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07ハズレ聖女は異世界で教師になる

「心眼の女神は建国神話にでてくる女神の一人で、初代国王の妻だったと伝えられています」

「うんうん、それで」


 書斎から居間に場所を移し、わたしはソファーに座りレン王子の話を聞いていた。テーブルの上にはいつの間にか、湯気をたてたお茶とお菓子が用意されている。グッジョブ!


「「初代国王は大国の末王子で、迫害され数人の部下と共に、この世の果てにある荒野になんとか逃れました。王子はそこで倒れていた女性を助けます。助けた女性は実は女神でした。自分も酷く弱っていたにも関わらず、人助けをした王子に女神は深く感動しました。荒れた土地を切り開き、雨を降らせ、一晩でそこに豊かな国を作り、王子にお礼にと贈りました。こうして王子は女神を妻にし、ライゼバルト国の初代国王となったのです」と、このように伝えられています」


「なるほど~。なんだか神話だけ聞くと「豊穣」のような力ですね」

 

 わたしはマフィンを頬張る手を止めて、お茶を飲み、思わず考え込んだ。心眼と豊穣がまだ自分の中で上手く結びつかなかったからだ。物事の真実の姿を見抜く、心の目、日本語の言葉通りの意味とは、やっぱり違うのかしら?、う~ん・・・。


「建国神話に出てくる「心眼の女神」は黒髪に黒い瞳をもった美しい女神だったと伝えられています。なんだかユノに似ていますよね」


 レン王子がわたしを見てにっこりと微笑む。わたしは思わずブフゥ~!とお茶を吹いた。相変わらず王子の中で、わたしはなぜか高評価のようだ。わたしは自分の価値より、遥かに高すぎる評価が恥ずかしくなり、モジモジと赤面した。


 うん、デブスは褒められ慣れてないからね。お世辞でも嬉しくなっちゃうし、こういうときどう対応していいかわからないのよ。あっ、元デブスだったわ。


「二つもスキルが目覚めたのには、きっと意味と繋がりがあると思うんです。一度、心眼の女神が祀られた神殿に行ってみるのはどうでしょう?」

「神殿ですか?」

「はい。なるべく早く行けるように手配するので、少しだけ待っていてください。それから一度、国王陛下に謁見が必要になると思います・・・」


 レン王子が済まなそうな顔でそう言ったので、わたしは「いいですよ」と即答した。きっと、私が王に会いたくないと思い、心配しているのだろう。王宮から出る手続きなど、いろいろと必要なのかもしれない。正直言うと、あの王には会いたくないが謁見ぐらいは仕方ない。



◇◇◇



「ねぇアメリ、本当にこの格好で謁見するの?」

「はい、顔はベールで隠すのが正式ですわユノ様」


 今日は謁見の日で、支度も整えてもらったわけだが・・・わたしは不安になって尋ねた。ダボっとした肌露出が少ない裾の長いドレスにローブ。ドレスの下には何枚も服を着せられたので、体が丸々としてとても重い。激痩せしてから、久しぶりに感じる体の重みだった。でも侍女のアメリが言うのだから問題ないのだろう・・・。


 顔も体もまったく肌が見えておらず、まるで完全武装のようで誰だかわからない・・・。そんなボリューミーなわたしを伴って、王宮の謁見の間へと入るレン王子。

 

「ん、聖女ユノ、そのほう少し痩せたか?。いや、気のせいか」


 挨拶を終えると、王がチラッと私をみた。だがすぐに興味を無くしたように目を剃らした。


 この格好は不敬ではないのかと思って心配したけど、杞憂だったみたいね。相変わらずこの王は、ハズレ聖女のわたしには興味がないようだった。わたしはレン王子が王と話している間、後方で跪き顔を下げ、じっと控えていた。


