語理解』がなくても全員そのスキルを持っているから言葉は通じるし無意味なんだよ」
何を言っているのだろうこいつは、と本気で思い怪訝な顔を浮かべる。
お前らが異世界の言語を理解できるのは俺がスキルをパーティー向けに設定しているからであって決してこいつらがおんなじスキルを持っているわけじゃない。
異世界召喚初日に授かった特殊スキル、俺には言語理解というスキルが与えられた。
どんな言語だろうと脳が自動的に理解し日本語に翻訳してくれるし、何かを発すれば誰にでも理解できる言葉となる。バフとして使えるのか、自動的に仲間と思っている人とスキルを共有することができるーー
だからこそ、異世界に来て言語という障壁でつぶれなくて済んだのに何を言っているんだこいつらは。
スキルというのは使っているだけで魔力を使うしこいつらが言語を聞くたびに俺の魔力を消費して翻訳しているのに。
今までやけにぞんざいに扱われると思っていたらそんな理由だったのか。
「何か勘違いしてると思うんだけど、俺がいないと異世界語がわからなくなるぞ!?別世界で言語が理解できないって本当に辛いはずだ、短気を起こさずにちょっと待ってくれよ」
「何が短気だ、もうみんなお前にうんざりしてるんだ」
「みんなって言うけど、うんざりしてるのは気分で不公平だ不公平だって言い始めた女子達だろ!?」
別に嫌われることも虐げられることも構わない、全員ストレスが溜まっているのも理解してるし、実際俺は戦闘において雑魚だ。光輝は剣を振るえば一流の剣聖だし、クラスメイト達は大体戦闘系のスキルで各々活躍している。
戦闘では役に立たないけれど、言語理解のバフを付与し魔力消費を負担する、それに生き甲斐を感じていたのに。
一部の女子が気分で不公平と言い始めて、風見鶏のこいつは平気で俺を追放しようとしている。
「みんなはみんなだ、じゃあな。山田。お前がいなくなっても誰も困らないし、誰も悲しまない。手切金ぐらいくれてやるからとっとと失せろ」
金が入った袋を落として、光輝は踵を返しクラスメイト達の方へと戻っていった。
そこには地べたに座り込み、銀貨の入った袋を持った俺だけが残されたのだった。