2月2日
ツインテールの日
「ねぇ、今日って何の日か知ってる?」
部屋の隅から、雑音が聞こえた気がした。気のせいかな、気のせいだよなきっと。
「ねぇ。」
おっかしいなぁ…。空耳かな?
「ねぇねぇねぇねぇねぇねぇ…」
「ああもううるさい!」
振り向き様に消しゴムを投げつける。
「あ、やっとこっち向いた!」
彼女は僕の投擲を華麗に交わすと、嬉しそうに笑った。
「さっきから全然こっち向いてくれないんだもの。まったくも、君はひどい人間だなぁ。」
半笑いの顔で、ベッドの上にぽすんと飛び乗る彼女。
「で、何?」
「ん?何が?」
「だから、今日は何の日?って話。」
「ああ、それね。知りたい?」
俺は黙って回転椅子をくるりと戻して、机に向かった。
「ごめんごめんて、ちゃんと言うから。」
「いいよ、別に興味ないし。」
「そんな〜」
半分涙目の彼女が僕の方を揺さぶってきて仕方がないので、嫌々視線を戻す。
「じゃーん!」
彼女は両手を耳の後ろあたりまで持っていくと、二つにしばった黒髪をつんつんと指さした。
「正解は、ツインテールの日でした〜!」
「…ああ、2月2日だからって事か。」
「その通り!」
相当ご機嫌なのか、ステップを踏む彼女。やめてほしい、下の階の人から苦情を受けつけるのは、どうせ僕なんだから。
「それで、いつもはしない髪型をしていると。」
「うふふ、どう?可愛い?」
「ああうん、世界一かわいいよ」
「うわー、適当だなぁ…。」
俺の棒読みに彼女は白い目をこちらに向けた。
良いのかい?本気で褒めても。心の中でそっと呟いて、ベッドの上にいる彼女を見る。もう見せびらかすことで気がすんだのか、彼女は寝転がって漫画を読んでいた。いつもは背中に垂れ下がった黒髪が左右に分かれた事で、綺麗な白くて細い、透き通るようなうなじが見える。
そりゃ可愛いさ、だって俺の、彼女だもの。