「今日は何用だ、教育係の件で話があると聞いたが。取り上げた教育係は返せぬぞ、あれは第一王子がとても気に入っておるのだ」

「いえ、そうではありません。代わりとして、聖女ユノ様を教育係とする許可を頂きたいのです」

「ハズレ聖女をか?」


 それを聞いた王は、可笑しそうに鼻で笑った。


「聖女を教育係にするなら、予定していた智の教育係、武の教育係は派遣せぬぞ。それから聖女ユノには教育係の給金は支払わぬ」

「はい、それでかまいません」


 え?わたし一人と教育係二人がトレードなの?、レン王子が損してるじゃん。わたしにそんな価値ないよ!?早まらないで~レン王子!。そう伝えたかったが、目の前で話はどんどん進んでいってしまう。


 というか何で、レン王子の教育係を奪った第一王子を叱らないのよ!。


「まぁ、いいだろう。どうせ誰も引き取り手のないハズレ聖女だ。聖女ユノを第三王子の教育係にすることを許可しよう」


 王はさっさと出ていけ、と言わんばかりに手を振ると、「教育係への賃金代も浮くしな」とボソッと呟いた。

「ありがとうございます国王陛下」と深々と頭を下げるレン王子。王のレン王子への冷遇を、目の当たりにしたわたしの心は憤っていた。



 ◇◇◇



 レン王子の屋敷へ戻り、わたしは普段着のワンピースに着替え、ホッと息を吐いた。完全武装のような謁見用の衣装を脱いだ体が軽い。居間の扉を開けると、ソファに腰かけたレン王子がとても嬉しそうな笑顔をわたしに向けた。


「これでユノは堂々と私の教育係として、一緒に王宮の外へ出ることができますよ」

「・・・」


 わたしはすぐに返事を返せずに、沈黙してしまった。


「勝手に決めてしまったことを怒っているんですか?王宮からの帰り道もずっと黙ってましたし・・・」

「あっ、教育係は王宮図書館にも入れるようになりますよ」


 わたしが黙っているのを、怒っていると勘違いしたのだろう。レン王子は不安そうな顔になり、オロオロしながら、教育係の利点を一生懸命に説明し始めた。


「怒ってなんかいませんよ。むしろ心配しています、あんな不利な取引をするなんて」

「よかったぁ、ユノに嫌われたらどうしようかと・・・」

 心底、ホッとした表情になるレン王子。


 レン王子に怒ることなんて、きっとこの先もない、感謝しかないよ。でも心配になってしまったのだ。この心優しい王子は、この王宮にいたら虐げられ喰らい尽くされてしまうんじゃないかと・・・


「聖女がお一人で王宮から外出する許可は下りないのです、その・・・ユノはまだ私の婚約者ではないので」


 レン王子の声が段々小さくなっていく。その、以降の、後半が聞き取れなかったけど、教育係にした理由はわかり納得した。


 ああ、保護者的なものね。聖女マユリには第二王子が、聖女アイカには第一王子がいる。聖女たちの保護者であり、何かあったときに責任を取る者が必要なのだろう。だから教育係にすることで、わたしの立場守ろうと考えてくれた。いやレン王子のことだからきっと、わたしが失ったものを取り戻そうと奔走してくれたに違いない。


 ・・・先生になる夢は召喚と同時に失ったと思っていた。


 学校にはいい思い出なんかない。保健室以外に居場所がなかったデブが、学校という戦場を職場に選んだのは、自分と同じような目にあっている子たちの、セーフティネットになりたかったからだ。せめて肉布団ぐらいには。


「では改めてお願いします、私の先生になってくれませんかユノ?」


 レン王子がまるでエスコートするように、その手を差し出した。


「はい、喜んで」


 レン王子の心遣いが嬉しかったので、茶化すことなく素直に頷いて、その手を取った。


 この異世界で、『避けられない悪意』とのデブなりの戦い方を、レン王子に教えよう!わたしはこの日、そう決意した。

ここまでお読みくださりありがとうございました。

☆誤字脱字報告をありがとうございました。このような機能があるんですね(〃ノωノ)、早速修正させて頂きました。

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