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ふたごは勇者の剣に選ばれる

 十歳で習いはじめた剣術は、ルチアに合っていたらしい。

 ルークのために呼ばれた教師の教えをぐんぐんと吸収して、十五を数えるころには元騎士だという教師からも一本を取れるほどに成長していた。


「剣を手にしたルチアは風のようだね」


 同じく十五になったルークはそう言って、木陰でルチアが素振りの練習する姿を眺める。

 年を重ねるごとにすこしずつ丈夫さを増していった彼は、このごろでは寝込むことも少なくなった。それでも剣を振るえばすぐに息を切らして咳き込んでしまうものだから、鍛錬よりも休憩の時間のほうが多い。


「風は風でもつむじ風ですね。ご令嬢をたたえることばなら春風のようであるとか、そよ風といった表現もあるはずなのですが」


 やれやれと肩をすくめるノアに、ルチアはふふんと笑ってみせる。


「そういうたおやかな賛辞はルーク兄さまにおゆずりするわ。私は身体を動かしているほうが性に合うの」


「ルチアさまはまた、そのようなことばかりおっしゃって。黙っていればおふたりはそっくりなご容姿なのですから、ルークさまがたおやかならば、ルチアさまもそのように振舞えば良いのです」


 成長とともにノアの小言もレベルをあげた。また、変化に乏しい顔を眼鏡で隠すようになったのもこのころで、彼の感情はいっそう読みづらくなった。


 一方で、ルークとルチアは成長しても未だにそっくりな見た目を保っていた。

 かたや剣術の稽古に精を出す令嬢、かたや生活のほとんどを室内で過ごし屋外でも木陰にたたすむ程度の令息。

 ふたりそろって髪の毛を肩口で切り揃えているものだから、線の細い美青年にも凛々しい美少女にも見える。


「私だってやればできるのよ。それに、こうしていられるのもあと少しなのだから」


 だからお願い、と言わなくとも、すべてを承知しているノアは押し黙った。

 ルチアもルークも両親の庇護のもとのびのびと育てられてきたけれど、十六歳になれば将来を考えて動きはじめなくてはならない。

 ルークは貴族の嫡男として家を継ぐために。ルチアは貴族の令嬢として嫁ぐために。


 当然、花嫁修行に剣術の稽古は入っていない。


 だから、残り少ない自由な時間を願うままに過ごそうと、ルチアは剣を握り直した。


 ※※※


 それからおよそ一年が過ぎ、間も無く誕生日を迎えるころ。ルチアとルークは王城に招かれていた。

 この日のために馬車で何日もかけて領地からやってきたのだ。もちろん、長旅でルークが寝込むことも計算に入れていたから、招待されている日にはルークの体調も落ち着いている。

 

 王城といってもルチアたちが案内されたのは城の奥庭だ。

 ともにやってきた両親は城のなかへ。日頃は閉ざされている柵の向こうに入るのは、双子と侍従のノアだけ。

 本来であれば双子だけで向かうべき場所らしいが、奥庭の広さを聞いた両親が「ルークが途中で倒れてしまうかもしれない」と案じたのだ。


 両親の心配したとおり、ルークは馬車を降りてから歩いた距離の長さによろめき、おまけにルチアまで慣れないドレスの裾にふらつく。

 そんなふたりを支えるノアは、大いに役割を果たしている。


「お告げって、どんな風に伝えられるのかしら」


 ノアのエスコートを受けて歩くルチアがふと、くちにする。


「うーん、神殿は何事も公にしないからね。神子か神官にでもならないと、わからないよ」


 ルチアが掴まるのとは逆側のノアの腕に支えられながら、ルークが首をかしげる。


「どのように伝えられるのであろうと、新たな勇者が双子であるというお告げは変わりませんよ」


 双子に挟まれて歩くノアの冷静なことばに、ふたりは「それもそうだ」と肩をすくめた。


「そうは言っても、いくらなんでも男女の双子まで声がかかるなんて。ご令嬢はとなりで見守ればいい、だなんて。退屈だわ」


 ルチアが言うのに、ルークは困ったように笑う。

 

「次代の勇者を見つけるためですからね、仕方のないことです。双子の男児が剣の柄を握って、それで終わりなのですから珍しい庭園が見られたと思えば良いではありませんか」


 ノアが言ったところで、前方に木立が見えてきた。

 手入れされ花々が咲き乱れる庭園のなかで、その箇所だけが葉の茂る木々に覆われている。


 見張りもいないそのなかへ足を踏み入れると、ルチアは思わず感嘆の声をあげた。


「わぁ……! すてきなところね」


 外からは見えない木立に一歩入れば、そこは木漏れ日に満ちた空間だった。

 立派な木に囲まれた静けさのなかに、やわらかい緑の絨毯が伸びている。やわらかな緑に導かれるように木々に覆われた空間の真ん中へと進めば、ひときわ明るく陽の光が射す地面に一本の剣が刺さっていた。


 草木に満ちた景色のなかで、硬質な剣は目を惹いた。


「うわぁ……大きい……!」


 ルチアが思わず声をあげるほどには、その大きさも異質だった。

 半ばまで地に埋まっているはずの剣の柄は、ルチアの胸あたりまである。抜けば、身の丈ほどにもなるだろう。


「これは……もしも抜けても僕には扱えないね」


 ルークが謙遜でも何でもなく言う。その声には呆れさえ含まれているようだ。

 あまりの規格外に、ルークは緊張も何も吹き飛んだのだろう。「はやく終わらせて帰ろうか」と気負うこともなく両手で剣の柄を握り、動きを止めた。


「ルーク兄さま?」


「ルークさま?」


 異変を感じてルチアとノアが名を呼べば、ルークは振り向く。


「手が、くっついてしまったのだけど……」


 心底困った顔のルークに、ルチアが目を丸くしているあいだに、ノアが素早く動いた。


「両手ともにですか。引き剥がすことは。剣は抜けそうですか?」


 矢継ぎ早に聞かれて、ルークは「うーん、無理みたいだ」とますます眉を下げる。


「失礼します」


 ノアがルークの向かい側にまわり、柄の空いた部分を握りしめた。止める間も無く剣に触れたノアが、力の限りに剣を抜こうとする。


「……っく、そ! びくとも、しないっ!」


 拳を白くさせ、孤児院にいたころの口調がもれるほどに力を込めたらしいが、剣は抜けずルークの手も外れそうにない。


「どいてちょうだい。私がやってみるから」


「しかし、ルチアさま!」


「お告げは『双子の』勇者なのだもの。ふたりで力を合わせればいいのかもしれないでしょう」


 心配そうなノアの瞳を見つめ返したルチアが軽く言えば、ノアはしぶしぶその場から動く。彼の手は問題なく剣から離れるのに、ルークの両手は離れないらしい。


「……このような事象が起こるとは聞いておりません。もしもルチアさままで異常が起きた場合は、すぐにひとを呼びますからね」


「ええ。あなたがいてくれて良かったわ、ノア」


 眉を寄せたノアにほほえんで、ルチアはルークの手のうえに手のひらを重ねた。

 合図はいらない。ふたりで視線を交わして息を合わせて、腕を持ち上げる。


 音もなく、力を込めるまでもなく、勇者の剣はするりと抜けた。

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